第5話 やっぱここって...

 「よし、外までの道案内を頼む!!」


俺は無い口を大きく開けて二人に頼む。

向こうが主と呼ぶならば、それ相応の態度をとってやろうと思ったのだ。

だんだん二人にも馴れてきたし、俺は偉くなった気分になった。

浮かれてる、という言葉がぴったりだろう。

まあ、そんなことはどうでもいい。

問題は、次のスルトの発言によって、俺の中で革命が起こったことだ。


「道案内ってご冗談を。主様ならば、この迷宮内の構造をすべて把握できますでしょうに。」


「え、あ、そうなの....?」


スルトに言われて、意識を集中してみる。

すると、脳内に、この迷宮内の情報のすべてが流れ込んできた。

迷宮内の生命、石ころの数、風が切る音の一つまですべてが感知できるのだ。

しかし、考えてみればそれは当たり前のことだった。

なぜならば、俺はこの迷宮そのものだからだ。

自分自身のことなのだから、知らないはずがないのだ。

改めて自分がこの場所の主なのだと再認識したのだった。


「ところで、主様のことはなんとお呼びすれば?」


しばらく道を歩いていると、スルトが質問してきた。

確かにこれは大事なことだ。

前世と同じ名前を名乗るのもいいのだけれど、この世界ではなんだか浮きそうだからやめておこう。

スルトにしろ、キュアにしろ、二人は横文字のかっこいい・かわいい名前だ。

俺もそんな感じの名前にしたいと思ったのだ。


「ねーねー!ラビリンスなんてどう?」


キュアの提案だ。

うーん。

迷宮にちなんでいて、悪くない案だが、人名とはなんか違う気がする。

ほかにも、ダンジョン、メイズ、秘境、祠、迷路など、いろいろ考えたが、なかなかいいのが思いつかない。


「まあ、考えておくよ。ひとまずは主様でいいかな。」


俺は、そうスルトに返す。

スルトはかしこまりましたと手を胸に当て、軽くお辞儀をした。

そんなことを話していると、迷宮の外が見えてきた。

日光だ。

日光が狭い洞窟の入り口に差し掛かっている。


「おおお、ついに!!」


俺は駆け足で外に出る。

そして知る。


「やっぱここ、俺の作ったゲームとは別の世界だ。」


そう、迷宮の仕組みといい、スルトやキュアと言い、自作ゲームと共通する点は多々あるが、別物だと判断できた理由は、迷宮外に世界が広がっているという点だ。

俺は迷宮を作るゲームを作っただけで、それ以上は何も作っていない。

だから、迷宮の外が存在することがそもそもおかしいのだ。

だから、ここは俺が作ったゲームの中ではない。

本当の’’異世界’’だ。

だが、似ている点が多いのも事実。

なんだか、自作ゲームが部分的にこの世界に吸収されたような感じだ。

理屈はわからないが、ひとまずはそういうことにしておこう。

そうして思考を切り替えたのだった。


「よし、少し探検しよう!」


そう言って、目の前に広がる森の方へと走る。

言い忘れていたが、迷宮の入り口は大森林の真っただ中にあった。

地面からモコっと盛り上がっている感じで、はたから見たらただの野生動物の洞穴だろう。

それぐらい質素な感じだ。

そして、森を少し進むと、見慣れない生き物と出くわした。

顔はブタなのに二足歩行。

手にはこん棒のような木材を持っており、口には二本の鋭い牙がぎらついている。

オークと呼ばれる魔物だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 日・金 06:30 予定は変更される可能性があります

転生したら迷宮そのものでした 可じゃん @kajan_syousetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ