エピローグ 異星よりの客人

 事件から数日後、私はロンドンの書斎に戻っていた。

 夢の中で聞いた声の残響は、未だ耳の奥に焼き付いている。

 あの湿地帯の記憶、霧の波紋、星の影……それらは日ごとに現実味を帯びてくる。


 「眠れぬのか、ワトソン」


 背後から声がかかった。

 ホームズだった。彼の表情はいつも通り冷静だが、どこか……遠い目をしていた。


 「今夜も例の“夢”か?」


 私は頷いた。


 「あの場所で、我々は何かと接触した。それは宇宙の存在であると同時に、我々の記憶そのもののようでもあった」


 「星の記憶、という奴か……?」


 「あるいは、それすら我々の認知が勝手に名付けただけかもしれん。

  重要なのは、“彼ら”が今もどこかで我々を観察し続けているということだ」


 ホームズは椅子に腰掛け、煙草に火をつけた。


 「それが敵意を持つものか、友か、それとも……ただの“観測者”なのか。

  だが、我々は知らねばならん。何がそこにあるのかを」



 私は、事件の記録を手帳に書き記すため、ペンを握った。

 その先が少し震えたのは、寒さのせいではない。


 『異星よりの客人』――

 それは我々に何を伝えようとしていたのか。

 そして、次に出会う“異界”は、果たしてどんな姿をしているのか。


 ホームズは窓の外に目を向け、ぽつりと呟いた。


 「次は、“地獄”かもしれんな……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シャーロック・ホームズの異界録 III:異星よりの客人 S.HAYA @spawnhaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ