Ep.2 青春の終わりと靴下の謎(捜査編)

「うーん、階段にもないね……」

「あっ、えっ……ちょっ……えっ?」


 僕の階段の上を歩いてほしくないと鼻を抑えていく。油断していると興奮して鼻血が飛びそうだ。

 危険すぎる、この捜査。

 何故か白色の下着が見えてしまうのだ。確かスカートの下にはズボンが履いているはず。いや、違うのかと今までの認識を変えてしまう程だ。


「どうしたの?」


 少し大きく開いている距離。近づかれたら、たまらない。今の鮮明な目で。


「いや、あの……ちょっと待って。いつの間に学校の校則とか変わった? 変更あった?」

「んなの、ないない。幾ら入院している期間があったからって、そんな変わることないよ」


 となると、どうなのか。

 つまるところ、目の前にただただズボンを履いていない人がいるとの事実。


「履き忘れ……?」

「忘れた? 何を?」

「いやだから、スカートの下を……」

「いや、スカートは忘れてないよー」

「……いや、その下!」


 やっと指摘に気が付いてくれたようで。


「ああ、それ! 元々無かったよー!」


 ホッとしたのも束の間。彼女は顔をマリンブルーに変色させていく。


「何で!? 何で何で何で履いてないの!? 何でー!?」


 学校に残っている二年生も集まってきたため、彼女を階段の下へ来るよう指示をする。さっさと降りて来いと。


「下へ来てくれ!」

「……ちょ、ちょっと見ないでよー!」

「わ、分かった。階段から離れるから……!」


 離れても、もう下着が頭から離れてはくれない。どうしてくれるのかと。

 困ったものと頭を抱えつつも、集まる生徒達から逃げていく。そして、階段以外の廊下も歩いていく。


「取り敢えず、廊下は全部見たよね」


 何事もなかったかのように振る舞った彼女。品行方正な彼女の姿がもうほぼ壊れかけているような気もするけれど。

 彼女は酷く落ち着いている。ただ一つの心配を除いて。


「で……どうしよう? このままじゃ、見当たらない……はっ、もしかして誰かが拾って落とし物として……?」


 落とし物だったら良いのだが。


「もう捨てられてるんじゃないのかな?」

「そ、それだったらいいかな?」

「でも、職員室で聞いてみるしかないか。何か特徴とかある?」


 一応、落とし物のところを見てみようと伝えていく。ただ、何だか彼女は行きたくないようで。


「ちょ、ちょっとハート柄で派手な奴だから……先生に怒られちゃうかも」

「今更……もうそんな怒ることでもないだろ……」

「じゃ、じゃあ……」


 彼女は鞄からほいっと出したのがチョコだった。僕の口に苦くもほんのり甘いチョコが入ってくる。体の中が甘くなって、癒されていく。


「こ、これで共犯者だね」

「何で僕を共犯者にする必要があるの?」

「ま、ま、まぁ。何があっても靴下の秘密は口外しないこと! あの靴下はたまたま間違って持ってきちゃったものって言ってね! そうするとこのこと言っちゃうからね」

「死なばもろともな作戦はやめなさいっ!」


 誰も他にはいないことを彼女は再確認して動いていく。ささっと僕に隠れていく。

 まさか、柴内さんの意外なところが知れるとは。中学の三年間の中で知れていたら、どれだけ良かったか。素敵なあの人の意外な一面、どれだけ優越感を持つことができたのだろうか。

 考えながら職員室を探すも靴下と言われる落とし物は他になかった。

 他に落とし物を集めるところがあるだろうかと思考する。学校内での落とし物をわざわざ交番まで届ける人はいないはず。


「後はたまたま靴か何かに飛んでって、外へと飛んでっちゃったって可能性もあるか」


 そこから行ける場所があるか。

 彼女は閃いたように口にした。


「そうだっ! 外! 警備員さんの部屋があったよ!? そこで拾ってもらってたら……」


 一応、この学園には警備員がいる。その人に渡すことは不思議ではないだろう。


「そっちに行ってみるか」

「そ、そだねー……外まで行っちゃってるかぁ」

「まぁ、帰ったら捨てるんだし」


 捨てるものならいいはずだが。何だか浮かない様子。

 校庭の倉庫に連なる場所に警備員の控室がある。そこへと僕達は向かっていく。最後の希望と言えようが。

 窓際に洗濯ばさみに挟まれた、それがあった。


「あっ、私の……!」

「良かったな。警備員さんに行ってお願いしてくるよ」

「あ、ありがとう。でも警備員さんなら見逃してくれると思うし」


 その会話と共に警備員の控室に入っていく。

 中に誰もいない。中でハッとした。すぐ、柴内さんは中にあった芳香剤を手に取り、僕に拭きかけた。


「フローラルシトラスな香り……これ使って見たかったんだ!」

「ぐはっ!?」


 何故、中にあるものを思い切り掛けられた。そう思ったが、中の液体が出てこない。


「あれ、どうやらまだ新品だったみたいー。他のもないかぁ……」


 その芳香剤を置いてから、また彼女が喋り出す。


「まぁまぁ、早く持って行って帰ろっ!」

「あっ、うん……」


 最中、後ろから気配。


「誰だ……!?」


 僕達が振り返った途端、会ったのは初老の男。普段よく見る警備員のおじさんだ。そんな彼に対し、すぐ彼女は告げる。


「……す、すみません。あの靴下、この人が落としたもので」


 僕のせいにしたと。僕は彼女を睨みつけるも何の変化もなし。警備員の方は勢いに負けたのか、少々顔が固まっている。


「あっ、ああ……? そりゃあ、良かった。でも卒業間近だからってはしゃぎすぎないように、だな。チョコの匂いもするな……お菓子を持ってきてるだろう」


 そう言って、彼女は何もついていない口元を拭きとった。どうやら食べかすが付いたままだと思ったのだろう。僕も鏡を見て確かめるも問題ないよう。


「さっ、早く持って帰って明日の卒業式に備えるんだな」


 彼女はすぐにカーテンを閉めて、外に靴下が見えないようにする。それから、靴下を取ろうとしたところだ。

 僕は思わず声が出た。


「待って」

「えっ? 早く持って帰りたいんだけど……ダメかなぁ?」

「いや、そうじゃなくって……」

「そうじゃなくって……?」

「指紋が付いちゃうとまずいから」

「ん?」


 警備員も柴内さんも固まっている。

 発言をした僕ですらも、だ。


「どういうことだ……?」

「何で何で?」


 二人に詰められ、僕は一回意気消沈しそうになるも。

 しかし、言わない訳にはいかない話なのだ。このままだと危害が及ぶのは僕だけではない。


「……アンタ……彼女を襲おうとしてたろ?」

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