グッドモーニング魔女の館

@Yamawilliams

第1話 この日から



苦労はある。それは同年代と比べて、同学年と比べて、人と比べて。

不幸自慢の土俵には立たないが、負けるとは思えない。この年齢になると、周りは自身のしたいこともハウツーで決めさせられる。よくわからない理屈と あえてしなくて良い選択で、ありもしない人間性を広げようとしているのだろうか。

後悔でも反省でも、立ち返り選択を悔やむこともしない。そっちを向けば向くだけで応答が返ってくるものにうまく惑わされていく。



お前「女性に年齢をたずねるのは失礼」を覆したいのか。

三者面談もまだで、まだクラスの誰とも距離がある担任が問いかける上述に対して首を傾げるという応答をした。その後、しばらくの沈黙の後

「いや、わかるけどなぁ…」

こちらにも黙する時間がいるがな。

と思うより先に同意があったものだから考えるのを放棄した。

そもそもこうなったのは、女性の先生に年齢を聞いたことが原因、というのではなくその後の応答がまずかったらしい。

自販機前で当たり前のように暇だったのでその場にいた先生に当たり障りのない会話の切り口を開いたつもりだった。私から例の質問である。

今年30歳になったばかりとすんなり教えてくれた。その後に続いて「なんで?」と聞かれたので観測点になぞらえてみた。本当は年齢なんて気にもならなかったが、それを言うと、それこそかえって知らないうちに、火に油かもしれない。火中の栗かもしれないから、何か意味ありげな 聞くにふさわしい理由として、観測点の話をした。

以下の通りに。

先生って、僕らみたいな学生の頃があったでしょう。

うん。

それでどれぐらい前の自身と同じ位の視点で先生には見えているのだろうって気になったんですよね。

うーん。

受理されたと思った。納得するしかないだろうと思った。しかし、返事はその後しばらくして次の通りだった。


違うね、嘘だよね?


何がです?取り繕うための言葉が出てきた。

例えばどこか何か引っかかりがあって、そこからビリビリと剥がされるなら焦りようもあるが、先程の受理も納得も、今になればそんな風には思ってさえいなかった。

否定するようなことだとも思っていないという意表を突かれたので今こうして振り返ったときに、新たに自身がどういう風にひっくり返されたかを言葉にしようとしてそのようになった。

焦ることができなかったことで、何とか自然な演技に見えてくれないかと思ったが、そんなのはもう仏の手の上だと次にわかる。

何も理由なく聞いてすんなり答えるもんだからそういうことにしたんでしょう?


それが昨日の話。

あ、はい。と肯定をしてから弾まない会話から逃げるように先生と別れて、今こうして担任から覆したいのかと問われている。

話が曲がっているのか、あるいは一通りの話はそのまま伝わったが、後書きで何か加筆されたのか。

思いませんとは答えたが、昨日の女性の先生にはあんな見透かされた後なので、さらけ出すべきだと思い

思いませんと答えた。

こちらがわからないということを向こうがわからないようなので、聞いてみた。

どういう話になっているんですか?

変な話になったので、話を合わせて逃げたと辻褄を考えて、今からそれを演じようという時、先の返答があった。嘘がわかるっていうのは嘘らしい。

先の返答ではなかった。先の返答以外あると思っていない私は納得の印を振り上げたまま、

止まった。

嘘?

もう自身が何を繕っているのかわからない。必要以上にわからないふりをしているけれどかえってこのまま逃げ切るべきだとこの時になってようやく焦った。

昨日はまさしく蛇とカエルであったと自負するけれど

今この何も分かり合えない担任、もとい多少多めにみてくれている担任を前にしても昨日のような緊張がある。

カードの裏を相手に見られたらまずいのか、表を見られたらまずいのか、今相手にどちらの面を向けているのか、それを確認しようと手元手札をちらっと見るとそこから何もかも気取られてしまうような気がして身動きが取れない状態である。

何にせよ善良な私をここまで追い込む事はないだろう。

私は何の獲物なんだ。

気づけば私は汗でずぶ濡れになっていた。

我ながら、自身の身体にこれだけ排出できる水分があることに感心する。

嘘がわかるなんて嘘だという事。似た話で考えているのか思い出しているのかで向く方向が違うと言うものをひろゆきが言っているだろう。

(知らん。)

それと同じだ。

そうですか。(知らんが。)

私はなんで呼ばれたのですか?(知らんけど。)


なんで呼ばれたかわからない人間にお前はつらつらと遠いとこからわざわざ説明したかもしれないが、結局こちらは何のとっかかりすらわからないということを含めた京言葉のつもりで言った。

帰ってもいいぞ。

帰ってもいいんですか?(え?かえっていいのおー?)

ああ。

(ますますなんで呼ばれたか。)

なんでそんなことを言われたか、それがわからなければ帰っていいと言うのは気取られたくないことを受け取られていないということだと思うより先に強気に聞いた。

帰り道では上述のやりとりを忘れてその後の話ばかりを思い出していた。昨日の先生と一緒に。

誰にも言うな と念を押され病気のことを聞いた。聞くとこの日はその女性の先生は学校にいなかった。

検査を受けて悪ければ入院だそうだ。教師は引き継ぎが面倒だから、どちらに転んでもいいように、あらかじめその話を聞いていたんだそうだ。


しばらくが経った。

もうあの人は私の担任ではなくなっていた。


あれ以降あの先生は見ていない。

こちらから聞くこともない。




ドラマや映画で場面切り替えの間に、お風呂もトイレも日をまたぐようなら就寝だって割愛されている。

映画なんてドラマ以上に時間に限りがあるものだから話の進行に不要ならなおのこと切って当然である。

しかしその事情もこちらには筒抜けであると言うのに

見せないでいいから見せないと

見せたくないから見せないは違うだろう。

見せたいけど、見せないというのもあるらしい。

この場合見せることにそこはかとなく意味があるのだろう。

そのそこはかとなく意味があることだったのではないか とあの2日にわたる理不尽を時々思い出す。

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