ヘキサグラム🔯ストーリー 〜金色の聖女と黄昏の終末者〜

天宮終夜

*PROLOGUE*

           *


 深夜零時。

 誰も寄り付かない森の奥にある古びた教会。

 月明かりのみが室内を照らす中、"聖女"と呼ばれている少女が祈りを捧げている。

 金色の髪と祈り終えて開かれた青い瞳。

 学園に通う同年代からは『神々しくて近寄りがたい』と噂される程の優等生。

 そんな彼女が寮則を破り、わざわざ寝間着から礼拝用の白のドレスに着替えてここに来た理由。

 それは今日の夕方にある報告を受けたからだ。

「ついにこの日が…………来てしまったのですね……」

 夕方の報告によるとその人物が明日の午後に彼女が住む国――エデンにやってくるらしい。

 それは願わくば一生会いたくなかったはずの相手。

 ただの御伽噺が現実になったと知って眠れず、心をと落ち着かせるためにやって来た。

 しかし、どれだけ国の信仰の対象である割れたステンドグラスの向こうに見える神樹に祈りを捧げても心は晴れない。

 不安や恐怖といった負の感情が募るばかりだった。

神城かみしろ……カナタ…………。あなたは本当に――」

 続けようとした言葉を飲み込むと頭を振り、再び目を閉じて祈りを捧げる。

 彼女が寮の自室に戻ったのは三時間後。

 いつもより睡眠時間が足りないが今日も普通に授業がある。

 "ズル休み"という選択肢が思いつかない彼女は眠たい目を擦りながら学業に励むのであった。



           ◆

 

 

 名前も知らない色とりどりの花が咲き広がる花畑。

 遠くの方には黄金の輝きを放つ大きな樹が見える。

 何故かあそこへ向かわないといけない気がして歩き始めると花々が色を失った。

 まるでこの先は進んではいけないと忠告するように。


 ――引き返してください。


 周りに気を取られていると正面に一人の少女が立っていた。

 金色の髪に青い瞳。

 華奢な身体を包む白いドレス。

 背丈的に俺と同い年ぐらいだろうか。

「君は――」


 ――ゴンっ!


 鈍い音と共に頭に痛みが走ると俺の意識は浮上した――――。



―――――――――――――――――――――



「痛っ! ……?」

 痛みに悶えて頭を押さえそうになったが届かない。

 ボヤケた視界が良くなると最初に見えたのは怪しげな機械によって拘束された自分の両手。

 頭を打ったのは乗っている車が大きく揺れたからか。

「なんだこ……ああ、そうか」

 思い出した。

 一週間前に届いた一通の郵便物。


 ――君は選ばれた。


 そんな胡散臭くも世界的に信用がある招待状。

 『まるで物語が始まるような予感!』という感じでうっきうきで同封されていた航空券の飛行機に乗り、現地に着いた瞬間にこの護送車っぽい車に押し込まれた。

 まさに天国から地獄である。

 そんな状況で何故俺――神城カナタがのんきに寝ていたかというと――。

「……」

 対面側に座るメイド服を着た赤髪赤目の少女にいくら話しかけても無視されたからだ。

 今も俺の情けない姿を凝視しておいて無反応。

 まあ、睨みつけているので正しくは無反応ではないのか。

「あと、どれくらいで着くんだ?」

「……」

 一度寝て気分はリセット。

 何よりいつ着くのかもわからないので暇潰しに話し相手は欲しい。

 しかし、よくよく考えたら謎の多い子だな。

 俺とそう歳が変わらなさそうなのに大人に混じって俺を護送? している。

 しかもメイド服で……そうメイド服で!

 無感情系キャラかと思えばそうでもなさそう。

 見た目のイメージ的に苛烈で口うるさい感じだ。

 こういう相手と話すだけなら簡単だ。

 わざと目に見える地雷を踏み抜けばいい。

ひん乳……」

 予想通りコンプレックスだったようで初めてこめかみがピクついている。

 よし、この調――。


 ――ヒュン!


「……」

 どこから取り出したのか。

 俺の右耳すれすれにナイフが刺さっていた。

「どうやら命がいらいよう……ね」

「冗談! 冗談だって!」

 まさか地雷かと思ったものが原子爆弾だったとは!

 笑顔に含まれたさっ気だけでころされそう!

「別に普通だよな?! 俺が悪かっ――」


 ――ヒュンっ!


 今度は左耳すれすれ。

 コントロールいいな……。

「次、余計なこといったら……わかるわよね?」

 三本目のナイフをペン回しのように回して威嚇される。

 目は口ほどに物を言う。

 たぶんこれは……『次は眉間にぶち込んであげるわよ?』かな?

「はい……」

「ふんっ!」

 思った通りの無表情系とは程遠い子だな……。

 そういや中学まで住んでいた孤児院の院長の娘に『君は余計なことさえ言わなければモテるのに……』と残念がられたっけ。

 見ず知らずの土地に来て人間関係を新たに築かないといけないからこれを機に改めよう。

 とりあえず、何となく両側にあるナイフを抜けなかったので固定された体勢のまま、早く目的地に着くことを祈るしかなかった。

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