第二通

偶に、お前が死んでくれていてマシだったと思うことがある。

生きていたなら、どうせまた火に油を注いで、私が水を汲みに走るような羽目になっただろうからだ。

お前が息をしていた頃、私はいつも薄氷の上を歩いているようだった。

お前が笑えば嫌な予感がしたし、黙ればもっと悪い予感がした。

私たちが最後に交わした言葉は、どちらも胸を抉る刃だった。

罵り合って別れた。お前は私を臆病者と呼び、私はお前を愚か者と呼んだ。

どちらも当たっていたし、どちらも的外れだった。

臆病だったのは、私がお前を失うのを怖れたからで、愚かだったのは、お前が自分の激情を正義と呼び換えたからだ。

結局、お互いただ自分の熱で自分を焼き切っただけだ。

どうしようもないな、本当に。

袂を分かって、二度と軽口をたたき合うことも、抱き合うこともできない相手なんて、いっそ死んで、もう目の前に現れず、綺麗な思い出のままでいてくれる方がいいのかもしれない。

しかし、もしお前が何事もなく生きている世界線の自分と出会ったなら、きっと私は殴りかかってしまうだろうとも思う。

私は理性を基準に生きる。

全人類そうあるべきだと、今も疑っていない。

だが、ここに来て紙を一枚置くたび、思うのだ。

何も返ってこない取引を続けるほど、私も非合理に侵されているのではないか、と。

今日もまた、報告書が机に積み上がる。

私は相変わらず頼られ、相変わらず消耗している。

地図の上で線を引くたび、現実の地面に誰かの血が滲む。

直接の引き金を引いていなくても、そこに私の指紋は残る。

人を殺すことへの罪悪感は、年々薄まるどころか濃くなる一方だ。

お前は「正義」の名のもと銃を取り、撃ち殺す、私は「秩序」の名のもと人殺しを許可する紙に判を押す。

どちらがより狂っているか、と問われれば、答えに窮する。

お前が好んでいた消費期限の切れた安酒を、いまだに捨てられない。

理屈で考えれば不要な物だ。だが、もう飲むこともできない、塵ほどの価値もないそれがいちばん心の奥に刺さって捨てられない。

あの時、抱きしめる代わりに酷い言葉を投げつけた私と、言葉の代わりに火を選んだお前。

こんなにも全てが違った二人が、同じ部屋で同じ天井を見ていた時間があったのだと、時々信じられなくなる。

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