第2話 待つ

人間界にやってきて数週間が経過し、わたしの塔がある大陸の支配は順調すぎる程順調に進んでいた。

今日もまた、都市が1つ滅び人間は魔物たちの餌食となった。

ある者は殺され餌となり、ある者はゴブリンやオークなど魔物の苗床となっている。


いかに城壁があっても空を飛ぶ魔物への防御が皆無であり、また魔物の怪力を持ってすれば城壁を破ることも難しくはなかった。

人間はなす術もなく殺されるか、逃亡してまだ気づかれず襲われていない村や町へ避難するか、魔物のいない場所へと身を隠すことしかできなかった。


魔物に気づかれていない村や町もいずれは魔物たちに気づかれてしまうかもしれないし、そもそも私には見えている。

わたしが号令を出しさえすれば容易にその村や町は壊滅する。


足りない。

弱過ぎて圧倒的に手応えが足りなさ過ぎる。



「順調に進んでいるようね」

「アエラ……人間界の人間はなぜ、こうも弱いんだ?」

「それは魔素がないんだもの、仕方がないじゃない。魔界にいる人間は特別で魔素の影響で魔力もあり魔法も使えてまだ戦えていたのよ。この世界じゃ魔素がなければ人間は非力過ぎてゴブリンと戦うのがやっとなんじゃない」

「ゴブリンと同等か……」

「そういうものみたいよ、人間って」

「ぐっ……」


魔界にも少数ながらも人間は生息していて脆弱ながらも魔物に対抗していた。

ただ魔界は圧倒的に魔物が多く、人間は自分たちの領域を守ることで精一杯で魔王を倒すことすら考えに及ばなくなっていた。


人間界にくれば、多くの人間がいる人間界であればもっと歯ごたえがある人間がいるのではないかと期待してやってきたが、魔素も存在しなく、魔物もいなかったこの世界では人間はゴブリン程度の非力な存在でしかなかった。



「世界を簡単に征服できるのだからいいんじゃないの? バルガスはそれじゃ不満なの?」

「わたしは……もっと手応えのある人間を倒し世界を征服したかったんだ。こんな非力な人間ではない……」

「あらそうなの」


アエラにはわたしの気持ちが分からないのだろう。

強者のみが生きていける魔界で自らを鍛え強くなり強者となっていき、自らの領域を広げ魔王となること意味を。

倒し甲斐のある強者と戦い倒すことの充足感を。

ただ弱者を蹂躙し支配するだけでは充足感も満足感も得られることはない。


「なら少し待ってみれば」

「……待つ?」

「そう。少し待てばやがてこの世界にも魔素は満ちていく。魔素が満ちればそれは人間にも影響を与えるわ。次第に魔力が使えるようになり、魔法を使うことができる人間も現れるわよ。そして人間なら魔物と戦う術も覚えていくでしょう」

「それは本当か?」

「まあ、バルガスが求める程まで強くなるかは保証できないけどね」

「……」


アエラはナゾが多い魔人だ。

今はこうしてわたしの配下となっているが本心ではどう思っているかはわからない。

わたしもアエラがナゾ過ぎて、またアエラには特別な能力があり、下手に普通の配下として扱うこともできない。

だから今もまるで同等の立場のように話している。


力でねじ伏せるのは簡単だ。

ただ彼女が持っている『未来視』の能力は他の誰も有してはなく、その力によってわたしは大魔王の地位と力を手に入れられたと言っても過言ではなかった。

だからアエラとはこのような関係であり続けている。


「どのくらい待てばいい?」

「少なくとも100年は必要ね。世界に魔素が満ち、人間が魔素を取り入れ活用するようになり、成長するにはそれでも少ないかもしれないわ」

「100年か……」

「今のままだとその前に人間はバルガスの配下の魔物たちに滅ぼされてしまうでしょうけどね」

「そう、だな」


わたしにとって100年は大した時間ではない。

だが人間にとっては100年という時間は貴重な時間となるかもしれない。

それまでに人間が戦う価値のあるものとなればいいし、ならなければそのまま滅ぼすだけ。

そう思えば待ってみるのもいいのかもしれない。


「よし、待ってみるか」

「そうね。これでちょっとだけ、未来が変わったわ」

「本当か!」

「えぇ、でもバルガスが求める世界はまだそんなもんじゃないみたいだけど」

「どうすればいい! どうすればわたしの求める世界になる! 戦い甲斐のある人間が現れるようになるんだ!」

「教えて欲しい?」

「あぁ、教えてくれ!」


アエラの言葉を信じてみよう。

その方が楽しそうだ。

わたしはアエラの言葉通りにしばらく待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る