パーティーを追い出された武闘家が婚約破棄された令嬢と出会った話

もおきんるい

ふたりでぶらぶら旅してたらラブラブになった。




Aランク冒険者のパーティー『ワイルドブルー』・・ダサいが子供ガキの時にみんなで考えた名前・・から俺は追い出された。


幼馴染で固まってパーティーを組んで、4年。結構早い出世だった。


剣士のディック、魔術師のクゥワント、回復術も使える双剣使いのピッピ、そして武闘家の俺、リューズ。



「役立たずのお前は辞めてもらう」


いきなり?いや、兆候はあったな。でもガキの頃からの幼馴染を追い出すとか。

俺なんか武器も安上がりだし、色々便利役もしてたんだけどなぁ・・

長い付き合いだったんだがなぁ・・・はぁ・・特大の溜息だよ。



最近3人に避けられてるなぁ、とは思っていたんだ。

なんかやらかしたか?とか思っていたんだけど・・どうやら目を付けていた新メンバーが入ってくれると返事をもらったんだとさ。で、お役御免。


まあ武闘家なんて舐められるよなぁ。ドラゴンとかと闘う時なんか、パワーないとか思われちゃうみたいだし?いやいやいや!!俺はすっごく速いんだ。で、瞬殺するからみんな俺が攻撃した所、見てないんでやんの。


気心知れた仲間だったんだけどなぁ・・あっさりしたもんよ、金の切れ目というか・・

もうすぐSランクに上がれるから、もっと強いメンバーを入れるってさ。

ああ、そうかよ!!Sランクになればいいじゃねーか!!


こうして俺たちの友情は終わったんだ。








「もう!!貴方、ちゃんと運んでくださらない?」


キンキン声のお嬢様を、俺はお姫様抱っこして対岸の川岸まで運んでいる。

浅い川だが幅が20メートルくらいある。ざぶざぶと歩いていると、


「きゃあ!!水が跳ねたわ!!濡れちゃうじゃない!!コレはセンジュ製の高級シルクなのよ!」


このキンキンお嬢様は、なんたら・・・とかいう、まあお貴族様のご令嬢らしい。

すぐ別れるんで、名前なんか覚えるのも面倒。

馬車の車輪が外れ、修理している所に俺が通り掛かって、


「川向こうのなんたら邸とかいうところに送って欲しい。このままではパーティーに遅れる」


とかで、仕方無いから護衛として送っていく事になった。

そこから建物が見えるし、まあ人助けもいいか、なんて気楽に引き受けたら!

なんか橋が落ちてるんだよ・・・え?川を渡れって?代金上乗せする?仕方ねぇなぁ・・


「きゃあ!揺れる!!川に落とさないで!!」


「落とさねぇって。俺にしっかり掴まっててくれ。っだぁ!!揺らすな!!」


「なんかお尻部分、濡れてる気がするのですけど!!」


「え?本当?」


手で撫でてみる。


「濡れてねーぞ」


あれ?顔真っ赤・・・あ!!俺しれっと触っちゃったぞ!


「この無礼者無礼者!!」


どこにしまっていたのか、扇子でパシッパシッと頭を叩かれる。


「す、すまん!でもあまり暴れるんじゃねえ!!マジ落とすぞ!!」


「レオオレオ様を待たせるわけにはいかないのよ!早く渡って!」


「変な名前だな。何そのレオレオレオって」


「レオオレオ様!私の婚約者で、公爵家の嫡男なの!」


「ほお、それはそれは」


うちのパーティー名よりヘンテコな名だな。性格捻くれなかったのかな。俺なら捻る。

お嬢様の婚約者が待ってるんじゃ、急がなくちゃな。



何とか渡り、俺は太腿半分の部分まで濡れた格好で、そのままお嬢様を抱っこしたまま進む。

川縁に建てられた大豪邸のエントランスまで歩き、到着。

降ろしたお嬢様は俺のずぶ濡れな格好を見て、


「まあ、すごい格好ね。私の侍女が先に来ているの。代金を用意する次いでに服も用意するから着替えなさい」


この邸宅は勝手知ったるようで、お嬢様はズンズン奥に入っていく。

階段を上がったところで一人の女性が現れた。


「まあ!エクセレンお嬢様!御髪が乱れて!」


この人が侍女なんだな。お?俺をなんか嫌な目で見ているぞ。まあ、この格好だからな。


「この冒険者リューズに、馬車の車輪が外れて立ち往生してた所をここまで送ってもらったのよ。。彼に護衛代金を渡してちょうだい。それと、何か服を出して差し上げて」


「はい、エクセレンお嬢様」


侍女は静々とお嬢様と部屋に入っていくと、荷物を抱えて戻ってきた。


「では、代金です。お嬢様を運んでくださって、感謝します。そうだ、今からパーティーなので、こっそり何か食べていくと良いですよ。この服なら混ざっても大丈夫だと思いますから」


ちょっと貴族っぽい服を手渡され、俺は更衣室で着替える。さすが公爵家、櫛とかミストなど化粧品もあるな。

体を洗い、洗面で髪を整えてミストで匂いを抑える。

うん、なんか貴族っぽい感じ。

代金ももらったし、もう用はないが、侍女さんも言ってたし飯でも食っていくか。


俺は豪華絢爛な大ホールに用意されたブッフェを、ちょいちょい摘んでパクついていると、なんか騒がしくなって。

いままでも賑やかだったが、一際大声で誰かが何か叫んでいるようだ。

何となく気になって人を掻き分けて進むと・・


ホール中央で、先程のお嬢様と男性が睨み合っているではないか。

で、男性の隣には女性が寄り添っている。


「お前にはほとほと愛想が尽きた!チーサを攻撃するとは!私にすればいいだろう!」


「私はそのようなことはしていません!何故私よりもその女の言葉を信じるのですか!」


「チーサから聞いているぞ!散々嫌がらせをされていると!しかも罪を認めないとは!」


アレがレオレオレオか。で、浮気したんだ。そういう事だね?婚約してるんだよね?

女も相手がいる男に手を出すって。ありえん。

・・とか軽蔑の目で俺は見ていると、うん、ここにいる大半が、侮蔑と失笑だし。

当然あの男と女に対してだよ!

ああ、お嬢様。顔が真っ青で、震えている。目も潤んで・・


「お前とは婚約破棄だ!!とっととここから出て行け!!」


俺は・・体が知らないうちに動いて。

お嬢様の手を掴んで、引っ張って行き、エントランスを出た。

ズンズン歩いて行くと、後ろから侍女さんの声がしたが無視をして進む。

お嬢様は何も言わず、すんすんと鼻を啜っている。でもあんまり早く歩いたから、彼女の身体が傾いた。


「あ」


「おっと」


俺はそれに気付いて、お嬢様をひょいと抱え、先程のようにお姫様抱っこをした。

お嬢様の顔が間近。やっぱり泣いていた。彼女をギュッと抱きしめ、


「あんな馬鹿は放っておけ。君の価値が分からない奴なんか」


俺は生まれて彼女いない歴年齢だ。婚約者がいるなんて羨ましい。

未来の嫁が確定している幸運を無下にする阿呆は、呪われてしまえば良い。

こんなに綺麗なお嬢様じゃないか・・・しかもお前を好いているのに、浮気とか。死ね。


俺はふたたび川を渡り、お嬢様の家の馬車まで運んだ。車輪は直っていたから、家に帰れる。


「お嬢様。うちに帰って婚約破棄をさっさとしなさい。貴方のためですよ」


そう告げると俺はまた川を渡った。元々こっち方向に行く予定だったのだから。



川を渡り終えて元々着ていた服に着替えると、先ほど借りた服はさっさと捨てて、予定の街に向かった。








「リューズ、はい、回復」


ぽわっと優しい光が傷口を塞ぐ。


「ありがとう、その・・・エクセレンおじょ「エクセレンで良いわよ」



今俺は一人では無く・・お嬢様・・エクセレンと冒険をしている。

どうしてこうなった・・




馬車に置いてきたお嬢様は、俺が着ていた服の特徴を覚えてて、ギルドに問い合わせたのだ。

俺のような武闘家は数が少ないから、あっさり判明されてしまった。

彼女は回復も攻撃もマルチな魔術師で、すごく優秀だった。

彼女のご両親である侯爵夫妻は、


「婚約破棄の噂がある間は、家にいない方が煩わしくないだろう。リューズ君、娘の護衛を頼む。娘はとても優秀だよ。あの馬鹿息子には勿体無い。では行っておいで」


と、頼まれてしまったんだ。お金も篦棒な額貰ってしまったんだ。しかもアイテム袋(謎)も借りたんだ。


「リューズ、今度はどこに行くの?」


「この先に蕎麦が旨い店がある」


「お蕎麦!食べてみたかったの!」


庶民の料理だからな、お蕎麦は。良いさ、楽しもうじゃないか。

君の心が晴れるまで、俺は時間の制約も無いし付き合ってやるよ。


ああ、君が笑うとなんて胸が熱くなるんだろう。

ま、お貴族様とただの平民の俺と、どうこうなれるとは思っちゃいないさ。


だから今は二人でぶらぶら、あちこち旅をしよう。




二人の旅は楽しい。


途中であほ元婚約者が追っかけて来たり。


元パーティー連中がチョッカイ掛けてきたり。


ギルドの依頼でぎゃあぎゃあ叫びながら森を駆け回って、魔物から逃げたり。


急に寒くなって、二人で肩寄せ合ったり。


喧嘩をして、俺が結局先に謝ったり。俺は悪くなかったんだが・・・


旨いものがあると聞いたら、二人で走って店に突入したり。


老婆の家に泊めてもらって、お礼にエクセレンが素晴らしい美声で歌ったり。


魚を釣っていて、エクセレンが滑って溺れそうになって、ぐったりする彼女に・・人工呼吸・・死んだらどうしよう、本当に心配した。

目を覚ました彼女を、抱き締めて・・



いつしか俺と彼女は手を繋いで旅を続けて・・



そのうちベッドも一緒にしてた。




俺はレベル上限を突破することが出来て、ドラゴンを倒せるようになって。


ドラゴンスレイヤーと呼ばれるようになって。




そしてエクセレンの両親が住む国で、エンシェントドラゴンを倒し、爵位を貰って。


俺はエクセレンにプロポーズしたんだ。



「やっとね」


エクセレンは嬉しそうに微笑んで。


「待たせた」


彼女に本当申し訳なかった。婚期かなり過ぎてたし。

二人で旅に出て、6年が過ぎていたから。



彼女の家に帰ると、侯爵夫妻に怒られた。


「1〜2年と思ったら6年とか」


夫妻は俺たちが帰ってきたら、俺をどこかの貴族家に養子にしてエクセレンの婿にしようと考えていたようで。

俺たちは侯爵家の持っていた子爵家を頂いて暮らすことになった。




初めての子供の妊娠が分かってからは産まれるまで大慌て、生まれてからは更に大騒ぎ、彼女の母親そして侍女を巻き込んで毎日がてんやわんや。



けれど2番目、3番目は二人とも慣れて。



家の中が賑やかで、楽しくて。





今は子供も5人、領地運営を妻と共にやってて。




『ドラゴンスレイヤーは侯爵令嬢を手に入れました』 END



うん。幸せだ。




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