第7話 妹の誕生
「おめでとうございます! 奥様、ご出産です!」
その知らせが屋敷中を駆け抜けたとき、僕はまだ五歳の子供部屋で、積み木を魔導式の陣形っぽく並べて遊んでいた。
いや違う。遊んでるんじゃない、研究だ。僕は常にプログラムの改良に余念がない、未来の魔導エンジニアなんだ。――って、今はそんなことどうでもいい! だって、妹だ。ついに僕に妹ができたのだ!
侍女たちが慌ただしく駆け回り、廊下の向こうからは産声が響く。
おお……! なんだろう、この胸の奥に湧き上がる感情。感動? 喜び? それとも「やった、これで家族イベント発生フラグ回収だ!」というゲーマー魂?
まあ、どっちでもいい。とにかく僕は今、猛烈にテンションが高い。
「アル坊ちゃま! 妹君ですよ!」
報告に来た乳母が目を輝かせている。
僕は思わず立ち上がり、「おお、妹か!」と叫んだ。五歳児のくせに声だけは大人びている。いや仕方ない、中身は二十ウン歳の元プログラマーだから。
廊下に出ると、メイドや執事たちがみんな笑顔で「やりましたな」「お健やかに」「これは盛大なお祝いになるぞ」と口々に言っていた。空気が一気に明るい。ああ、こういうときだけは本当に貴族の家に生まれてよかったと思う。だって庶民の家なら「やったね!」で終わりだけど、ここは「宴だ!」「楽団を呼べ!」って規模になるんだ。イベント感が段違い。
さて、肝心の妹との初対面。
父上が厳かに僕を呼んだ。「アル。母と妹の顔を見てこい」
僕は頷き、侍女に案内されて母の寝室へ入る。
そこには、少し疲れた顔をしながらも優雅に横たわる母上。そして、その腕の中で小さな小さな存在が――。
「……おお」
思わず声が漏れる。
ふにゃふにゃで、赤くて、でもすやすや眠っていて。手足をピクピクさせる姿が、なんかこう……尊い。
「アル。あなたの妹よ」
母上が微笑みながら僕を促す。
僕は恐る恐る覗き込んで、そして小声で呟いた。
「ちっさ……」
いやほんとに小さい。僕の前世で使っていたスマホより軽そうだ。こんな存在が、未来ではあの「攻略対象キャラと仲良くなるイベントのキー」になるのか……?
思わずゲーム脳が働いてしまい、「妹はサブヒロイン枠」「友情エンドにも絡むタイプ」と分類しそうになる。いややめろ僕、今は素直に感動しておけ。
母上が「抱っこしてみる?」と聞いてきた。
「……お、俺が?」
五歳児のくせに動揺がデカすぎる。だって怖い。バグったプログラムなら強制終了させればいいけど、これはリアル人間だぞ? 落としたらゲームオーバーどころじゃない。
「大丈夫、支えてあげるから」
そう言って母上がそっと僕の腕に妹を乗せてくれる。
うわ、柔らかい! そしてあったかい! 思ったより軽い!
「……すご」
言葉がそれしか出ない。いやほんと、これはバグ技とかじゃ説明できない。命ってすげぇ。
妹は僕の腕の中でちょっと目を開けて、じーっと僕を見つめた。
「えっ、認識された? 俺、兄ってわかった?」
いやいや、たぶん偶然だ。新生児にそんな認識力あるわけ――って、にこーっと笑った! いや笑ったよな今!?
「うおお、かわいいいい!」
思わず変な叫び声を上げる僕。侍女たちが「まあまあ!」と拍手している。
やばい、これはやばい。今すぐスマホで写真撮ってインスタに上げたいレベル。いやスマホないけど。インスタもないけど。代わりに魔導式で保存できないかな? プログラムコードに「妹の笑顔=永久保存」ってコメント入れたい。
その夜、父上が酒を飲みながら宣言した。
「この子は、アリシアと名付ける!」
アリシア。……うん、かわいい名前だ。
僕は心の中で(攻略対象キャラの名前と被ってなくてよかった……!)と安堵した。
ただでさえ王女殿下の件で未来がヤバいのに、妹までゲームのヒロインと同名とかだったら、絶対に詰んでいた。
こうして、僕に妹ができた。
これから先、彼女がどう物語に絡んでいくのかはわからない。けれど今はただ――「俺、絶対にこの子だけは幸せにする」と心から思えた。
……まあ、その誓いを守るために、まずは自分が断罪ルートから逃れないといけないんだけどな。
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