白に墨蹟

みこ

プロローグ

 自分のことを好きな人間というのは、分かるものであると梨香子は思う。

 ぐるりと首を巡らせて、視線が絡めばまず一つ。

 何度も目が合えばまた一つ、更に一つ。恥ずかしそうに視線を逸らすかにこりと微笑むかは人によるが、大概その目にきらりと光が宿る。

 話しかけるとぱっと肌が輝き、堪えきれない喜悦に口元が綻べば、ーー決まりだ。


 梨香子は大抵において、そのあからさまな好意に気がついていないふりをする。

 放っておけば告白して来ないものを、敢えて暴いて良い事などない。振るにも労力は必要であるし、自分に熱い視線を向ける彼らの姿に、密かに優越感を覚えているだけで良かった。

「梨香子。今年のクリスマスの予定は?」

 親友の侑芽に問われ、梨香子は窓を背にんー、と秋の風を吸い込む。

「どうしよっかな。侑芽が彼氏作るなら、作っとこうかな。ぼっちはヤだし」

「来年は受験だし、あたしは作っとこっかなとは思ってるけど」

「狙ってるのいるの?」

 侑芽はちらり、と視線を黒板の方に向ける。

「小原が今フリーらしいんだよね」

 目を向けた先には、黒板を消しながら友人と笑い合っているクラスメイト、小原の姿がある。

「あれ、別れたんだ?」

「って聞いた」

 別のクラスに彼女がいると聞いていたが、いつの間にやら別れていたらしい。侑芽は密かに小原がずっと好きだ。小原に彼女がいる間に他に彼氏を作ってみたものの、侑芽の心はずっと、小原にあることを梨香子は知っている。

「チャンスじゃん」

「そうなんだよね。ちょっと攻めたいなとは思ってる。で、クリスマスにはゲットしてる予定だから、梨香子も彼氏作っといてよ。罪悪感が消えるからさ」

 なにそれ、と梨香子は笑う。

 昨年のクリスマスは、ちょうど揃って彼氏がいなかったので、二人でカラオケに引き篭もった。

「梨香子なら余裕っしょ」

 自分のことを好きな男に心当たりは何件かあるものの、だからといってクリスマスを共に過ごす彼氏に梨香子自身が望むかといえば、それはまた別の話だ。

「まぁ、侑芽がその気なら、作る気では動く事にする」


 高校二年の秋、梨香子の新しい恋はそんな他愛もない会話から、ゆるりと始まった。

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