第4話 転生したら迷宮そのものでした
スルトは俺が求めていたことにすべて答えてくれた。
まず、この場所についてだが、ここは新しく誕生した迷宮だそうだ。
新しくといってもすでに誕生から数か月たっており、その間俺は眠りについていたそうだ。
迷宮って誕生するものなんだ、とか、なんで俺は寝てたんだろう、とかはこの際聞き流すことにした。
そして、ここが肝心なのだが、おれはこの迷宮の主らしい。
というかこの迷宮そのものと言った方が正しい。
なぜなら、俺の正体はこの迷宮の核で、いわば迷宮の脳であり、心臓だ。
このミラーボールのような見た目にも納得がいくというものだ。
そして、スルトとキュアの二人もこの迷宮から誕生したらしい。
見方によっては俺は二人のパパということになる。
「なるほど。それで俺のことを主様と呼んでいたのか。」
「左様でございます。我々は主様の目覚めを長らくお待ちしておりました。
「あ~!ずるい。あたしも、主様の面倒をずっとみてました~!!」
スルトの謎のアピールに反抗し、キュアもすかさず会話に割り込む。
何回か二人の会話を聞いてて一つ気づいたことがある。
二人は俺のことですごく喧嘩するのだ。
思ってくれるのは嬉しい限りなのだが、原因が俺となると、少し思うところがあるのだ。
まあ、それはさておき、俺は一つ重大なことに気が付いた。
むしろなんで今まで気づかなかったのだろうと思うようなことだが、この迷宮といい、スルトとキュアといい、どことなく俺が作ったゲームに似ているのだ。
スルトは高潔な悪魔で、キュアは麗容な吸血鬼のNPCだったはずだ。
俺が作ったときはそうだったのだが、今目の前にいるのは主に従順なワンコだ。
(なんだか状況がつかめてきたぞ。俺は死んだのちに、自分が作ったゲームの中の迷宮そのものに転生してしまったのか。)
だが、それでもピンとこないのだ。
ここは本当に俺が作ったゲームの中なのかは、まだ疑う余地があると思った。
そこで、その真偽を確かめるべく、俺はある名案を思い付いた。
「そうだ!外に出よう!」
陰キャから出たとは思えない発言だが、事実だ。
なにより、外に出ることによって、あることが確定するのだ。
それでより正確に自分の置かれている状況がわかる。
「外に出かけるのですか?それでしたら、疑身体で出かけましょう。」
「疑身体?」
「左様でございます。疑身体とは、主様が肉体を作り出し、それに意識を共有し、遠隔で操作できるものです。迷宮の核であられる主様の本体ごと迷宮外に出られるわけにはいかないので。」
「なるほど。つまり、それを使って、おれの本体は迷宮内から、外を安全に出歩けるってわけか。」
「その通りでございます。」
なるほど、便利なものだ。
感覚でいうと、超高性能なラジコンを操作するようなものなのだろうか。
いずれにせよ、肉体を作り出せるのであれば、俺は人型がいい。
やっぱりそっちの方がしっくりくるのだ。
「それで、疑身体ってどうやって作るの?」
材料は何なのか。
どのような工程が必要なのか。
時間はどれくらいかかるのか。
それらを知りたいというのがこの質問の意図だった。
しかし、返ってきた返答はあまりにも予想外なものだった。
「何を仰るのですか。我々を作られたとき同様にただ生み出すだけですよ。」
ただ生み出す。
なるほどね、と思った。
(いや、できるか!!)
0から1は生まれない、なんか偉い人がそう言ってた気がする。
というか俺の知る限りではそうだった。
ならば、材料を探さなければならない。
(そういえば、この世界に魔力はあるのか?)
魔力とは、俺が作ったゲームの重要な要素の一つである、いわばエネルギーだ。
カレーに福神漬けみたいな感じで、これがないと何も始まらないのだ。
であれば。
俺は、自身の奥底からこみ上げる魔力を感じた。
いける、と直感的に感じる。
その瞬間俺は理想的な肉体を想像する。
すると、パアァァァァっと目の前で魔力が錬成され始めていく。
どこからか光の粒子が収縮し、輝きが収まったのち、そこに立っていたのは前世と同じくらいの年齢、背丈の人型だった。
つまり17歳だ。
しかし、その人型を人間と呼べるかは怪しかった。
ショッピングモールにあるアパレルショップの店頭に並んでいるマネキンを想像してほしい。
まさにあれだ。
目、鼻、口、髪の毛、毛穴に至って何もない。
顔はのっぺらぼう。
本当にただの’’人型’’だ。
「う~ん、もうちょっといい感じのを作ったつもりだったんだけど、まあ第一作目はこんなもんか。」
そういうと俺はひとまず作った疑身体と意識をリンクした。
(おー。なんだかわからないけど、うまくいったみたいだ。目がないのに見えるのはなんでだ?まあ、そんなことはどうでもいいか。)
てっきり意識を移すと、元のミラーボールのような体とは離れ離れになるものだと思っていたが、そうではないらしい。
変な感覚だが、二つの個体に同時に意識が存在しているのだ。
しかもそれが混同したり、競合したりすることもない。
これは恐らく人間の感覚とは程遠いものなのだろう。
でも意外とすぐに馴れそうだ。
(並列思考的なものかな?それともちょっと違う気もする...。)
まあ、なんだかわからないが、目的は遂げれたのだ。
次の目的は迷宮の外だ。
俺は動かし馴れた人の姿で、大きく一歩を踏み出したのだった。
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