足枷

@sigmaqaito

淵POV

「淵どうしたの?そのストラップ?」「え?」振り返って視線を追ってみると、俺のバッグに押し花のストラップのようなものがついている。バッグなんて気をつけてみるものでもないし初めて気づいた。「可愛いじゃん、桜?」と麗奈が聞いてきた。「・・・いや桃の花だよ」そう桃の花であるはずだ。答えはわかっていた。なんでかはわからないが。「へー、そういえば淵化学の宿題終わった?」朝早いから廊下に人はあまりいないようだ。ガラガラ 教室のドアを開けて入る。「多分?」俺がそのまま入ると、麗奈も入ってくる。そして振り返らずに、ドアを閉めた。「ドユコト多分ってw」何人かはもう来て座っている。窓の外からは春の光が注ぎ込んでいるが、誰もそれを見ようともせずに目の前のものに取り憑かれている。「ねぇ聞いてる?」「いやまぁ。ごめんちょっと眠い。」ぼーっとしていたのがわかったようだ。「まぁいいや、今日は一緒に帰ろうね」といって自分の席に行った。「決定事項かよ・・」自分も自分の席につくことにした。バッグを下ろして、横に置いて座り、窓から吹き込む暖かいはずの風を見に受けることにした。


もうほとんど日は沈んでいる。その光が木の葉の間と花を抜けている。花綺麗な景色だ、「忘れないでくれるかな?忘れるだろうけど」隣の人に言われる。「なんで?そんなわけ・・ない・じゃん」と返している間に笑っているその人の口の横に一筋の何かが流れた。「と  ・・わたなべ 渡辺淵!」耳に大声が聞こえてきた。声がした方を見ると古文の先生がこちらを見下ろして俺を睨んでいる。「あはい」 「あはいじゃないぞ、俺は睡眠学習なんてものを許した覚えはないぞ。そしてお前なんで泣いているんだ?そんなに感動的か?俺の読む漢文は」目の下を拭うと、確かに指が濡れた。眠ってたからだろう。「そうか、そうかじゃぁお前にも読ませてやろう。ここから読んでみろ。」 は?ダルすぎだろ。マジでこういう先生は何がしたいのかがわからない。他の人のためにならないことを自分のためにやっている。「えーっと?未だ果たさずして、ついで?病みて終わる。後遂に津を問うもの無し。」読み終えると、「はい、次寝たら全部読ませるからな」と言われた。 「はーい」このように言われたので、寝ることもできなかったので、授業が終わるまではずっと外を見ていた。なんともなくつまらない景色だったが。

「さよならー」全員バラバラとリュックを持って出ていく。俺は大勢の中でごちゃごちゃ行くのが嫌だから、ゆっくり出て行く。「おい淵クーン。さっき怒られてたじゃん。」と肩を組んで話しかけてきたのは俺の唯一無二の親友だ。「勘弁してくれよ啓斗まで。漢文なんて必要だと思ったこと今までねえよ」「受験では、使うじゃないかい。」「それじゃ受験のための勉強やん」「そんなもんだろ」 こいつは小2からの友達だ。「今日は帰るん?」「いや・・また麗奈と勉強かな」啓斗は一瞬黙ってこっちを見た。「あーおっけ。帰ったらあれやろうぜポケユナ」「おっけおけ」あいつはいつも麗奈の話になると少し冷たい目でこっちを見てくる。そんなつもりないんだろうけど。あいつ麗奈のこと好きなんかな。もしそうなら少し申し訳なくなった。あいつは恋愛上手くいかないからな。  図書室に向かいて歩いていくと生徒の声が薄れていく。放課後にわざわざ校舎のこっち側に来る人はいないからな。「図書室」と書かれた部屋の中に入る。自分はここが学校の中で一番好きだ。というか唯一嫌でない場所だと思う。教育という名の監視がいちばん少ないところだと思う。自分という人間の評価がつけられることのない場所だ。本が好きとかはないが自分というものがかき消されない場所だと思うからだ。「あいつは、・・・ まだか」窓に沿って並べられた数多くのテーブルや椅子はこの空間が作られた時はどういう意図で置かれたのだろうか?人が多くくることを願って置かれたのだろうか?窓から入り込んだ光が一人しか座っていないテーブルや椅子の数々を照らしているのを見て思う。

その一人は知っている人間だった。同じクラスの幸村勇人だ。他の人と話しているところはほとんど見たことがない。話しかけられることがないというのもあるのだろうが、どちらかというと自分から他の人と境界を作る人間だ。人に好かれるような顔立ちでなので最初の頃は女子に色々煽てられてたが、幸村が振り向きもしないのでそういうのも消えていった。別にすかしているとかでも無いのだろう。本を探しているふりをしながら何を読んでいるのかが気になったので見てみる。「見たものが真実」というタイトルだ。なんだそれ。そんなわけないじゃないか、自己中心的すぎないか?やその考え方は。やることもなかったのと前からいっかい話してみたかったので話しかけてみることにする。「幸村さ、そういうほんっておもろいの?幸村が授業とかで述べてるへnってか独特な意見ってそういうのから来てるの?」と話しかけるとゆっくりとこちらを見上げ。パタンと本を閉じた。「独特は変のフォローになってないと思うんだが」こちらを見た目は鋭かった。確かにそうなんだが、こいつやっぱり変なやつだ。そこは普通拾わないだろ。俺も悪かったが。「そしてその質問だが、俺は別に自分の意見を本から取り入れているわけじゃない。自分の意見を持った上で本を読んでいるんだ。その意見をなるほどとかは思うのかもしれないが、それを自分の意見に反映することはない。人には人の考えがあるからな。」それはそうなのだろうか?人は読むもにによって意見が変わったりすることはよくあると思う。「それ意味あるの?だって全然意見違うとかあったら。読みにくくね?」「もちろんそうだ。他の人の意見など大体たわいもない薄っぺらいものだと思っている。しかしそうでないものもある。実際に触れてみないとどうかはわからないだろう。そして意見が違うものを読むことで、自分の意見を強化することができる。何が違うとかを知ることで自分の意見をより深く理解することができるからな。メタ認知というものがより可能になるんだ。」熱く思っていそうな意見ではあるが、淡々と語っている。意味がわからない。「で?その本はどうなの?見たものが真実とかそんなわけなくない?見間違いとか勘違いとか死ぬほどあるだろ。」なんで俺はこいつに質問をしてしまったのだろうか。まずこんな話が続くとも思っていなかった。こいつは。周りの人を馬鹿にしていると思っていたので正直適当な答えが返ってくると思っていた。「では、ここで質問をしよう。Aさんが不倫をしていました。しかしAさんと結婚していたBさんは不倫されていたことを知りません。じゃぁここで真実はなんだと思う?」なんていう答えの分かりきった質問だ。真実は一つしかないだろ。「Aさんが不倫してたってことだろ。それ以外に真実はないじゃん。」「真実は事実ではない。Bさんにとっての真実は、Aさんと結婚しているってことだけだ。」「それは、・・なんていうか屁理屈みたいなもんじゃん。」「そうか?人間はそういうものだ。これはただの例だ。思い込みというものは、大きな力だ。信じるだけで全てが変わる。」なんか宗教みたいな感じだな、ほんとに信じるだけで変わるなら・・ 「うわ。めずらし。何話してるの?」麗奈がいきなり俺たちの間に頭をひょこっと突き出してきた。

「人間についてだ」麗奈のことすら見ずに返す。「え、何それw幸村くんそんなこと考えてるの?真面目じゃんw」馬鹿にしているわけではないのを俺は知っているが、馬鹿にしたような話し方だ。話す気がなくなったのだろうか?いつの間にか幸村は本を読むことにもどっていた。ゆっくりとページを捲りながら。

完全下校時間になって二人で外にでた。外はすでに暗い。明かりは外にポツポツある街灯だけだ。「うわ、さぶっ。ほんとに六月かな今。」麗奈が目を細めて体を震わす。確かに寒い。「梅雨だしね。」「麗奈雨きら〜い。」ほとんどみんなそうなのではないだろうか。「俺は雨嫌いだったよ。でも今は嫌いじゃないかな。」「なんで?」「なんかあったかくなる気がして。」「なわけないじゃん。体温奪われてるんだよ?」「だって米育つじゃん?」「農家じゃないんだから。まぁ確かにそうだけどさ」冗談めかしていってしまった。自分でも何を思って温かいと言ったかはわからないが。いや冗談というよりも出てこなかったのかもしれない。その理由が。「夏さ、お祭り行こ?麗奈新しい浴衣買ったんだ。」こいつはいつも話題を変える時でもなんでもこちらを笑顔で覗き込んでくる。「浴衣ね。浴衣かあ。」別に浴衣が気になったわけではない。地味になんて返したらいいのかわからなかったのだ。「どしたの?」「啓斗誘ってもいい?」麗奈のこと好きならここで二人を繋げるのもいいかもしれない。街灯がたまに横を通っていく。「啓斗くん?全然いいけど。麗奈も誰か誘ったほうがいいかな?」こっちを大きな目で見てくる。可愛いとはこういうのをいうんだろう。「いや。多分大丈夫。」「オッケー」「じゃぁ俺こっちだから」と言って大通りの方を指差す。「え?こっちの方が近くない?」「なんかこっちの気分」「何それ。まぁじゃね?」と言って笑いながら戸惑い気味に、手を振ってきた。「うんまた明日」と言って麗奈と別れた。しばらくして振り向くと暖かい風が吹いてきた。それは甘く、そして柔らかい匂いを運んできた。

「ただいま」家に帰ると、ダイニングにだけ照明がついて家族三人が机を囲んでいる。基本俺と母親と妹の三人だが今日は、父親も早く帰ってきているらしい。「おかえり、勉強ちゃんとやってるの?」母親が自分の部屋に行こうとしているところでこちらを首だけを回してみながら話しかけてきた。「当たり前じゃん」と返すと「な訳ないじゃんw、誰とやってるのお兄ちゃん。」と妹が何かをわかっていそうな感じでバカにしたような顔で言ってきた。「啓斗だよ。」付き合ってる暇も、必要性もないので至って冷静に返す。「ほら鈴、食べながら喋らないの。」父親は特にこういう時に何も言わないがこの三人は仲がいい。別に俺も仲が悪いわけではないが、あまり話が合うとは思わない。俺は一旦部屋に行ったあと戻ってきて黙々と夕食を食べる。色々と終わり、自分の部屋で横になるとすぐ寝ることができた。


 「やっぱりさ、二人で来年も来たいよね。無理だったとしてもさ。」祭りだろうか、相手は浴衣を着ている。周りは真っ暗ではないが割と遅い時間だろう。だからこそ周りの屋台の光や提灯が目一層際立っている。「なんでよ。来年でも再来年でも行こうぜ。」俺が言うと、相手はこっちをみるのをやめて正面を見た。「んーなんとなく。あ、たこ焼き食べよ」ーーーー「たこ焼き2パック下さい。」相手が財布を出して払おうとする。「いや、俺払うよ。」というと慌てて遠慮するように顔の前で手を縦にして横に振った。「いいよ他に使うことないんだし。」相手がパックを受け取った時「あつっ」といって。パックを落としかけた。俺も慌てて掴むと二人の指が重なった。「ぷっ」「ねー笑うなんてひどいよ淵」俺も自分の分を受け取った時腕にぽたっと水が落ちてきた。「あ、雨だ」と上空を見上げなが俺がいうと相手も上を見上げながら前髪を手で隠した。「うわー最悪。髪が崩れちゃうじゃん。 もしかして傘持ってきてないの?」「傘持ち歩かないんだ。雨予報でも。

ぽつ。何かが腕に落ちてきた。何回かそれが続く。みてみると鈴がこっちの様子を伺いながら水の入ったコップを傾けている。もはや俺にぶっかけそうな角度まで来ている。「夢・・か」それにしてもなんか意味深な夢だな。「ブッブー。何やってんだお前ええ。でしたー。テンションひくっw」「あーはいはい。」こんなの相手にしているだけ無駄だ。不安げな鈴をなんとか自分の部屋から追い出し、用意して朝食を食べにリビングに降りていつも通り登校した。それからはしばらく夢を見ることはなかった

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