第2章 二人の言い訳と夏の思い出

   怒りの夜の公園


 家に帰ってから今日、この公園に来るべきか迷った。無論、俺がヘンタイのおっさん扱いされて腹が立ったが、この公園で泣いたことをつい口を滑らしてしまったことで、かなり怒ってるだろうなと思うと、今日はやめようかとも思った。でも、毎日ここに来てる習性がついたのか、何も考えずまた、ここでジャージ着て走ってる俺がいる。里実が現れたらどんな展開になるのか、

 「おい、浩介」

 わっ、いつものように後ろから声掛けられた、今日はバッティングセンターの一件でどう言い返せばいいかわからない。けど、平静を装って話さねば、

 「里実と同じ高校だとは知らなかったよ、どこのクラスにいるんだ?明日会いに行くよ」

 「お前、俺が泣いてるの、佳苗に言ったんだね」

 早速、これが来た、駄目だ、里実と喧嘩できない。

 「ごめん、俺、佳苗と里実が知り合いなんて知らなかったんだ、里実が同じ高校なのも知らなかった。ただ、部屋で悔しくて泣き続けたって、悲しそうに言う佳苗を見て、励まそうと思って話してしまった。ごめん」

 自分の腰の弱さに情けなく思う、どうして、俺をヘンタイおっさん扱いしたことや同じ高校なのを隠してたことに腹を立ててるのを強気で言い返さないのかと、

 「もう、いいよ、佳苗が俺の事だと全く気付いていなかったから、気にしていないよ、別に」

 あ、怒らないみたいだ、助かった。言い返さないでよかった。

 里実は、その後も強気で喋り続けた。

 「それよりな、陸上部の体験入部に行かなかったのはな、陸上部に行ったとき、お前が、佳苗と喋ってる姿を見て、躊躇したんだ。グランド入るのに」

 俺は驚いて聞いた。

 「え、あのとき、居たんだ。来ればよかったのに」

 里実は フンと聞こえそうな感じで反対側に顔を向き、強く喋った。

 「邪魔したら悪いなと思ったんだ。なんか、二人で入れ込んで、やってたから」

 俺は首を少し傾けて話した。

 「どうして、佳苗と里実って幼馴染で気を使う仲には見えないけど」

 「佳苗が真剣に走ってたから、邪魔したくなかったんだよ、うるさいな」

 里実は、なぜかキレ気味に、他を向いて怒鳴った。

 「へぇ、そうなんだ。里実も陸上部入ったら面白かったのにね、残念だ」

 里実は、しばらくは何も言わず、俺の斜め後ろを走っていた。


 しばらくすると、また、里実が喋り出した。

 「それで、グランドの外でお前らの練習見てたときに、野球部のキャプテンに声掛けられて、マネージャにに誘われたんだ」

 そうなんだ、ふーん、って感じに聞いて、話を合わせた。

 「へぇ、それで野球部のマネージャになったんだね、なるほど、マネージャはどう?面白いか?」

 里実はさっきとは、打って変わって、明るい感じで言い返した。

 「思ったより楽しい、今の野球部にはマネージャは一人もいないから、先輩も居なくて、俺一人で気楽にやってる。一部は部員がやってくれてるし、今日居た友達も誘ってマネージャ二人になるし、俺が野球経験者と解ってから、練習や紅白試合にも参加させてくれるしね」

 へぇ、といった感じで聞いていた。正直言って、全国大会の苦い思い出で、この公園で泣き崩れて以降、里実は大好きな野球の話を全くしなかった。俺も振らなかった。だから、久しぶりに、明るい顔で野球の話を出来てよかったと思った。それだったら、陸上部に入るより、今の里実のがいいかも、

 里実は話を続けた。

 「えと、えとさ、キャプテンが映画に観に行かないかって誘ってきたんだよ」

 俺は、へぇという感じで聞き流し、喋った。

 「そうなんだ、いいね、マネージャで楽しい高校生活送れて」

 「うん、あんまり、男と映画なんて行ったこと、ないけどな」

 俺は、話を聞きながら、ふと、視線を感じたので、横を向くと、里実は、俺の顔を見ていた。里実は、俺が向いてすぐ、また、反対側に顔を向いて喋った。

 「野球部のマネージャは楽しいよ、ほんとは、あの試合から、野球を忘れようって、思ったのに、まさか、また、ボールやバットに触れるとは思わなかったよ」

 里実は、明るく喋った。こんな感じで野球を話す里実を懐かしく思った。元気が出てよかった。


 いつものように、二人は、夜の公園を走って、いつもの広場で止まり、いろいろな運動をしながら、里実は喋った。

 「そういえば、佳苗って、どう思う?」

 へ?予想外な話を振ってきた。どう答えていいか、難しかったけど、答えてみた。

 「どう思うって、言われても、女の子だな、とか、しか言えないが、そういえば、佳苗って、俺や陸上部と喋ってるときと、里実と喋ってるとき、全然違うね」

 佳苗の第一印象として可愛かった、なんて言ったら殴られそうなので、今言うタイミングじゃないと思い、省いた。里実は俺の言った言葉に反応した。

 「そりゃ、女同士と、それ以外じゃ、誰でも、女は話し方変えるぞ、俺も変えるし」

 そうなんだ、里実は俺と佳苗と、話し方が同じに見えるがと頭が過ぎったけど、軽く流して、話を続けた。

 「そうか、女ってそういうものか、佳苗って練習はとても真面目で、とにかく足が速い、今のままでも、県で一、二を争う女子だろう」

 「うん、昔から足が速くて、俺も学年では、あいつが居たせいで、いつも二位だった」

 「そうだろうな」

 佳苗と里実は、ホント、幼馴染なんだろうなと思った。でも、里実は、俺の言った内容に、まだ不満らしかった。

 「で、佳苗のこと、どう思ってるの」

 「え?他にってこと?うーーん、まぁ、あれだけ速いのに、制服着たときは普通の女の子でかわいい感じだよね、里実と比べて、女の子って感じだよね」

 こんな感じでしか言えなかった。あまりにも、可愛い、可愛いとか、スタイルが言いとか言ったらセクハラで、嫌らしい目で佳苗を観てると思われるし、里実を引き合いで言うしかなかった。

 「そうだよ、あいつは、昔から可愛くて、男が寄って来て、何回も告白されてるんだよ、それを、俺が睨んだり、怒鳴ったりで追い払ったり、告白を代わりに断ったりしてたんだ。そうしないと、妹思いの兄貴が出しゃばるからな、とにかく、佳苗は昔から、男に人気で、俺が追い払う役だったんだ」

 なんか、時々出てくる、佳苗の兄が気になるが、佳苗と幼馴染だから、兄さんとも仲が良いんだなと、

 「へー、そうなんだ、確かに、佳苗は可愛い、絶対、男に人気あると思ったよ。やっぱり、男に告白されてたんだ」

 確かに、佳苗は可愛い、それで、里実は、俺に心配してるのかもしれないと感じた。今は、俺が、佳苗をどう思ってるか気になるのだろうと思った。


 しばらく、沈黙が続いた後、いきなり、里実は、俺の目の前に立ちはだかり、俺を正面から睨みつけて喋った。

 「佳苗がお前の話をしてるのを見てるとわかるんだよ、佳苗がお前に惚れてるって、お前、それ、解ってるのか?」

 里実は真剣な表情で問い詰めるように言った。俺は、とまどいながら言った。

 「え、いや、そんなことないって、それは里実の勘違いだって、佳苗は俺が、中学からの陸上部だから、慕ってるだけで」

 少し照れるように言ったら、里実はいきなり、俺の胸倉を掴んで、睨みながら喋った。

 「お前、佳苗に告白されて付き合ってんだろうが、ああ、解ってないのか?佳苗の気持ちが、佳苗はな、小さい時から知ってるが、男に告白した事なんか一度もねぇんだ、佳苗が男の話を、俺にした事なんか一度もないんだ。解るか、佳苗は、お前に夢中なんだ、そんな佳苗を知ってて、付き合ってるのかって聞いてるんだ」

 里実は、胸倉を掴んだまま、今すぐ、殴りそうな勢いで、顔を近づけ、睨みながら言い放っている。俺はビックりして、返す言葉に困っていた。この後、どんな言葉を言えば、里実の機嫌が治まるのか、納得してくれるのか、思いつかない、黙っていると、里実は、また、喋った。

 「佳苗は、本気なんだ、ホントに、本気なんだ、恋ってやつをしてんだ、お前は、鈍くてドン臭いのは知ってる。けど、ひどい男でもない、けど…けど、佳苗を傷つけないでくれ、なんとかしてくれ、いいな」

 里実は、これを言って、胸倉を話して、背を向けながら言った。

 「ただ、心配なんだよ、あいつは、そんな経験に乏しいから、喧嘩越しに怒鳴って悪かったよ、じゃあ、帰るわ」

 里実はそのまま、ここを去って行った。俺はキョトンとしたまま、取り残された。


 美女と野獣な放課後


 今日は金曜、いつもの陸上部は佳苗と練習してるが、午後から私用があるらしく、佳苗は部活を休んで先に帰った。

 夕方、部活の練習を終えて、制服に着替えて門に行くと、同じ陸上部の部員が、違う学校の制服を着た背のでかい男と話し合っていた。そのでかい男は、同じ制服の男子を後ろに二人従えていた。その大男と話してる陸上部の部員は、周りをキョロキョロ見渡し、俺と目が合った後、またでかい男を見て、俺を指で指した。

 そのでかい男は、部員に手を振った後、俺に近づいてきた。そして、二人の男を従えながら、目の前まで来て、俺に話しかけた。

 「お前が、中川浩介か」

 いきなり、大男は俺の名前を言って、尋ねた。

 俺は、少し動揺しながら、返答した。

 「はい、そうですが」

 大男は、いきなり、両手で俺の肩を持ち、そのまま高い高いするように持ち上げて喋った。

 「お前か、なんか、思ったより華奢で、なんか、抜けた奴だな」

 大男は、俺を持ち上げながら、斜めから見たり、観察した後、降ろして、また喋る。

 「あいつ、何考えてんだ、見てみたら、イケメンって感じでもないし、頼り甲斐もなさそうだし、今時、こんな奴がいいのか、あいつは」

 大男が、訳のわからない事を言ってて怖かった、すると、そんな俺を見て、後ろにいる連れが、大男に喋った。

 「おい、ダイジ、相手、怖がってるぞ、妹や、お前のこと、言ったほうがいいぞ」

 大男は、軽く、はっとした後、また、俺を睨み返して、喋った。

 「おう、おい、中川君、俺は、安田大治郎、だ、よ、よろしく、お、俺は、安田佳苗の、妹だ」

 いや、兄だろと思ったが、大男は名乗った。これが、里実の言ってた佳苗の兄かと、

 「佳苗が、母親と、お前の話し、してて、お前、佳苗に、近づいて、お前、なんだ、佳苗は、付き合ってるって、ほんとうか、佳苗は、え、え、ええと」

 なんか、大男の佳苗の兄は、何かを言おうとして、うーん、とにかく、妹が心配みたいだ。

 とにかく、こんな大きい兄だとは思わなかった。佳苗を心配して、俺に会いに来たのか、とにかく、何か喋って、警戒を解いて貰おうと感じた。

 「あ、佳苗のお兄さんでしたか、初めまして、私、同じ陸上部の中川浩介って言います、よろしくお願いします」

 こう、言いながら、軽く、お辞儀をした。

 兄は、少したじろいて、ちょっと、照れるようにニヤけたが、すぐ真顔に戻り喋った。

 「お、おう、よ、よろしく、今日は、佳苗、母と出かけたから、お前…いや、中川君と会いたくて、学校にきた、佳苗は、母と、よく、中川君を、話してる」

 なんか、特徴のある喋りをするお兄さんだと思った。うーん、何を話そう、とりあえず、佳苗のことを話すか、

 「ええと、佳苗さんって、とても足が速いですよね」

 大男の兄は、少し照れて、またハッとした後、真顔に戻って喋った。

 「うん、足は速い、母も足が速いから、昔から速かった」

 なるほど、足の速さは母譲りか

 「佳苗さんって、かわいいですね、確かに、お兄さんが心配する気持ちも解ります」

 そう、話すと、その兄は、いきなり鋭い目で、俺を睨み、また、両手で俺の肩を持ち上げて喋った。

 「おまえ、佳苗に、そんな目で観てるのか、佳苗に何する気だ」

 大男の兄は、歯も食いしばり、俺に睨みつながら言った。

 俺は、恐れて、なんとか弁解した。

 「いいえ、そんな目で見ていません、確かに、走ってる姿は綺麗ですが」

 あっ、焦って、変な事言った、やっちゃたと、なんとなく思った。

 「お前、佳苗を…、佳苗を…」

 心なしか、肩を持つ手の力が強くなった、やばい展開になったと感じた。


 その時だった、いきなり黒い物体が大男の兄の後頭部に当たって、物凄い音がした後、聞いた覚えのある声がした。

 「おい、ダイジ、何してんだ、佳苗はどうした?」

 黒い物体は里実の鞄だった。ジャージ姿の里実は、佳苗の兄を後ろから、部活で使ってそうな大きな黒いバッグで叩きながら、兄に尋ねた。

 佳苗の兄は、里実を見るなり、ぎょっとした目をして、俺を降ろし、里実に語りかけた。

 「さ、里実ちゃん、久しぶり、久しぶり」

 大男の兄は、里実を見ると、後頭部を手でさすりながら、照れるように喋った。

 「佳苗に会いに来たのか、スマホで連絡しようか、というか、なぜ、浩介と一緒にいるんだ?お前、何話してるんだ?」

 里実は、少し睨むようにして、兄と会話をしてる。なんか、すごく親しい関係みたいだ。

 「い、いや、佳苗は、今日は、母と出かける、もう、学校にいない」

 大男の兄は、少しビビった感じで、少し言い訳っぽく喋った。かなり焦ってる。

 「学校にいないって?部活はどうしたんだ、佳苗は」

 その後、俺が喋った。

 「佳苗は、今日、部活休んだよ、家で用があるって言って」

 その言葉の後、佳苗の兄は、俺を指指しながら、焦って喋った。

 「そ、そう、佳苗は早く帰って、母と出かけた」

 その後、里実は少し頭をひねった後、また、兄に話し掛けた。

 「佳苗がいないなら、どうして、ダイジがここにいるんだ?しかも、浩介を持ち上げて、おい!ダイジ、お前、何しにここに来た、ここで、なぜ、浩介と話してる?」

 大男の佳苗の兄は、慌てふためいて、当たりを見まわしながら、弁解しだした。

 「違う、ちがう、たまたま、ここで、会って、話し、してた。浩介君と」

 佳苗は、大男を睨みつけながら、少し声を低くくして、怒ったように喋った。

 「おい、お前の学校、ここから遠いだろ、たまたまじゃないだろ、はは~ん、佳苗が母と出かけるのを知ってるから、浩介に会いにきたんだろ、ダイジ!、浩介が気になったんだろ、佳苗が気に入ってる男だから、それで、佳苗が居ないのを見計らって、浩介に会いに来たのか」

 大男は、顔を真っ赤にして、慌てふためきながら喋った。

 「ち、ちがう、勘違いだ、たまたま、通って、佳苗の、学校、気になっただけだ」

 里実は、また、大男をバッグで叩いて怒鳴るみたいに喋った。

 「浩介が気になって会いに来たんだろうが、全く、妹がいない時にこそこそと、妹の彼氏に会いに来やがって、今度、佳苗に会ったら言ってやろう、佳苗、絶対、怒るからな、しばらく、喋ってくれないからな」

 大男は、慌てふためいて、必死に弁解した。

 「ち、ちがうからな、とっ、通っただけだから、浩介君、たまたま、会っただけだからな、佳苗には、絶対、言うなよ、浩介君、たまたま、会っただけだからな」

 里実は、間髪入れずにニヤニヤしながら喋った。

 「おい、後ろの奴、中学の頃からダイジと一緒にいるよな、教えてくれよ、ダイジがここにいる理由を」

 大男は、慌てふためきながら、後ろの連れを睨んで喋った。

 「お、お前ら、何もいうなよ、何もいうなよ」

 里実はニヤニヤしながら、喋り続けた。

 「なぁ、喋ってくれよ、たまたまじゃ、絶対ないだろ、ありえないだろ、無理やり、ここに連れてこられたんだろ、さっきから、面倒くさそうな顔してるだろ、連れは」

 大男は、負けずに喋った。

 「ちがう、なぁ、お前ら、一緒に、たまたま、歩いたんだよな、ここで」

 後ろの連れの面倒くさそうな顔を見て、里実は笑いながら喋った。

 「あははは、もういいよ、簡便してやるよ、佳苗には黙ってやるよ、兄として、妹のお気に入りの男子が心配になるよな、心配で、心配で、気になるよな、言わないでやるよ」

 腹を抱えながら笑ってる里実を見ながら、顔真っ赤にして、大男の兄は言い返した。

 「ち、ちがうからな、ちがうからな、もういいっ、お、おい、お前ら、帰るぞ、帰るぞ、たまたまだからな、ここは」

 腹抱えて笑う里実を後にして、大男の佳苗の兄は、連れを従えて去って行った。連れの二人は、相変わらず面倒臭い顔をしながら、佳苗の兄に喋る声が聞こえた。

 「おい、相変わらず里実には弱いな、昔から頭上がらないよな」

 そんな言葉を言う連れを、軽く小突きながら、兄は去って行った。

 その兄を見送った後、里実は俺に喋った。

 「すまんな、佳苗の兄って、体は大きいけど、おとなしくて、気が弱いんだよ、でも妹思いで、心配で浩介を見にきたみたいだ、優しい奴だから許してやってくれよな、じゃ、俺、マネージャの仕事あるから、野球戻るわ」

 里実は笑いながら野球部のグランドへ去って行き、俺は、ここで、一人、残されてしまって、んん、まぁいいか、家に帰ることにした。


  佳苗の兄と里実


 いつもの夜の公園の広場で、俺と里実は、またお喋りをしてて、早速、里実は佳苗の兄の話をしだした。

 「今日、佳苗の兄のダイジ来てただろ、すまんな、あいつ、いつも妹にガミガミ言われてるくせに、妹のこととなったら心配して、あいつが中学のとき、妹が他の男子と話をするだけで、近寄って、妹や男子に詰め寄るんだよ、それを見て、俺が兄をいつも引き留めて、兄に言い聞かせるんだよ、妹に変な男が付いたら、俺が黙っていない、俺が悪い男を追い払うからって、中学では、いつも、そんな感じだった」

 「里実って、お兄さんと仲が好いの」

 「俺と佳苗は、昔、母同士がバスケ仲間で、この県でのライバル同士だったんだが、たまたま職場が同じになってからの仲良しになって、そして、小学校のときに俺の家族が引っ越して、佳苗と同じ小学校になってから、佳苗と仲良くなったんだ。それで、佳苗の家に遊びに行くようになって、兄とも遊ぶようになったんだ」

 実は、今更の話になるが、佳苗も里実も身長は俺と同じか高いくらいで、恐らく175cmくらいはあって、女性にしては高い、両方ともバスケやってた母譲りなんだなと思った。

 俺は、へーと思いながら、里実の佳苗と兄の話を聞いていた。

 「兄は名前が安田大治郎で、両親や友達からはダイジって呼ばれてる、佳苗は普通にお兄ちゃんみたいだが」

 「そうか、それで、ダイジか」

 「あいつの制服見たらわかるが、竜谷高校で勉強できて優秀なんだ、連れてた仲間は中学からの塾仲間だ、あいつ、以外と引きこもりな感じで、よく家に居たんだよ」

 そうなんだよ、あの高校の制服は竜谷高校でここらのトップのガリ勉が集まる高校なんだよな、お兄さん、喋りが変だったのに、頭良いんだな、

 「あいつ、両親の背も高くて、小さい頃からデカくて、同じクラスから気味悪がられて、デカいのに内気でおとなしい性格だから、遊ぶ友達いなかったって、昔、佳苗が言ってたな、それで、俺が佳苗と一緒に、ダイジとも遊んでやったんだよ」

 へー、そうなんだ、人より違うと仲間はずれにされやすいよな、

 「一緒にママゴトやったり、公園で遊んだり、あっ、そうだ、俺がクラスの男子と野球やるときも、佳苗の家から引っ張り出して、一緒に野球やってたな、だから、兄も野球は、そこそこできるよ」

 年上の男子を連れ出して野球って、さすが里実、と思った。

 「それで、佳苗の兄とは遊んでたんだよ、小学校のときまでなら、兄が一番遊んだ相手は、佳苗の次に、間違いなく、俺だろうな」

 それから、長い間、里実は、昔の佳苗の兄との思い出を話してくれた。


 今日は、週の始まる、月曜だ、休みの次の日の学校はとにかく眠い、月曜の数学の授業はまるで拷問だ、なぜ理系に進学する気がないのに、数学の授業を受けるのか

 眠気との壮絶な戦いを何度となく繰り広げた数学の授業が終わると、目の前の席に女性が座った、佳苗が座って、話しかけた。

 「浩介、おはよう、えとね、さっき友達から聞いたんだけどね、…、えとね…、私の兄に会ったんだよね」

 俺は、眠気を何とか覚まして、佳苗に答えた。

 「うん、この前、佳苗が部活休んだ時にお兄さん、学校に来てたよ」

 言った後、思い出したけど、兄が来た事、内緒だったような、んん、授業で寝てた後なので、すっかり忘れていた。

 「やっぱり!ごめんね、兄が突然、学校に来たんだよね、ごめんね」

 そう、言った後、一旦、周りを見まわしてから、もう一度喋った。

 「ここじゃ、なんだがら、昼一緒に食べるとき、話そうか、そのとき、兄の話聞くね、じゃあね」

 佳苗はそう、言い残して、去って行った。


 昼休み、今日はグランド傍のコンクリートんの段の上で、佳苗と食事をとった、場所は佳苗が選んだ、ここは、周りが開けていて、たまに昼練する部活もいるが、今日は誰も使っていなかった。

 食事が終わってから、早速、佳苗がお兄さんについて話を出した。

 「浩介、ホントごめんね、友達から聞いたんだ。お兄ちゃんが浩介と話をしてたので、里実に報告しに行ったって、それで、里実が兄と話しをしてたって、ごめんね、まさか、私がいない間に、兄が来るなんて」

 佳苗は、申し訳なさそうに喋るのを見て、気にしないようにと、お兄さんをフォローした。

 「お兄さんって妹思いだよね、心配で学校を見に来るなんて、普通、できないからね」

 佳苗は、驚き恥ずかしそうに喋った。

 「え、嫌だよ、あんな兄は、ホント腹立つ、家で会ったら、ちゃんと言いつけるからね、あいつめ」

 俺は、なんとか兄をフォローしようと考えた、このままだと、兄を問い詰めそうな雰囲気だ」

 「あまり言わないほうがいいよ、俺も、里実も、兄が来たことは佳苗に言わない約束してるし、それに、お兄さん良い人だったよ、里実さんと仲良く喋ってたよ、まるで親友みたいに、お兄さんと里実さんって、そんなに仲いいの?」

 とりあえず、話をそらすために、里実の話を振ると、佳苗も乗って話してくれた。

 「里実とお兄ちゃんは小学校の頃からよく遊んでいたよ、兄はよく家にいたから、里実が家にやってきて、兄をよく外に連れ出して、私や、クラスの友達と遊びに行ってたよ」

 「へぇ、そうなんだ、あのお兄さんって、家に引きこもりがちだったんですか」

 そう言うと、佳苗は、少しうつむいて、兄さんのことを話し出した。

 「兄はね、小さい頃から背が高くて、他のクラスの子と比べて、見上げてしまう程大きかったの、それなのに、あまり喋らない性格だったから、みんなから、気味悪がられて、友達が全くできなかったの」

 人より、見た目が違っておとなしいとなると、子供の頃なら孤立するよなって思った。黙って、佳苗の話を聞いてた。

 「それでね、毎日、家に居るようになって、ある日、母が友達とその子供を連れてきたの、引っ越して、近所に住むようになったから、その子供が里実で、私の同級生だったの」

 へー、と思い聞いてた。母同士が親友なのは、里実から聞いてるが、

 「初めて、里実が家に来たとき、里実って、昔からあんな感じだったから、兄を見ても一切、怖がることなく、兄と私と三人で遊んで、それから、家にいる兄をクラスの友達と同じように遊ぶようになったの、広場で男の子と遊ぶときも、兄を連れて行ったりしてね」

 うん、ここも里実から聞いてる、里実なら納得するのもアレだが、

 「それで、私達が4年生のとき、兄は6年生でね、里実は、ある日、学校で、兄が男の子3人に虐められてるのを見てしまってね、実は、兄って、虐められてたんだけど、家族には、誰も喋らなくて、私も知らなっかの、それで、虐められてるのを見た里実は、その虐めっ子のリーダーらしい子を殴ってね、そしたら、相手も殴り返して、3人と里実が喧嘩しだしてね、そしてら、兄が、いきなりリーダーを持ち上げて、放り投げて、虐めてた3人は、みんな、兄に投げられて、大騒動になって、先生が駆けつけてね、里実や周りの子の証言で、兄は悪くないのが解って、なんとか事が治まったけどね」

 そんなことがあったのか、里実はそんな感じだよなと納得してしまうが、


 「ところがね、その事件があってから、逆にクラスの子がお兄ちゃんに話しかけるようになってね、みんなと仲良くなれるよになったの、クラスの子が話すには、その虐めてた3人ってみんなから嫌われてたらしくて、その子達をやっつけてくれて、それを聞いて気が晴れたクラスメイトが、お兄ちゃんと仲良くなってくれて、クラスの友達が増えたの」

 なんとなく、いい話だ、虐めてる集団って、以外と周りから嫌われてるケースってあるあるだよな、

 「それから、お兄ちゃん、里実には頭が上がらなくなってね、お兄ちゃんにとって、里実は人生最初の友達でもあるし、クラスのみんなと仲良くなれた恩人でもあるから、私とは口喧嘩で言い返しても、里実には弱くて、何も言い返せないの、お兄ちゃんは」

 なるほど、それで、兄の連れも、里実には弱いって言ってたのか、

 「それから、中学になってから、私が他の男の子と喋ってるのを見るだけで、お兄ちゃん、私を監視するようになってね、それを里実が見かねてね、変な男が寄り付かないように俺が見張ってやるって、里実が言って、お兄ちゃんをいつも説得してたの」

 なるほど、この前、兄が俺に会いに来てたのも納得できた。

 「ホント、ごめんね、お兄ちゃんが来て、びっくりしたでしょう、お兄ちゃん、バカだから、ごめんね」

 「いや、お兄さんって、あの竜谷高校でしょ、エリートが集まる、すごいですよね、勉強できるんだ」

 「やめてよ、家で引きこもって暗いだけだよ、もう、家に居たら、邪魔で仕方ないよ、大きいから鬱陶しいし」

 「いや、優しそうで、いいお兄さんだったよ、里実と話してると、面白い人だったし、今度、お兄さんと佳苗で、どっか遊びに行こうよ」

 佳苗は驚いて、顔を思いっきり横に振った。

 「え、いやだよ、あんな奴が一緒なんか、絶対いや、なぜ、浩介と一緒に出かけてるときに、あんな、暑苦しくて、デカい男がついて来るのよ、ムードぶち壊しよ」

 「でも、竜谷高校でしょ、勉強教えて貰えるじゃん、今度、お兄さんと図書館に行ってもいいかな、宿題とか、テスト勉強教えてもらったりとか」

 話してると、佳苗が黙ったままなのに気付いた、そして、佳苗を見ると、何も喋らずに、黙って、俺を睨んでいた。

 「え?、佳苗、どうしたの?何があった?」

 佳苗は、不満そうな表情を固めたまま正面を向いて、口は噤んでた。

 「え、ええと、お兄さんの話はやめようか、とにかく、さぁ、俺も里実も、会ったことは絶対に佳苗に話さないでと言われてるからさ、兄には黙っていてると…ね」

 佳苗は、何も返事せず、顔は一切、変わることは無く不貞腐れ、兄に会ったら何をするか、心に誓った感じだった。

 「ホント、お兄さん、優しかったよ、あはは」

 うん、言えば言う程、ダメな感じだった。他の話題に変えようと、必死に佳苗に明るく話しかけて、ご機嫌を何とか直して貰った。そして、お兄さんには申し訳ない気持ちになった。


高校最初の夏


 県大会、市大会が終わって、最初の夏が来た。ちなみに、佳苗は、県大会は決勝まで進み五位、市大会はなんと一位で優勝となり、好成績を納め、うちの高校では、インハイ狙える快挙となり、学校十で期待されるようになった。俺の成績?うーん、両方とも予選敗退した。やはり、中学と高校では周りの選手の肉付きから、速さが異次元だった。正直、心折れそうになった。


 夏休みに入り、本格的な夏が来た。暑い、暑い、日本の夏はとにかく暑い。走る度に針を刺した水風船のように汗が流れる。水を何度も飲んでも、飲み足りない。もう、何か、動く度に汗を大量にかく、誰がこんな日本の夏にしたと言いたくなる猛暑が続く。

 そんな中で部活の休憩の合間に、佳苗が話してきた。

 「えとさ、この前、久々に野球チーム仲間と会って遊んだときね、里実が言うにはね、野球部の部員とマネージャが、近々、海に行くので、それで、佳苗と浩介も来ないかって、里実が誘ってきたの、どうする?、浩介」

 いきなり、佳苗が里実と野球部で行く海水浴に誘ってきた。でも、実は、夜の公園で里実から、既に聞いていて、佳苗も誘うから、そのときはお前も来いよと、里実から先に言われていた。

 「んん、海って海水浴、いいな、今の日本ってやばいくらい暑いし、行ってみようかな」

 初めて聞いた振りをして、OKの返事をした。

 「やったー、行く日が決まったら、一緒に部活休みにして、いいよね」

 「うん、家族でどこか遊びに行くときは、気兼ねなく休んでも良いと言われてるからね」

 「そうだよね、なら、一緒に水着買いに行こうか」

 「え、佳苗は、里実と買いに行かないの?里実と行くなら、そっちのが楽しくて良いだろ」

 「えー、浩介の好み知りたいじゃん、浩介に選んで欲しいし」

 「え、でも、海にいくまでのお楽しみでも、楽しいんじゃない」

 「あっ、うーん、確かに、それもありだけど」

 「そっちのが、面白いよ、佳苗がどんな水着着て来るか、俺、楽しみになって、海行く日にワクワクするから」

 「んー、そうだね、それもありだね、解った、それじゃ、ほとんど生地がない、超際どいギリギリのビキニの水着、買おうかな」

 俺は驚いた、佳苗は今までの服装からして、そして、あまり、自分に自信持ってるタイプじゃないから、人にひけらかす性格でもなく、そんな水着着る派手な女のイメージがない、

 「ちょっと、学校で会う野球部員にも見られるんだぞ、マジでそんな際どい水着着るのか、学校で噂になるぞ」

 里実は、澄ました真顔で、俺を見ていた。こんな時は、何か満足していないときだ、

 「だって、何着たって私の勝手でしょ、私が選ぶ水着だから」

 こんな感じで、静かに不機嫌になって、沈黙のプレッシャーを掛けるのが佳苗だ、

 「いや、何も、何でも良いって言っていなよ、周りの男の目のやり場に困るのは、いろいろとだな」

 どう言っていいか、わかんなかった。

 「あなたが、私の着る水着を確認しないからでしょ、あなたに責任ないの?」

 真顔で訴えかける

 「いや、それは里実も困るでしょ、いろいろと、だから、ね、普通のビキニじゃない水着でいいでしょ、普通の、それだったら、俺、行かないからね」

 俺も、少しムッとして言った。

 「うそうそ、冗談だって、そんな際どい水着、私が着れる訳ないでしょ」

 俺は、ムッとしたまま返した。

 「俺は、里実や女子の友達と水着買いに行ったほうが楽しいかなと思って親切に言ったつもりだったけど、別に佳苗と買いに行くのが嫌じゃなくてね」

 「もういいよ、男が女の水着売り場をうろつくのも変だしね、女同士のが、楽しく、選べそうだしね、今日はこれで簡便するよ」

 佳苗は、ニコッと笑顔になって話した。

 「…、そうしよう、俺も女の水着売り場行くのも嫌だし、…、じゃ、今日の帰り、どこか寄る?俺がおごるから」

 「うん、帰りは店に入ろ、思いっきり高いの注文してやるから」

 佳苗は、流し目でニヤニヤしながら話した。女はこうも、嫌な奴に化けるのかと思った。


初体験の砂浜


 暑い、日本の夏は、なぜ、ここまで暑くなった。四十℃近くは当たり前、歩く度に汗がシャワー被ったように出てくる、電車に乗るまでに、とんでもなく服が濡れる。

 しかし、今日は、佳苗や里実と約束した海水浴の日、部活を休んで電車に乗って、いざ海へ向かった。

 昨日の電話で、佳苗は里実と行くことになったため、俺は一人で、電車に乗った。

 砂浜へ目掛けて突っ走る電車は、やがて、海という瞳のような深い青と空という陽射しで薄められた青のストライプの夢幻の帯と並走しだした。

 その電車の窓から見えるものは、この日本の暑さを微塵も感じない青い海が水平線まで広がり、その下は、木で覆われた崖だったり、民家の固まりだったり、沢山の集団が熊手とスコップを持って海面を掘ってる潮干狩りも現れ、Pの形をした高架の上から大量のススキの草のような竿が並ぶ海釣り公園が見えたりと、松尾芭蕉でも居ようものなら、たくさんの夏の短歌を詠いかねない、窓から見える真夏の風景が、夏だけの日めくり風景写真カレンダーを分単位でめくったように目まぐるしく、次々と見せてくれた。

 次の駅で目的の砂浜のある駅に到着する。俺はまだ電車に座ったまま、向こうの窓に映る海を見ている。目的の駅に近づくと、その海の下はクリーム色っぽい白一色の砂にカラフルで様々な色が点々と流れていく、その色の正体は、パラソルだったり、エアマットだったり、水着だったり、洒落た海の家だったり、熱い日差しの中、様々な色が熱さで視界を歪ませながら流れてゆく、その流れが次第にゆっくりになって行き、そして、沢山の人でにぎやかな駅が現れ、電車は静かに止まった。


 その駅に降りて、辺りを見ても、里実は佳苗は居ない、SNSでのやりとりでは、里実や佳苗は、先に電車に乗っていて、もう着いてる筈だが、辺りを見回しても、いる気配がない、人は沢山いるが、朝の通勤ラッシュ程じゃないので、見回せばわかる人だかりだ、いないようなのでSNSで駅に着いたのを報告、すると、直ぐに返事がきた。駅を出て、海へ向かった道を歩いて、最初のかき氷の店にいるらしい。指示に従い、改札口を出てみんなが向かう海への道を歩いたら、昔ながらの大きい簾が掛かって、氷の文字がついて下に波が書かれた短い垂れ幕が釣ってある店が見えた。

 その店の中を見ると、佳苗、里実と女友達の五人に加え、丸坊主の男子が六、七人程いた。これが野球部員だろう、その中にいる佳苗は、俺を見るなり、駆け寄ってきた。

 「浩介、やっと来たね」

 佳苗は、それを言うなり振り返り、みんなに声を掛けた。

 「みんな、お待たせ!浩介が着ました。これで全員集まりました」

 俺が最後だったのか、大勢の集合で自身が一番最後に着いた時は、なんか申し訳なくなるよね、別に、待ち合わせに遅れた訳じゃないのに謝ってしまう。

 「ごめん、みんな待たせたかな、みんな早いな」

 直ぐに里実が返事をした。

 「いや、そんな待ってないよ、まだ、注文のかき氷が来ていない人もいるし」

 その後、野球部員の人が話した。

 「そうそう、俺たち野球部と里実は各々で待ち合わせして駅に来たから、早めに着いただけなので、それに、俺の所にはまだ、かき氷来ていないし、そうだ、かき氷、何か食べる?」

 みんな、かき氷注文してるのか、俺も注文するか

 「あ、それじゃ、メロンのかき氷あるかな?」

 さっき話してくれた野球部員が、直ぐに応えてくてた。

 「メロンのかき氷ね、おばちゃんに言いに行くよ」

 その野球部員は、奥に行って注文しに行った後、手にはかき氷を2つ持って帰ってきた。

 「これは俺で、もう一つは里実のところね」

 そう言って、もう一つのかき氷を里実のテーブルに置いて、友達が受け取った。

 「浩介君だっけ、君のかき氷は次、作ってるから直ぐに来るよ」

 そう言って、自分の席に座り、来たばかりのかき氷を早速食べた。ちなみに、この野球部員はキャプテンの倉田斗次だった。

 それから、みんな、一通り、軽い自己紹介の後、かき氷食べながら、軽く談話をして、みんな食べ終わって清算した後、目的の海に向かって行った。


 海に着いた、とりあえず、みんなは休める場所を探して、そこに、シートやエアマットを各自敷いた。女子は用意周到で、大きな日除けシェードを広げて、四方に棒を立て、その下にシートを敷いて、荷物を置いた。

 その後、各自、ビーチボールを膨らまし、ボールで遊んだり、女子は予め水着を着こんでいたらしく、シェードの下で一部だけを脱いだ後、お互いに日焼け止めクリームを塗り始めた。なんか、女の子達は見た目あまり変わっていないなともったら、今着てる服が水着らしかった。最近の女子の水着はミニスカの形や短パンに、ノースリーブやキャップスリーブなどで、見た目からして、普段着と水着と何が違うのか、よくわからないと思った。普通に公園でジョギングしててもおかしくない見た目の水着だ。もちろん、佳苗もミニスカ(スコート?キュロット?)にキャップスリープで、際どい水着でなくホッとした。

 その後、準備を澄ませた女子達は、波打ち際まで駆け寄り、海水で遊び出した。はっきり言って、俺は佳苗について来ただけで、男性は初見の野球部員なので、ほとんど部外者になってる。多分今現在、みんなの輪に入り損ねたみたいなので、とりあえず、みんなに気付かれずに、気配を消して、単独で散歩することにした。


やばい、日本の夏はマジでやばい、砂浜は地獄だ、アニメやドラマなら、晴天の下の砂浜なんて、夏定番の風景だが、実際に現場で歩いてる感想を言うと、やばいくらい熱い、とにかく、暑い、時々、頭がクラッとして、目に見える視界が強い日差しと地面からの熱気で、写真アプリの加工後のように色が歪み、時には、白飛びの写真に見える。これがひどくなったら、熱中症の症状になるんだろうな、もう日本の夏の砂浜は曇りの日に行ったほうが良いと友達には助言しよう。しかしながら、この海水浴を味わいたいので、砂浜の端まで歩いて戻ろうと思う。

 一体何時間歩いたかわからんが、かなりの時間歩いた、色々あって、際どい水着来たお姉さんにもすれ違い、ハイネケンやバドワイザの瓶を持って、ワイルドスピードの一シーンみたいにはしゃいでる野郎連中や、パラソル下のビーチチェアで本を読んでる中年男性、CMみたいだ。なんか映画やネット配信動画でしか見れない砂浜リゾートのシーンをリアルで見れてるのに感動しながら、暑さを忘れて歩いてる。


 何も考えず、砂浜の景色を楽しみがら歩いてたら、みんなが確保した場所に帰っていた。

 男子はまだ、ビーチボールで砂浜を騒いだり、エアマットを海に浮かべて遊んでるが、女子は大きなシェードの日陰で、クリームを塗り直しながらお喋りをしていた。

 歩くのも飽きてきたし、そろそろ泳ぐかと考え、海に行こうとすると、俺を呼ぶ佳苗の声が聞こえた。佳苗を見ると、手招きしていたので、女子のいる所へ歩いた。

 すると、佳苗が話しかけてきた。

 「ねぇねぇ、丁度よかった、みんなでジュース買いに行こうって言ってたのよ、浩介、ジュース買いに行くの手伝ってくれる?」

 なんか、俺を小間使いさせるつもりかと思った。

 その言葉に反応して、横から友達が割って喋ってきた。

 「ちょっと、じゃんけんで決めるって言ったじゃん」

 それに、佳苗が言い返した。

 「いや、一人でみんなのジュースを持つの無理だから、浩介に手伝って貰おうと思って」

 「ええ、でも、それじゃ、誰が負けても、浩介君がついて行くということだね」

 「うん、そうだよ、浩介はその辺散歩してるからジュース売り場知ってそうだし、男だから炎天下大丈夫だし」

 「ちょっと、彼氏をそんな、荒く使ってもいいのかよ」

 「だって、男だし」

 「じゃ、私、浩介君と一緒にジュース買いに行こうかな、次いでに、今度、一緒に映画に行く約束もして」

 「え、そんな事したら、やっちゃうよ」

 「いや、二人きりだし、勿論、二人の内緒にするし、ねぇ、浩介君」

 ちょっと、困った顔をする俺、

 「なにそれ、じゃ、私に買いに行けってこと、なら、女の子二人でもいいよ、でも、それだったら、この日差しの中、外に出る女子が増えるよ」

 佳苗は少し不満げに言って、浩介を見た。浩介は慌てて喋った。

 「俺は構わないよ、もう日差しに慣れたから」

 すると、友達が横やり入れた。

 「いや、佳苗に気遣わなくていいよ、ここにいる友達は元女子野球部で、去年までこんな炎天下のグランドで練習してきた、鍛え抜かれた女子の集まりだし」

 そんな言葉を発する友達を佳苗は少し睨んでいて、少し空気が澱んでる所で、里実が会話に割って入った。

 「ようし、じゃ、みんなでじゃんけんするか、浩介も一緒にやろうぜ」

 すると、俺は、やっぱり、女子に買い物させて、俺が楽する訳にはいけないと思い、

 「いや、俺は買い物手伝うよ、女の子同士の会話に参加できないから、集まりに入れないし、日差しに慣れたから」

 間をとらず、里実は喋った。

 「じゃ、女同士でじゃんけんしよっか、よし、やるぞ、じゃん、けん」

 ポンと里実が言ったとき、女子全員が手を出した。里実と佳苗が負けた。

 「じゃ、佳苗、じゃんけんしよう」

 佳苗と里実はじゃんけんしたら、里実が負けた。

 「よかった、絶対、こんな強い日差しの中、歩きたくなかったよ、さっきの水遊びだけでも、日差しの暑さでへとへとだよ、じゃ、浩介と行ってきてね、里実なら、私達の好きな物知ってるから任せるよ、みんなもいいよね」

 ホッとした感じで喋る佳苗に、周りの女子は無言で頷いた。みんな、納得したみたいだ。

 俺と里実は売店まで、飲み物を買いに行った。


 俺と里実はいつも、公園で出会い、一緒にランニングをして、広場で運動して、駄弁って、そんな二人の夜が中学から続いていた。そして、二人は初めて、太陽の日差しを浴びた道で、公園以外で、一緒に歩いた。とりあえず、俺は話しかけた。

 「ええと、缶でいいなら、この先で氷水に漬けて販売してる店あったよ」

 「え、売店のは高いだろ、少し歩いて道路出たところに普通の値段の自販があるんだよ、たまに半分くらい売り切れのときもあるけどね」

 あっそうか、こんな砂浜にある出店は高かったな、道路超えた所の自販なら普通の値段で売ってるよな、よく考えたら、

 「店のは、観光客や働いてる人が使うんだよ」

 確かに、あまり海水浴に行ってないので、そこまで、考えたことなかった。

 続けて里実は、俺に何かを渡しながら喋った。

 「はい、袋、みんなの分を運ぶのに使うだろ、どうせ何も考えてないだろなと思ってるよ」

 袋を渡された、うん、袋を用意してなかった。

 その後はあまり、喋らないまま、ひたすら自販機まで歩いていた。

 そして、目的の自販機に着き、里実と俺は人数分の缶ジュースを買った。

 その後、俺は、里実に声を掛けた。

 「ねぇ、俺が缶コーヒー奢るから、しばらく、この横で休んで飲んでいかない?」

 よく考えたら、夜の公園以外で里実と二人になるのは初めてなので、缶コーヒー飲みながら二人で、少し時間を潰そうと思った、いつもの夜の公園みたいに、

 里実は、少し考え込んで、返事を返した。

 「…いいよ」

 なんか、少し間が空いた気がしたけど、気にせず、さっき買った缶とは別に、小さい缶コーヒーを買って、里実に渡した。そして、自販機から少し離れて、少ししゃがんで、小さい缶を空けた、里実もしゃがんで渡した缶を開けて飲んだ。

 俺は、話し掛けたけど、里実からは淡泊な返事しか返らなかった。なんか、夜の公園にいる、いつもの里実の感じと違った。そう言えば、ここって、海岸隔てた道路の路地だが、夏の人気の場所なので人通りは疎らにあって、人が滅多に通らない夜の公園の広場とは全然違う、お日様も照ってるし、人が絶え間なく通り過ぎる。いつも会ってる場所は俺にとって、少し特別な空間に、里実と二人で居たんだ。そして、今は、現世で二人、ここに居るんだと実感した。今の里実は、いつも見てる里実とは違った。

 あ、そういえば、里実、化粧してることに気が付いた。夜の公園は、昔から素顔で、昨日もノーメイクで、俺と毎日会ってる里実は、むしろ、それが普通だった。でも、今は化粧をしてる。しかも、昼なので、はっきり顔が見える。今更言うが、里実もなかなか美人だ、いや、むしろ、佳苗の可愛いらしさとは違った。少し冷めていて、あっさりした、どことなく澄ました女性のイメージがある美人だ、しかも、前にも言ったが、佳苗と同じで、女にしては、身長が高い、俺が178cmあって目線が変わらない、そして、スラッとして、毎日走ってる割に足は、太った感じじゃなく、しまった筋肉で覆われて長く細く見える。普通にモテそうな女性ではあるが、里実がいつも、佳苗はよく男にモテていて、里実が言い寄る男を追い払ってるって言ってるけど、里実自身も、沢山の男に言い寄られていても全然おかしくない、普通に、男に告白された経験あるって言われても、誰もが納得するだろう。昼の明るい場所で見る里実は、こんなに綺麗で魅力ある女性なのかと、今、考えながら思った。少し前までは、いつも夜に会って駄弁ってる里実のイメージしかなかったので、運動仲間としてしか見ていなかった。いや、まだ幼かった中学の里実のイメージしか、俺には無かったんだなって、缶コーヒー飲みながら無言で考えてた。

 「俺、もう飲んだけど、もうそろそろ、みんなの所に行く?」

 里実は、やっと俺に話しかけてくれた。

 「あ、そうだな、袋の缶持っていこうか、ぬるくなりそうだし」

 そう言った後、二人は、みんながいる場所に戻って行った。


 海水浴に来た高校生の御一行はその後、女子のほうは海に入ったり、シェードに入って駄弁るの繰り返しで、多少は、肌が焼けるのを気にしてるみたいだった。俺は、海で泳いだ後、ビーチボールやフリスビーで遊ぶ野球部に寄せてもらい一緒に遊んだ、女子の中でも一緒に参加する人が出てきた。キャプテンの倉田斗次も面白い人で、一緒に遊ぶようになってから、よく話しかけられて仲良くなった。その倉田さんは、俺に気を配ったり、部員を見てたり、女子にも気を配ったりと、さすが、部活のキャプテンだと関心し、そして、とても性格の良い、優しい人だと思った。


 昼の食事休憩をした後、野球部の三人くらいが、みんなのバーガー買いに行くみたいなので好意に甘えて、スマホでメニュー見ながら欲しい物決めて、

俺の分も頼んだ、そして、みんなでバーガー食べて駄弁った後、野球部の男子は広い場所を陣取って、そこにバレーボールのネットを立てて、カラーの紐を四角く張らして四方に杭を打ち、砂浜定番のビーチバレーのコートを作った。

 とりあえず、男女に別れた後、さらにお互い、二手に別れた後、別れた男女が各々合わさって、男女混合の二チームに別れて、ビーチバレーが開かれた。

 試合は始まり、残りは適当に交代して、休憩しながら試合は続いた。休憩してる人同士で喋ったり、応援したり、どんくさいプレイに笑ったり、からかわれてたり、怒ったりしながら、和気あいあいと試合は続いた。男子は野球部員、女子は元野球経験者だけあって、球技が得意そうな男女なのでバレーのコツを覚えるのが早かった。だが、実を言えば俺は、球技が苦手なほうで、中学時もバレーはあまり上手くなかったので、積極的には参加せず、休憩ばかりしていた。

 けど、身長178cmなので、交代しようと、俺に手招きする人が多く、仕方なくコートに入るが、前にいても、アタックは思いっきり打てず、ボールを下から撫でたような緩い球しか打てず、ブロックもタイミングわからずで要領つかめず、すぐに交代して、後衛ばかりして、不細工ながらも、相手のアタックを何とか手に当てて、前にボールを渡す、動きはぎこちないが、本人は全力で必死なのである。


いつの間にか、二つに別れたチームも相手側に参加したりでごちゃ混ぜとになり、白熱してる者は長くプレイし、苦手な人やバテた人は交代が早く、休憩が多かった。

 まだバレーに慣れない俺が、コート外で休憩してた時、佳苗が俺に交代の合図を送った。ちなみに、佳苗のバレーもぎこちなくて辛そうなのを全く無視して、隣の里実が全力プレイで燃え上ってたので、居心地が悪そうだった。

 仕方なく、俺は佳苗と交代して、目が燃え上ってる里実の横で後衛をする事になった。里実はもう、ここは観光スポットでもある砂浜を忘れ、後衛のセンターを陣取って熱烈レシーブをしてる。そして前にトスを自身に出させて、強烈バックアタックを繰り出す、まるでバレーのテレビゲームのキャラみたいだ。他の後衛がレシーブしても、上手く前に行かず、気を引いてしまう。俺も先程言ったが、普通の山なりボールを何とか返せるくらいなので、思いっきり気が引けてる。

 そんな中、燃え上がる里実が少しイラっとした感じで喋った。

 「お前、背が高いから前衛行かないのか?」

 俺は、気を配りながら返事をした。

 「あ、アタックもブロックもなんか上手くいかないから」

 里実はイラついて俺に喋った。

 「そんな、背が高いのにねぇ」

 ちょっと言葉に引っかかったけど、気持ちを抑えて言い返した。

 「すまないね、球技が昔から下手だったから」

 そんな返事をされて、里実はますますイラっときたみたいだ。

 「走るだけじゃなくて、ボール使う練習もしたら?佳苗より下手だぞ」

 その言い方に俺もムッときた。

 「球技にあまり興味ないし、今でもやりたいと思わないからね」

 里実はかなりヒートした。

 「は?あれだけ練習してて、たまにはボール持って練習すればいいじゃん気分転換に」

 俺も少しヒートしてきた。

 「いや、夜はボールが見えないでしょ、夜にボールで練習する馬鹿いないでしょ」

 里実はブチ切れてしまった。

 「は?最近は夜でも光るボールあるの知らなかったの?言えばいいだろ」

 俺も頭に血が登っちゃったらしい

 「いや、誰かが夜にボール投げないって言ってただけで、俺知らないし」

 「知ってたらキャッチボールするのか」

 「さあ、わからないよ」

 いつの間にか、里実と浩介が言い合ってるのを、周りが注目してプレイが止まっていた。佳苗も会話を聞いて里実に少し言った。

 「里実、ちょっと熱くなり過ぎだよ」

 野球部のキャプテン、倉田斗次も、周りを気にして喋り出した。

 「いやはや、里実ちゃん、元気あるね、さっきから絶好のプレイ見せて頑張ってるもんね、ちょっと休んでみる?あ、いや、まだ、やるよね、そうだ、中川君だっけ、佳苗の友達の、俺の後輩と交代しようか、ね」

 里実は、佳苗の言葉で我に返り、目をキョロキョロさせ、照れるように

 「あ、すまん、熱くなり過ぎた。浩介君、ごめん」

 と言って、浩介に、少し頭を下げた。

 俺は、その場で何をしていいか解らず、野球部のキャプテンの指示で交代する男子が来たので交代をして、無言でコートを出た。すると、佳苗が俺を気にして、傍に来てくれて、話しかけた。

 「えとね、里実はね、いや、ちょっと、こっち来て」

 周りを気にしてか、佳苗は俺の腕を引っ張て、コートから少し離れて、話し始めた。


 「ごめんね、里実って熱くなると時々あんな感じになるのよ」

 佳苗は両手を合わせて申し訳なさそうに話した。

 「里実って、ホントは優しい人なんだよ、中学まではいつも一緒に居てくれて、兄と喧嘩したら仲裁してくれて、ホントに私にとっては一番の親友で、頭が上がらない人なの、里実は」

 佳苗は、必死に里実を庇った。あいつが優しくていい奴なのは知ってるよ、たまにイラっとくるけどね、

 でも、佳苗は首を傾げて、不思議に思いながら話しを続けた。

 「でも、私と兄以外に、あんな言い方する里実って、初めて見たよ、里実、どうしちゃったんだろ、あんなの言う人じゃないのに」

 佳苗は、親友を不思議がっていた。なんかやばい、何かを疑い始めてる。今度は逆に、俺がフォローしだした。

 「いやいや、俺があまりにもドン臭すぎて、嫌になったんだろ」

 「いや、でも、野球のときでも、下手な子でもめっちゃ優しいし、どなったりしないし、なぜだろう」

 よく考えられると、あの会話、夜、毎日会ってるのがバレる際どい内容だったので、あまり、掘り下げられると、いろいろあるので、なんとか誤魔化そうと考えた。

 「いや、実は、、俺、足を、二回くらい、蹴っちゃって、一度目は許して貰えたけど、二度目は完全にキレていて、、それで、つい、言葉にトゲがでてきたんだよ、すまない、女性の足なのに、かなりきつく当たったんだよ、里実、かなり、痛かったんだよ、俺が下手で、つい、無意識に蹴ってたんだ、申し訳ない」

 何とか、その場の嘘をついてしまった。後で、辻褄合して貰おう、

 「そうなの、でも、、それでも、そんなに、怒る人じゃ、、」

 「いや、俺が謝ろうとしなくて、ついつい、知らんぷりしてた、俺が悪かったんだ、すまん、あの場で俺が謝っていれば、こんな事態には、、すまない、申し訳ない」

 ホントは、俺、何も悪い事していないが、何とか、誤魔化さないと、何を誤魔化してるのかよくわからんが、

 「いや、里実もあまり、面識もないのに、あんな…」

 間髪入れずに、遮るように喋った。

 「いや、お兄さんが学校来てもらって、助けてもらってから、学校でお互い挨拶したり、軽く話したりはするよ、ホント、優しくて、ボーイズな感じで、女にモテそうな感じだよね、里実さんは」

 佳苗は、ハッとした表情を浮かべながら話し続けた。

 「え、そうなの、里実と話したりしてるの?知らなかった」

 やっと、話の方向を変える兆しが見えた。よし、危険だがこれに乗ろう

 「だって、同じ学校でしょ、逆に会わないのが変だよ」

 佳苗は少し、目線をそらし、上を見て話した。

 「え、確かに、一度も会ったことないのが逆に」

 とにかく、畳みかけよう

 「うん、でも、長話はしないよ、一分も喋らないよ、里実さんだって、陸上部の佳苗の様子知りたいし、俺も兄さんのことでお礼言うし」

 「え、里実、私のこと、何か喋ったの?何?」

 「大した話、しないよ、俺は佳苗の事なんて、ぜっ、たいにきいていないから、安心して」

 「え、何それ、絶対、私のこと聞いてるでしょ、里実、何話したの?」

 「だから、何も聞いていないって」

 よし!話に食いついたと感じた。

 「いや、絶対、私のこと、聞いてる」

 「なんでだよ、だから、一分くらいしか話さないのに、佳苗のことなんか言う暇ないよ、それに、里実さんは、そんな口の軽い人なのか?」

  佳苗は、少し睨みながら考えて話した。

 「…、じゃ、さっき言った言葉は何?、里実、何か言ったでしょ」

 「言っても、兄貴のことや、佳苗に兄の話をしたら面倒になるから、俺から佳苗に話すなって、助言されたくらいかな、それから、陸上で頑張って、大会で好成績出したくらいかな」

 なんか、腑に落ちない感じではあるが、納得はしたような感じの佳苗であった。

 「…、わかった、後は、後日、里実から聞くから」

 納得したセリフを言っても、目は睨んでるが、難は過ぎて良かったと安心した。

 「わかったよ、でも、学校で、里実さんと会ったら、話してもOKだよね、ダメなら、挨拶だけして無視するけど」

 「なんだよ、それって、私に気を使って話さないみたいじゃん」

 「いや、こんな会話になって、何話したか疑われるくらいなら、話さないほうが面倒がなくていいじゃん」

 「じゃん、つけるなよ、別に里実と話してもいいよ、変なこと聞かないなら」

 「なになに?変なことあるの?聞かせてほしいな、里実さんの口から聞く前にさ、いいじゃん」

 「いい加減にしろよ、浩介」

 あ、言いすぎてしまった。佳苗の目は、かなり恐ろしく、憎悪が満ちていた。しまった、やりすぎた。

 「いや、変なことあるなんて初耳だったので、つい、佳苗って、どちらかというと、物静かな女子って感じだと思っていたから、もしかして、中学時は違うのかなって、だったら、つい、知りたくなって」

 「もういいよ、いい加減ここで話しても仕方ないから、コートに戻ろう、里実がまだ機嫌悪かったら、私から言っておくから、もう行こう」

 なんか、癪に感じないまま、佳苗はコートに戻ろうとした。俺は、何とか誤魔化せた、乗り切って一安心した。何を誤魔化したのか、何に一安心したのか、本人はまだ、わかっていないが、

 二人は、話しが終わり、バレーのコートに戻った。


 その後の夜の公園


  海水浴に行った日の夜も、この公園で走っていた。もう、とっくの昔に、ここに来るのが日課になっていた。朝起きて、学校行くように、夜になると、この公園に走りにくる。日課になれば、練習も苦じゃなく、歯を磨くように、ここで走ってる。ただ、高校になってから、陸上競技の成績に反映されないのが問題だが、

 しかし、問題はここで、練習をするのとは別にある。実は、前からなんとなくは思っていたけど、別に気にする程でもないと思ってたのか、まぁいいかと見過ごしていた。

 俺はここで、里実と会っていることは、高校の誰にも、佳苗にも話していなかった。正当な理由はたくさんある。何より、二人は中学からここで会ってたんだ。そして、同じ高校に入学しただけだ、誰にも、俺からみんなに言う必要なんて全くない、しかも、最初は知らなかったし、佳苗と仲良くならなかったら、俺と里実は普通の高校の同級生なんだ、誰に言う必要が?誰に許可が入るのか?俺が誰と会おうが自由だ、だから俺は、いつもここで、里実と会ってることは誰にもわざわざ言わなかった。そして、時々思ってたんだ、引っかかってたんだ、思ってたけど、まぁいいかですぐに済まして、別のこと考えた。そこまで考える必要ないってね、


 里実も、佳苗に、毎晩ここで会ってるのを言ってないよなって、


 薄々気付いてたよ、もし言ってたら、佳苗は絶対、ここに来るから、ここで里実と会ってるのを知ったら、必ず、ここに来るから、でも、この夜に、この公園に、佳苗は一度も来ていない。だから、里実も佳苗に、俺と毎日会ってるのを、言ってないんだなと、時折、ふと思ったかな、そして、今日の砂浜のビーチバレーの言い合いで、それを強く感じてしまった。不思議に思ってて、今まで、気付いていない振りしてたのかな、


 「おい、何ボーっと走ってやがる、まっ、いつもだがな」

 いつものようにどこからか、現れて、走ってる俺に話しかける

 「いつものように、話しかけますね」

 「いつもだよね」

 いつもの喋りながらのランニングが始まった。

 「お前、球技下手だな、今まで知らなかったよ、もっとできると思ってた」

 「走るだけが好きだからね」

 ふと、里実を見た、やっぱり、化粧していない、中学の頃からの里実だ、いかにもスポーツ万能女子な、健康体そのものの里実だ

 「この公園での練習で、なんかやるか?今日、砂浜で言った、光るボールはあることあるが、室内とか安全なグランド限定で、公園みたいな、そこらに障害物がある場所だと、ボール取ろうとして何かにぶつかるからな」

 あ、そうか、試合中にキレながら言ってた、光るボールでキャッチボールか、確かに、公園みたいな場所で真っ暗な場所で、ボールだけ光ってても危ないよな

 「だから、バトミントンとか、サッカーとか、別のスポーツだったら、夜でもできそうだけどね」

 気を使ってるのか、言い過ぎたのを反省して気にしてるのか、うん、そだな

 「いや、別にここで球技の練習なんかしてもしなくてもいいけど、俺は陸上の練習に来てるだけだから」

 「たしかに、いや、別にいいけど、お前が球技が上手くないの気にしてるなら、いつでも練習、ここで付き合うって言いたかったんだよ」

 「そういえば俺って、昔から球技下手だったっからな、体育のとき、思ったより下手だって、絶対、みんなから言われてたよ」

 「確かに見た目より上手くないよな、特にお前、背が高いほうだから、バレーなら前衛やらされるし、サッカーならキーパーやらされるし、バスケもできそうなのに、見た目に反して下手だといろいろ大変だろ」

 確かに、背が大きいとキーパーやらされる、あるあるだよな、そして、ドン臭くて点を何度も取られると、味方が溜息つきながら交代させられる。あるあるだよな

 「なぜ、背が高いと重要なポジションになるんだろうな」

 「ほとんどの球技が、背の高い人が有利になるからだよ、野球もプロは180cm超えばっかりなんだよね、一般では知られていないけど、背が高くて体重重い人のがパワーがあってホームラン打ちやすいし、球も速くてピッチャーも背が高い人多くてね」

 へぇ、そうなんだ、球技はほとんど、身長重視なんだな

 「だから、もし、球技が人並にできたいと思うなら、俺が練習つきあうぞ、いつも陸上の練習じゃなくても、たまには気分転換に別のスポーツもいいんじゃないかなって思ったんだよ」

 「確かに、いつも陸上じゃなくてもいいか」

 「そうだよ、たまには、違う練習するのも息抜きでいいんじゃないかって思ってね、でも、もしよかったらでいいよ、お前にとって、陸上は大事だしね」

 「ああ、息抜きも大事かな」

 「そうだよ、今度、何か、考えとくよ」

 「ああ、ありがと」


 この後も、いつものように喋りながら一緒に走って、広場に着いたら、喋りながら練習して、毎晩飽きずに日課になっていた。そして、今日、聞こうと思った。


 「里実って、いつも、ここで俺と会っているの、佳苗に言ってるの?」


 今日は、言うつもりだった、尋ねるつもりだったが、言葉が出ないまま、二人は去って、公園から家に帰った。

 聞き忘れた?すっかり忘れてた?いや、聞けなかったんだよな、聞くのが怖い?何を恐れている?うん、おそれているんだよな、


 「もし、聞いたら、二度と夜に公園で会えなくなるんじゃないか」


 気付いてない振りしてんだな、自分に、毎晩、公園会えなくなるのが、何がダメなのか、何を恐れてるのか、まだ本人もよくわかってないし、里実もそうなんじゃないかって、いや、もういいかって、先延ばしにして、いつもの夜が終わるんだよな、

 多分、二度と聞くことはないだろうな、今のままだと


   二枚のチケット


 まだ、八月中旬の夏休み、いつものように、陸上の練習をしていた。最近は、佳苗と一緒に練習していない、佳苗も陸上の練習を理解し、単独で練習することが多くなった、前にも言ったが、市大会では優勝、県大会では五位で、県大会は、佳苗にとって初めての公式大会だったので、緊張して、全力が発揮できず悔いが残り、市大会は、かなり満足できる走りができたので、県大会で市大会のように走れたら、もっといい成績を残せたと悔しいらしく、秋の大会に向けて猛練習で、俺を気に留めなくなった。俺は俺で、教える必要がなく、自身の練習に集中できるので願ったりだけど、なんか、取り残されている気分だった。


ある日、母が俺に、いつも持ち歩いてるバッグの中を漁りだし、チケットのようなものを出して言った。秋に豪華客船が来航し、一週間程、船内で行うディナーサービスのチケットを母の昔のダンス教室の仲間が予約して買ったものの、時間が取れなくて使えないみたいで、そのチケットを母が貰ったみたいだが、そのディナーは途中で社交ダンスの時間があるらしく、父は踊れないから行かないと断られたみたいだ。それで、俺に行けと言い、その昔通ったダンス教室に、授業料は払うから基本レッスンに通えと、半場強制で命令された。

 こんなイベントの社交ダンスは、みんな、基本しかできない初心者が多くて、みんな周りを気にしないから未経験の俺でも大丈夫としつこく説得され、渋々、ダンスのレッスンを受ける事にした。しかし、もう一つ問題がある。このチケットはペアでの招待となっている。だから、相手と一緒に行き、ペアで社交ダンスを踊らないといけないらしい。母が言うには、もし、同級生なんかで一緒にいく女子が入れば、その人の分もダンスレッスンの授業料をチケット買った友達と折半で払ってくれるらしい、とにかく、社交ダンス踊れそうな女子を見つけるか、いなければ、ダンス教室のオバちゃんと一緒に行って貰うと母は言っている。正直、おばちゃんとは流石に嫌だ。


 夏休みも残り少ない中、学校に通い、部活の昼食休憩、佳苗と一緒にバーガー店に入って食事をしていた。その時に客船のディナーの話を佳苗に切り出した。

 「えとさ、佳苗って、社交ダンスやったことある?」

 「え、何それ、いきなり、言われても」

 「いや、やってるほうがレアだよね、佳苗って、ダンスとか踊りとかやってる?」

 そう言えば、佳苗は球技も苦手だし、走る以外の運動はほぼ全てダメって言ってたな、なんとなく悪い予感がした。

 「え、ダンスなんて全然できないよ、だって、運動会とかで全学年でやる集団ダンスも覚え悪くて、居残りやらされたりして、当日も嫌で嫌で、どちらかで言うと踊るのは嫌」

 やっぱり、そんな返事がきた。女子はダンスって、ハマるかやらないか、好きか嫌いかの二極ではっきりしてるよな、なんか、佳苗は嫌い派の予感はした。

 「え、じゃ、俺と社交ダンスする機会があるって言ったら、どうする」

 遠回しに言う計画にした。

 「え、やだよ、そんなのできないよ」

 やっぱり、

 「いや、なんか、食事の後、社交ダンス踊る、豪華客船のサービスがあって、彼女と行かないかって、母に言われて」

 「え、絶対いや、社交ダンスなんか嫌だよ、しかも、沢山の人前で、絶対いや」

 とにかく、食べ物で釣ろうとした。

 「いや、そのディナーサービス、チケットだけでも十万で、食事もフルコースで高級肉も出て豪華みたいだよ、そんな高級料理、滅多に食べれないよ」

 「いや、別にフルコースとか肉が高いとかどうでもいいし」

 なんとかならんかな、半場あきらめてるが

 「なんなら、社交ダンスのレッスンも無料で受けられるから、社交ダンス出来なくても大丈夫だよ」

 「なんで、私がダンス習わなきゃいけないのよ、別に社交ダンスなんて、踊りたくもないのに、そんな時間あったら走りの練習したいよ、秋の県大会は絶対タイム更新して、インハイ、国体、目指してるのに、そんなダンスやってる時間ないよ」

 実は、秋の大会に向けて、佳苗は最近、ピリピリしてる。もう、これ以上言うとやばいと感じ、撤退することにする。

 「そうだよな、秋に向けて頑張らなきゃいけないときに、ダンスに時間割けないよな、ごめんな、息抜きになるかと思って誘ったんだ」

 そう言って、その場は終わり、手元に運ばれたハンバーガーを食べることにした。

 ハンバーガーを食べてるときに、ふと、里実を思い出した。里実なら、ダンスできるかもとひらめき、食べ終わってから佳苗に聞いた。

 「ええと、里実って、ダンスできるかな」

 佳苗は、眉間に皺を寄せて、少し考えてから話した。

 「んー、あ、そうだ、中学のとき、ダンスチームに誘われてやってた頃あったよ、五人で出場するダンス大会に参加したいから、みんなとやるダンスを覚えるだけでいいからって誘われてたのを覚えてる」

 へー、と思った。里実ってそんなブレイクダンスとか、やる女子なんだと

 「里実は、運動関係なら、よく人に誘われて、断らず何でもやるからね、そのダンスチームにも入って、一緒に大会出たみたいよ、確か、振付考えてもらって、ソロのパートを、会場で踊ったとか」

 へー、まぁ、あいつは何でも出来そうな、運動神経の固まり女子って感じだけどね、

 「そうなんだ、確かに、運動得意そうだったよな、里実は、なら、社交ダンスもすぐ上手くなりそうだね」

 佳苗は、首傾げて、浩介に尋ねた。

 「ん?もしかして、里実を、そのディナーに誘おうとしてるの?」

 「うん、里実さんなら、適任かなって」

 「ちょっと、なぜ、里実なんだよ」

 なんか、佳苗の雲行きが怪しくなってきた。

 「いや、豪華料理のフルコース食べてみたいし、世界トップクラスの大型豪華客船に乗ってみたいじゃん、そんな機会ないし、里実さんだったら、社交ダンスできそうだから、いけるかなと思って、佳苗、今度、里実さんに言ってもらえるかな?」

 「えー、里実と行くの?」

 「だって、佳苗は陸上の練習で忙しいし、大会も大事だし、さっきから嫌って言ってるじゃん、じゃ、佳苗が行ってくれるの?」

 「絶対にいや!」

 「だろ、だったら、里実さんに頼んでもいいだろ、里実さんは野球部のマネージャなので大会関係ないし」

 「おい、浩介も秋の大会に出るよね、決勝行きたいって言ってたよね」

 あ、俺も秋の大会に出場するのだった。でも、ディナーも行きたくなった。

 「でもさ、チケット十四万円だぞ、一人七万円分だぞ、こんな高価なディナーなんて行く機会ないから、チャンス逃したくないんだよ、里実さんに軽く言ってみてよ」

 佳苗は少し機嫌損なってるみたいだ。

 「はぁ?必死にやって、なんとか決勝出れるかの所なのに、豪華な食事のために社交ダンスの練習って、何それ、それで、私の友達と二人で高級料理で手をつないでダンスするって、ねぇ、あー、なんか、もやもやする」

 佳苗は、指をテーブルにコンコンしだした。

 「いや、いいだろ、佳苗が行きたくないなら、他の人と行くしかないじゃん、だったら、他の女子や、ダンス教室で紹介される女子と行くことになるけど、そっちのがいいなら、じゃ、そっちにするけど」

 佳苗は、いきなり、俺を睨み、直ぐにそっぽを向いて、腑に落ちない様子で喋った。

 「--ん、なんか腹立つけどいいや、里実に言ってみるよ、会ったらの話だけどね、いい返事来ないかもしれないけど、期待しないでね」

 相変わらず、指をテーブルにコンコンしながら喋ってる、そしてまた、睨んで、残ってるバーガーを不機嫌そうに食べだした。

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