闇の松本と光の佐藤さん
スクレ
第1話
皆さんはご存じだろうか。日本全国に在住する松本さんは数多いけれども、100年に一人に確率で闇を操るレア松本さんが誕生するということを。
僕の名前は松本夕夜。僕こそがその100年に一人誕生すると言われる、闇を操ることが出来る松本さんなのだ。あらかじめ言っておくが中二病ではない、 絶対に。
闇を操ると言われてもピンとこないと思うし、闇ってそもそも何だよってツッコみたいかもしれない。しかし深く考えずに感じてくれ、僕はおよそみんなが闇に連想する様々な概念を操ることが出来る。
例えば天候。どんよりとした黒い雨雲で空が覆われていることってあるだろ? 僕がその気になれば、その雨雲を散らして太陽を呼び込むことが出来る。ただし、薄暗い曇り程度の天気じゃ力は使えない。どんよりとした真っ暗な雲でないと。
他にも例えば夜。まさしく闇と言えるような真っ暗な時間、僕が念じればあっという間に時間が消し飛んだように朝日が差し込んでしまう。
ちなみにこれは迂闊にやってはいけない。一度試しに夜を朝に変えた時、一睡もしてないのに通学しなければならず、眠気に負けて授業中に寝てしまってしこたま怒られた。しかも僕以外の人は一瞬でやってきた朝に何の違和感も抱いてないというのだから不思議だ。
他にこんな使い方もある。みんなはドラマやニュースでこんなフレーズを耳にしたことはあるだろう?
『真相は闇の中だ』
これはまさしく比喩的表現だけど、こういう闇も僕は操ることが出来る。みんなが知らないだけで、世の中には未解決事件や捜査はしていても長年進展のない事件というのがたくさんある。
僕は学生だけど、実はこういった事件の解決を手伝うこともあるのだ。といっても探偵のように推理するのではなく、僕が頭の中で『闇よ、晴れろ!』と念じるだけで、今まで見つからなかった事件の手がかりが不思議と見つかりだすのだ。
ざっと挙げたけどこんな感じで闇を操るというのがどういうことかわかってもらえたと思う。それなりに役立つ力だがデメリットも存在する。力を使うたびに僕の顔色がとても悪くなるのだ。
昔の僕は自分の見た目を普通だと思っていたけど、今では鏡を見るたびに「何だこの陰キャは」と思うくらい顔色が悪い。しかもどれだけ睡眠を沢山とり健康的な食事を繰り返しても全く良くならないのだ。僕はもう一生この色の悪い顔と付き合っていかなければならない。
そんな僕だが、クラスに一人苦手な女子がいる。名前を佐藤さんという。佐藤さんはクラスのムードメーカーで、いつも明るく元気でちょっぴりドジだが前向きな、まさしく陽キャと言えるべき存在。僕は心の中で彼女のことを『光の佐藤さん』と呼んでいる。
そんな彼女はクラスメイトの陰キャである僕にも分け隔てなく話しかけてくれる。が、僕は彼女の光のオーラが苦手なので、いつもまともに話すことが出来ない。
この日も彼女はいつも通り何気なく声をかけてくれただけなのだろう。しかし、それは僕の人生ががらりと変わった日になった。
「松本くん今日も顔色悪いね〜。前髪も長くてより悪く見えるよ、まるで暗黒だよ暗黒!」
「ほ、ほっといてよ。顔色悪いのは生まれつきかも、だし」
人が気にしてるのにこの陽キャは……。
「そうだ、おまじないしてあげる。松本くんの顔が良くなるおまじない!」
その言い方やめろっ。それだと僕がまるで不細工みたいじゃないか。僕は顔色以外は普通なんだ!
「ほっといてって言ってるだろう」
「いいからちょっとだけ!ほらこのスマホのライトを見ててね~」
まったくうるさい。さっさと終わらせてどこかに行ってもらおう。
「じゃあそのままだよ。3、2、1、ピカーっと」
その瞬間、少し眩しい程度だったスマホのライトが目を貫くほどの光を放った。僕は思わず両手で目をふさいで呻いていた。
「ああぁぁあぁ、目が、目がぁぁぁあ!!」
「じゃあね松本くん、目が慣れたら鏡見てみるといいよ!」などと言い残して、佐藤さんは謝罪もなく立ち去って行った。
「クソっ、あのクソ陽キャめ。たちの悪いいたずら仕掛けやがってっ」
トイレ休憩時に僕は鏡を見ることにした。佐藤さんの言いなりになるのは癪だけど、目の具合とか一応確かめておきたかった。そして、僕は鏡を見て驚愕した。度重なる闇の操作で目の下はパンダと言えるくらいにクマがあり、肌全体がまさしく闇のようにくすんでいた僕の顔は、以前のような健康的な白い少年らしい顔色に戻っていた。
「佐藤さんのおまじないって……」
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