サイズB6
戯画実(ぎがみ)
第1話 デビュー
「デビュー」
コロナきっかけで、スケッチを始める。
意気込んで、まずは公園へ向かう。
はじめて描いたのは、マガモ。
藤棚の前に芝生が広がる。緑が目にやさしく映る。
つがいらしきマガモに出会う。 美しい鳥だ。
頭から首にかけて深い緑、名誉の勲章のように白いリングが首を飾る。
胸元は、これまた美しい、深みのある茶色。艶があり輝いている。
胸の筋肉が良く鍛えられていて、空の長旅を思い起こさせる。
羽も美しい。尾のクルリと丸まる飾り羽は深い紺の色。
羽の流れの規則正しさは、熟練の匠の精巧な工芸品のようだ。
その畏れ多い美を、まず一筆一描き。手のひらサイズB6の一頁目に、
このマガモで始まる。
あぁ、緊張の鉛筆の黒色の線が、手が震える。
ぎごちなく鉛筆を握っている。無駄に力が入る。
一本の線があらぬ方向に行く、紙面が汚れたように感じ、先に進まない。
頭ん中、色々な事駆け巡る。考えてまた一本、線が入る。
雑念そのものの拙い線が、マガモの姿を滑稽なものにしていく。
ゆっくり描いているうちにマガモは、動く、どんどん逃げる。
あー、描けやしない。
マガモは繁みの中へ入っていってしまった。
頭の丸みと太目の体が、どんと紙面に、説明なしでは判別できない
ものとして残った。
くちばしは、まるで引き伸ばされた粘土のようだ。
今日は、これまで。
芝生の先に見える池の方をぼんやり眺めて、その日は帰った。
美しさ 描く(斯く)もむずかし 感じとる
好きになること 観察すること
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