第10話 努力か天才か
秋葉原野外ライブから、1週間。
京月がプロデュースするユニット、YOZORAも活動を始めようとしていた。
しかし……。
「個々のキャラが出過ぎてる!もっと抑えろ!」
京月は、怒っていた。
「奈野と美玄はまだマシだ。今日は以上……ルナだけ残れ」
そして、その日のスタジオ合わせの後、京月はルナにこう言っていた。
「ルナ……なんで自分を出そうとする?」
「そりゃ、自分らしさを消したら人形と一緒じゃない」
京月はこう返す。
「やっぱりあの頃から変わんねえな。業界に入ったのに、なんで変えないんだ」
ルナはこう言う。
「私にとって大切なのは売れる売れないより”求められる曲”なのかなのよ」
京月はこう言った。
「その”求められる曲”が売れる曲なんだろ」
ルナは、若干諦めながら話を終えた。
一方その頃、俺の元にはタガノからメールが来ていた。
「朝霧さん、タイアップの依頼が来てる」
俺がメールを開くと、依頼の内容が書いてあった。
「水樹飲料 コールコーヒー CMソング15秒」
大手飲料メーカーのテレビCMに使われる曲のようだ。
「15秒……か」
俺は、自分の音楽をその短さで出せるかと、依頼を受けるか迷っていた。
すると、sen-naからこんな話がやってくる。
「さっきのメール見たよ。ちょうど15秒のアイデアがあるから、使ってほしい」
それに添付されていたファイルは、中々にCMソングらしからぬエレクトロ系の曲だった。
「うーん、これを自分らしい感じにするには……」
俺は迷っていた。
すると、ミユからこんなメッセージが来る。
「ボーカルチョップとかしてみませんか?」
ボーカルチョップ。歌声の音声データを切り刻み、新しい音楽を作る事だ。
「あー、いいなそれ」
「じゃあ、私が歌った”Do Today Mylife”の音声ファイル送っておきますね」
そのファイルを刻んで合わせてみると、意外とsen-naの曲に合う。
「ここの音程上げて……なんか賛否ありそうだけど面白いな」
そして、その週のうちに俺は15秒のデモ音源を5つ作った。
翌週。俺はレーベル事務所でデモ音源を流していた。
「よし、テレビでも聞こえやすいな……そろそろ水樹飲料さんの担当者さんが来ますね」
タガノはそう言うと、一階に降りて水樹飲料の担当者に挨拶をする。
「はじめまして、”Do Today Mylife”のキーボードをしてます、朝霧といいます」
「朝霧さん、はじめまして。いつも”glow of grow”をヘビロテしてますよ」
和気あいあいとした雰囲気で打ち合わせは始まる。
「CMソングのデモ音源が5つあるんですが……どれも正直、”テレビCMっぽくない”……っていう感じで」
俺がそう言うと、水樹飲料の担当者はこう言った。
「ほう。でも、そっちの方がこのコーヒーには合うかもしれないですね。朝目をシャキッとさせる系のコーヒーなので」
「なるほど……じゃあ、流しますね」
俺はノートパソコンから曲を順番に流す。
「どうですか……?」
すると、担当者はこう言った。
「全部良い……!ですが……一番気に入ったのは3番ですかね」
3番目の音源は、”Morning(Modding) Step”という曲名で、CMソングっていうよりはクラブで流れてそうなエレクトロだ。
「自分、あの曲一番自信がないんですが……」
俺がそう言うと、担当者はこう返す。
「いやいや!CMソングらしからぬ雰囲気、そして目を覚ませるリズム!ピッタリですよ!」
そうして、”Morning(Modding) Step”はCMソングに起用された。
CM公開から数日後、ネットのCM投稿にはこんなコメントが付いていた。
「好きでも嫌いでもない。ただ耳に残ってループ再生してしまう」
「CMの常識を壊してる。だけど好き」
「あのDTMが作った曲か。理解」
賛否は少なからずあった。しかし、それ以上にあったのは”新鮮味”だった。
一方、YOZORAはあるゲームの音楽を歌う事になった。
「勇気……未来……新しい日々を」
収録が終わると、奈野がこう言った。
「なんか……ありきたりですね」
この言葉が、京月を怒らせることになる。
「はぁ!?ありきたりで何が悪い?」
奈野はこう言う。
「悪くはないです。ですが……なんか勝負に出てない感じがして」
美玄も続けてこう言う。
「確かに、いつも同じコード進行使いまわしてる感じはありますね」
京月は、机を叩きこう言った。
「使い回しの何がダメなんだ!勝負になんか出なくてもいいじゃねえか!」
ルナは、こう言った。
「ダメとは言ってないですし、勝負に出なくてもいい。だけど、全員がそう思っている訳じゃないって事」
その瞬間、京月の心の中にある何かが壊れた。
Do Today Mylife 新しい音 東池なーが(dotfun) @higashiike_naga
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