有象無象怪談
マサルハン
1日目 女子校
なんてことのない話である。
私の家から最寄りの駅に行く道に、とある私立の中高一貫の女子校と面している所がある。私立の女子校といっても敷地外から校庭や窓から室内の様子が見えるような開かれた学校であり。部活も盛んでかなりの人数の学生を抱える学校ではあったが、学生たちの素行は良く、地区に積極的に関わっているため、その地域の住人たちから可愛がられているような今時珍しい品行方正な女子校である。
家から駅へ向かう道では通学途中の彼女たちとすれ違い挨拶を交わし、駅から家に向かう帰りの道では部活帰りであろう彼女たちとすれ違うのが私の日常であった。
しかし、残業などによって帰りが深夜近くと遅くなると毎回そこであるものを見る。
電灯の音や、時折すれ違う車の音を聞きながら女子校と面した道を歩き、ふと誰もいないはずの学校の方に目を向けると、全ての窓という窓にに女の子たちが張り付いているのである。それも窓の下の方に張り付いているだけではなく、窓全面に、隙間なくびっしりと。通学路でよく見る顔ぶれの子たちが、鬼気迫った表情でガラスが曇るほど口をパクパクとさせながら。手足をバタバタと動かし、窓に手を打ちつけ手が血だらけになりながら。まるで狭い水槽の中で酸素不足におちった金魚のように。まるで外に助けを求めるかのように。
時々、彼女たちと目が合うことがある。見知った顔だからであろう。私に向けて一層手足をバタつかせ、パクパクと口を開ける。しかし、声は聞こえない。
中高一貫のためそれなりに大きな校舎であり、窓もたくさんある中でのその光景は異様の一言に尽きるのであろう。
しかし、この風景は地域の住人にとってよく見る風景である。
このようなことが起きる原因はあるのかもしれないが、誰も知らないし、探そうともしない。
住人たちは「この学校の今の生徒たちが自分の学ぶ学校でそんな事が夜起きていると知ったら、怖がってしまって可哀想だから。」などといって、学校に連絡や生徒たちに伝えたりはしていない。
今後も伝えることはない。
今日も元気に彼女たちは学校に通う。すれ違う彼女たちがこの世のものであろうとなかろうと、私たち住人にとってはたいした問題ではないのである。
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