花束を

tanaka azusa

第1話

好きでもない男から、

しみったれた彩りの花束を貰うことに、飽き飽きしていた。


じめりと汗が伝う夏も終わりのようで、

蝉の死骸があちらこちらに転がっている。


そもそも私は派手な色が似合う。

薔薇や百合、ダリアのような大ぶりな華やかしいものが好きなのだ。

昔っから、そうだった。


決まって月に二度、その男は来る。

こんな猛暑続きに、深いブルーのハンカチで汗を叩きながら、

やつれた背広でやって来る。


孤独なんだろうか。まあ、そうなんだろう。


サラリーマンとやらに貴重な休日を捧げ、

デートにも誘わず、ただ花束だけを、伏せがちな瞼で、目も合わさず、

そっと優しく、私の手に乗せる。


視界が花で塞がる。


大きな百合は良いとして、

紫色の変な花や、黄色の小ぶりな地味な花を両手いっぱいに買うもんだから、

お金があるのかしら、と思う。


でも、見た感じそんな大層な服も着ていないし、シャツは皺が寄っている。

疲れ切った顔で、また俯いて。


この間より、痩せたのではないの?


……でも、なんとなく身なりや仕草から、不思議と気品が漏れていて、

それはきっと、生まれが裕福だったのだろうと、

そう生い立ちを考えたりしていた。


「ありがとう、でももう困るのよ。

こんなに沢山、しかも毎回…」


そう言うと、返事をするでもなく、

「そうだよな、俺が悪かった」

などと自責めいた言葉ばかり。


私なんか諦めて、他の女に行けばいいのに。

よほど、不器用なんだわ。


私は、テーブルに常備している和菓子などを振る舞う。


けれども、あまりに無口で、居た堪れない。

こんな年を、何年過ごしているだろう。


もう何度、花が枯れたか。

枯れる頃にはまた、この男がやってきて、

奇妙な世界に迷い込んだみたいだった。


 


私の部屋は、数年前から狭くした。

もう良い年だし、清潔で美しいインテリアさえあれば十分。

窓からの眺めはいいし、私もあなたと同じ孤独なの。


だから――


痩せ細り、やつれ果て、枯木みたいになるのはよして。

恋だって、していいから。


花束は、明るい花に変えてちょうだい。

死んだって、そんな花束、私には似合わないんだから。

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花束を tanaka azusa @azaza0727

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