12時55分

@YuTaguchi

12時55分

12時55分。チャイムと同時に俺らは駆け出した。


昼休みの食堂は、一日の楽しみでもある。俺ら五人は、いつものテーブルに集まった。


「お前飽きないのかよ」

 山下のラーメンに、黒澤が笑いながら突っ込む。だが黒澤のトレイにも例のごとくカレーが乗っていて、ツッコミ返される。

「おまえこそ」

 二人のやりとりに、俺たちは呆れ顔。


 関山は相変わらず山盛りのご飯をかきこんでいる。「まじ足りない」と言うけれど、まだこれは前半戦。関山のご飯は追加でポテトやチョコパイを買うことで終了する。もはやご飯というより訓練だ。

 一方の戸ヶ瀬は、ガリガリなのにいつも通りお弁当。お母さんが作ってくれるらしいけど、量は少なめで、身長が高いのが不思議。

「それで足りんの?」と俺が聞くと、彼は「いや、足りてない」とさらっと答える。いつも通りの答えだった。


 俺は日替わりの特選丼。特にこだわりがあるわけじゃないけど、こうやって全員が違うメニューを囲んでるのが妙に楽しい。


 そして最後に始まったのはお決まりの「食器じゃんけん」負けた奴が全員分の食器を片付けるというものだ。


じゃんけんぽん!


山下が負けた。でもこいつはずるい。「いや、今のは無し、目痒かった。」

お決まりのくだりに次々とツッコミが飛び交う

「はー?」「なんでやねん!」

結局いじられキャラの黒澤が運ぶことになった。これもお決まりのくだり。


 「次の科目だるすぎー」

 山下が言うと、全員が一斉にうめき声を上げる。そんな声が食堂のざわめきに混じって消えていった。


 他の人からすれば、どうでもいい会話。でも俺にとっては、このどうでもいいやりとりが、部活とか勉強よりも大事に思えてくる。


 高校2年生の夏。教室に戻りながら、ふと思った。

 ──こんな時間が、いつまで続くんだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

12時55分 @YuTaguchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る