第2話 

甘いシャンプーの香りが絢の頭をよそに漂ってくる。もう何度目だろうか。裸体で互いの感じる耳や股を刺激しながら身体を重ねるのは。

行為は止み、ぐったりと同じ向きのまま白い天井を眺める。

「………ねえ。カナエ。」

「ん?」

「今日って12月4日?」

「え?うーん。ちょっと待って。」

半分身体を起こして壁に掛けてあるA4サイズのカレンダーを見る。

「うん。土曜日だから合ってるよ。」

「そう。……じゃあ私達今日で付き合って199日目だね。」

「えっ。」

きっちり1日数え覚えていたのはある意味狂気的だ。そんな人とは外れるぶっ飛んだ感性があるのも絢らしい。

「早いものねえ。」

「うん。」

「夢の大学生活もあと4ヶ月弱すれば終わりかあ。」

「そうだね。」

「あーあ。結局碌に就活しなかったよー。」

「まあいいんじゃない?ゲームセンターのバイトがそれだけ好きなんでしょ?」

「まあね。みんないい人だし。だからって今のバイトだけじゃ今後食ってけないよ。返さなきゃいけない奨学金もあるんだし。」

「うーん。でも貯蓄はしてたんだよね?」

「あっ。そうだった。確か一切使ってない口座にバイト代入れてたんだった。」

「え、すごい。ってか今までの家賃とか食費はどうしてたの?じゃないと今生きてないじゃん?」

「あーー。そこは親が何とかしてくれた。『とりあえず大学は卒業しろー』ってうるさくてさ。」

「あはは。優しいんだね。」

「まあその分過保護だけど。」

「いいじゃん。私なんかほぼ放置プレイだよ。」

「いいーなあ。」

「…とはいえ卒業したら私も苦労三昧だわ。まさか全社内定取り消されるなんて。ちょっとびっくり。」

「ああ。カナエの場合は仕方ないよ。偶然5社とも実は経営危機に瀕していたんだから。それを知らずに入社してた方がもっとダメージ大きかったはずだし。」

「うーん。そうだけど。今から就活してもブラックだらけだしなあ。私もいっそのこと絢のバイト先で働く?正社員で。」

「いやー。やめといた方が良いよ。人手不足過ぎて有給取って貰えないから。下手したら他のバイト生急遽休んでその空白いきなり埋められるよ?」

「じゃあやめとくわ。」

「ならどうするの?」

「うーーーーーーーーーん。………もう一度漫画家目指してみるかなあ。」

「おっ。久々に漫画描いてみるの?」

「うん。というか最近ずっと家で描いてる。タブレットだから目には気をつけているけど。」

「ふーん。ま、きっちりバイトして自分で学費や家賃を払ってるカナエならなれるよ。」

「ありがとう。まずはアシスタントにならなきゃね。……明日〇〇さんの出版社に寄って聞こうかな?」

「ふふ。流石カナエ。さてと、そろそろ風呂沸くから入りますかあ。」

ガバッと布団を上げて私の手を繋ぐ。

「では、憩いの湯へ。」

「ええ。私の家だからいつも通りなんだけど。」

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