第15話 エルハルトの結婚相手
「殿下、陛下のご指示は理解しましたが実行には時間がかかります。ですから私は、並行してヴァルトラントの喫緊の課題にも手を打つべきだとおもいます」
「大使、課題とは」
「お金の問題ですよ」「大使、我が国の現金収入を増やすことができればそれに越したことはないですが、それにしたって今年はもう冬がやってきますし、新しい産業を起こそうにもそれなりに時間がかかりますが」
「ええ、これはもう、賠償金の支払いを待ってもらうしか無いと私は思っております」
「それは陛下からのご指示にありましたか?」
「いえ、ありません。ですがもう、それくらいしか手がないと私は考えております」
「帝国からの借金の方は」
「こちらは絶対に待ってくれないでしょう、帝国が我が国を飲み込む道具ですから」
「では借金の借り換えは?」
「ヴァルトラント商人にその余力は無く、帝国商人は皇帝が許さないでしょう」
「それもそうですね、ではノルトラント商人から借りるというのは」
「毎年の返済額程度なら貸してくれるかもしれませんが、帝国の妨害もあり得ます。ただ借り換えとなると、帝国の心証が悪くなるのは間違いないでしょう」
「なるほど、帝国を刺激しないように、お金の問題を解決したいわけですね」
「殿下、解決というより先延ばしですよ」
「そうですね、それでもやらないわけにはいかないですね」
「はい、陛下には殿下からこのこと、お伝えいただけませんか」
「わかりました。ただ文書だとどこから漏れるかわかりませんから、次の帰国までは無理ですね」
「そうですね、それと並行して、この賠償金のことについては殿下にもご協力いただきたいのです」
「どうすればよいですか」
「大聖女様のお仲間に、我が国の正確な状況をお伝えいただけないでしょうか」
「それは先日ノルトラントに戻った際、大聖女様にお伝えしましたが」
「そうですか、ですがもう一押しがほしいですね。具体的には、フィリップ氏をこちらの味方につけたいところです」
「大使はフィリップ氏とお会いになるのは難しいですか」
「はい、フィリップ氏が大聖女様のブレインであることは知られすぎています。私が接触するのは危険でしょう」
「わかりました、では私はヘレンさんにお話しようと思います」
「フィリップ氏の奥様ですね」
「失礼ながらフィリップ殿は、恐妻家として知られていますから」
「ヘレンさんに言ったらだめですよ」
「もちろんです、殿下」
私にはマクシミリアン大使に頼みたいことがもう一つあった。
「大使、陛下からのお手紙にもあるかもしれませんが、私の結婚相手をできればノルトラントから探せないでしょうか」
「ええ、ありますが、こちらはなかなか難しいでしょうね」
「でしょうね、ちょうど良いお歳の方はみな、婚約者がいらっしゃるでしょうから」
「ええ、ですからちょっと、範囲は広めでご容赦いただけないでしょうか」
「はい、私個人の意見としてですが、お年を召したかたであっても、逆にお若すぎる方であっても私はかまいません。両国の橋渡しになれれば、私はそれでよいのです。もちろん後妻でもかまいません」
「殿下」
「はい」
「この事に関しましてはこのマクシミリアン、なんとしてもご良縁を探し出します故、お時間だけご容赦ください」
「ありがとうございます。ですが国のことを考えれば、早いことに越したことはありませんので」
「ですが、殿下」
「とにかく私は、大使のお選びになる方に異存は申しませんから」
「は、はい、殿下、恐縮です」
私は少し、話題を変えることにした。
「そう言えばマクシミリアン殿、ステラ姫殿下とお会いになられたことは?」
「お披露目の際、遠くからですが」
「そうですか、ステラ姫殿下のご縁談について、なにか情報はございませんか」
「お健やかにお育ちだとしか、殿下」
「ではどうですか、エルハルトのお嫁さんに」
私は少し冗談めかして言ってみた。
「いえいえ、こんどやっと3歳ですよ」
「だからこそ、どこかの国が手を伸ばす前にと考えるのですが」
「それは我が国にとっては願ってもないことですが、失礼ですが殿下、エルハルト殿下とお歳の差が10ほどもあるのではないですか」
「男のほうが歳上ですから問題ないでしょう、それにこの程度の年齢差、王家同士であれば別に珍しくもないでしょう」
「そうですが殿下」
「おっしゃりたいことは理解しています、マクシミリアン殿。ですが私の結婚相手としてノルトラントの王子様が見込めないのであれば、考えておいたほうがよいのではないのですか」
「ええ、そうですが」
「将来の話として、それとなく打診できないでしょうか」
「それとなく、ですか」
大使の反応は、外交の場でそのような話などできる雰囲気ではないように思われた。
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