令嬢KICK 〜異世界転生がキツすぎたのでグレてみました〜

氵の衣編

第1話  転生先がつらすぎる


 私は坂鎌陽菜(さかかま ひな)、中3だ。

 趣味は音ゲー、アニメ鑑賞、二度寝。しかし、悟られるわけにはいかない。


 なぜなら、私は「高嶺の花」だから。


 今日も学校は平和だ。本当はまじで眠いし授業中とか暇すぎて落書きしまくりたい……。だる。けれど、もちろんそんなことは許されない。


 なぜなら、私は「優等生」だから……!


 背伸びして八方美人、何が悪いというのか?私は「私」であるために努力をしている。何もせず、ダラダラと陰口を叩くでも、男を連れて遊びに行くでもない。

 私は見合った努力をしている。

 亡くなった、父のためにも。



「坂鎌〜、ちょっと」


「……はい!」

 先生と話していると、表情筋が引きつる。



 数十分後、セクハラ時代錯誤長話からやっと解放された。

 帰ったら何をしようか。


 あ、イベント!あと残り15日だ……やばい、ジェム足りないよぉ〜、でも試験勉強が…


「ーー次は中井戸です。バスが止まるまで……」


 そんなことを考えながらぼーっと外を眺めていた、その時だった。


 ギギーッ、グシャッ


「……ぇ……」


 金属が重く引っ掻かれる音が聞こえたかと思うと、目の前が赤くなり、父の遺影が見えた……


 まだ、イベントガチャ回してないよ……


「……死ね…な……」





「ぁあ"っ!!」


 ガバっと起き上がり、バクバクする心臓が苦しくて、思わず顔をしかめる。


「死ぬっ!てか、死んだ!!」


 息を必死に落ち着かせ、目がギンギンになりながら周りを見渡す。

 案外上品な部屋に、彫刻された天井、なにより天蓋のようなものがついたベット、あるいは…


「なんか臭ぇ……」


 生ごみとハウスダストの塊を牛乳に突っ込んだような匂いがして、死ぬ気で鼻をつまむ。

 結構、適切な表現だと自負するよ、神様……


 ここが天国か、などとぼやいていると、遠く離れたドアらしきものがノックされた。


 ばっと構えると、なにやら弱々しい声が聞こえた。


「アリスお嬢様、お、お食事が整いました…」


 おかしいな、天国だよなぁ。

 ぽかんと目を擦る。


 すると、また丁寧にノックをされた。


「あ、アリスお嬢様……?失礼します…」


 私は毛が逆立って、ガバっと反射的に布団をかぶる。

 心拍数やばい…ホラーゲームだろ、これ…!ワンチャン地獄…!?


「お嬢様…お目覚めくださいませ…」


 弱々しく揺すられる感覚に怯えながら、顔を上げた。


「おはようございます、お嬢様…」


「金髪!?……いや…て、天使だもんね、そりゃ金髪だわ、うん」


 口元に手を当てて、何度も頷く。

 サ〇ゼにも飾ってあるように、天使ならば金髪なのがノーマルなのかもしれない。


「お嬢様…??」


 じっくり見てみると、レースのついたエプロンのようなものを着ていて、おそらく同い年くらいだろうか、天使にしては妥当な顔立ちだ。

 私なんかよりも、ずっと元がいい。


 彼女は目をくるくるさせながらも、私の布団を勢いよく剥いだ。


「お食事でございます…ご主人様方がお待ちですよ…」


 ……????


「すみません、あの、ご主人…って…?」


「へっ????」


「????」

 

 数秒目を見合わせて、彼女は口を開いたとたん泣き喚いた。


「…うわ〜!ミセス様ぁ…!!」


「えっ?すみません、ちょっと!」


 呼び止めようと声を上げたが、彼女は早足で走り去ってしまった。

 その瞬間、脳裏にヲタクの勘がよぎった…!


 ーー考えたくもないが、彼女はいわゆる「メイド」なのでは…??


 テーン……


 いや、待て待て!そんな現実的じゃないこと、あっていいわけないでしょ!

 しかし、ほっぺを叩けば叩くほど、私の頭はそれしか考えられなくなった。


 もしや、この世界は巷で言う異世界で、「バスの中で死ぬ」というくっそ微妙なフラグ回収によって、中途半端にヴィクトリア朝モデルの世界に来てしまったのでは……?


 ベットの縁に座り直して、キラッと見えた鏡に駆け寄る。


「なっ……誰よ……!」


 驚きながらも、案の定、ホッとした。


 間違いない、これは転生だ…!だって陽菜、純日本人だもの!どんだけ金かけていいブリーチしても、こんな痛みもしてないハイトーン金髪になるわけないもん!!


 その時、ガヤガヤとした声とともに、部屋の扉が開いた…!


「お嬢様!!」


「ひゃい!」

 

 大きな声にビクッと震え、また恐る恐る振り返る。


 すると、なにやら大勢のメイドと、明らかに「ミセス」と呼ばれていそうな女性が仁王立ちしていた。


「アリスお嬢様……」


 今度こそ血の気が引いて、ごくっと息を呑み構える。


「心配でございますぅ〜!ぐすっ…どうしてお嬢様が〜!うわぁ〜」


「……へ?」

 

 「ミセス」は私の足元に抱きついて、わんわんと泣いた。


「今、お医者様をお呼びいたしましたから〜…!」


 すると、バンッとものごい音がし、顔を上げると、公爵のような男と幼稚園くらいの可愛い女の子、扇子を持った淑女が来た!


「アリースッ!」


「アリスおねえさまっ!」


「アリスちゃん!」


 そして、みんなして涙を浮かべ私の顔を見上げる。

 


「いや登場の仕方アベンジャーズなのよ!うざったらしいなぁ!」

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