第3話

「あれ、門開いてるわ。」

「多分、クラブかなんかあるんだろ。」

「へえ〜好都合〜」


堂々と門から入った俺たちは懐かしい学舎を眺めた。


「懐かしいな…。」

「本当にな…。」

「あたし昔、木から出てる謎の樹液触ったら、取れなくなってめっちゃ焦ったことあるよ。びびったな〜。」

「何そのエピソード…。」


いかにも暑そうなコンクリート。

これはプールサイドも死ぬほど暑いんだろう。


「先生に見つかったらどうする…?」

「やっべーよな。…あっ、」


すずかの前に黒い影があった。

冷や汗が、流れる。


「あら、すずかさん?りょうくん?」


「「な、夏井先生!?」」


「久しぶりね。」


フェミニンな雰囲気を持った女教師。

新人だったあの頃より大人びているが、紛れもなく、俺らが6年生の時担任だった夏井先生だ。


「やばい!えー!?元気でしたー?」

「ええ、おかげさまでね。二人はどう?」

「元気です。中高腐れ縁で。」

「まあまあ…。」


目を細めて笑う夏井先生の前で、俺たちは汗が止まらない。暑いから、だけではないのだ。


「それで、何しにきたの?」


きたっ!!


夏井先生から圧が溢れている…ような気がする。

俺らの恐れていた質問がきてしまった…。

すずかは明らかに目が泳いでいる。


「あ、別にプールに忍び込もうとしたわけではないです!決して!!」

「ばか!?」


あ、俺も墓穴掘ってんじゃねえか。


「ぷっ、あはははははっ!!」

「「!?」」


夏井先生は綺麗な顔で笑う。

昔から思ってたけど、やはり美人だ。


「もー、あなたたちはまた悪いことを企んで!変わってないのね。二人とも。」


少し怒った口調なのに、声があの頃を懐かしんでいた。


「プールは鍵がないと入れないのよ?知らないの?」

「「えっ…!!」」


ばかすぎる。なんてばかなんだ。俺たち。

確かにそうだ。当時も担任たちが開けてくれた記憶がある。


「はあ。ところで、それは何かしら?」

「…アイスです。こっそり食べようと思って。」


すずかがかしゃ、とコンビニの袋を揺らした。

濁った白から、トロピカルな色が透けている。


「…パイナップル味。」

「はい?」

「パイナップル味で、手を打つわ。ある?」

「あ、ありますあります!!」

「プールのあたりで待ってなさい。」


夏井先生は茶色のふわふわとした髪をなびかせ、職員室へ向かっていった。


俺たちはしばらくポカーンとしていた。

が、我にかえる。


「ね、ねえ、りょう…これって…!」

「開けてくれる…ってことだよな!!」


俺たちはわあっと声をあげた。

夏井先生…神!!

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