第6章 星の記憶
私とホームズは、ラザフォード少佐の案内で、隕石落下地点――デヴォン州の湿地帯へと向かった。
そこは濃密な霧と絶え間ない湿気に包まれた、まるで別世界のような土地だった。
地表には、植物とは思えぬ有機的な模様が、円を描くように浮かび上がっていた。
それは成長し続ける“円環”であり、中心部には光を歪ませる空間があった。
「この地点の地磁気は、異常な変動を見せています」
少佐が指をさす。
「しかも、周辺で睡眠障害や幻視の訴えが急増している。まるで“何か”が、ここを媒介に人々へ干渉しているかのように」
ホームズは静かに言った。
「これは記録だ。だが文字ではなく、星の記憶。
我々の思考と接続し、夢を通じてメッセージを送る“意思”のようなものだ」
私は足元に視線を落とした。
そこには、明らかに人為的な構造物の一部が埋まっていた。
金属とも石ともつかぬ材質。
そして、淡く発光する“印”――それは、これまでに起きた怪事件の現場すべてで確認されたものと一致していた。
「これが“彼ら”の痕跡か……?」
「いや」
ホームズは首を横に振った。
「これは鏡だ。我々が見る“宇宙の恐怖”は、結局、自分たちの内側にあったもの。
星の記憶とは、人類の原初の恐れを映す反射に過ぎない」
そのときだった。空気が震え、辺りの霧が波紋のように広がった。
「脳波反応、急上昇!」
少佐が叫ぶ。
中心部から、**“存在しない声”**が響いてきた。
言語ではない。
音のような、記憶のような、感情の束のような――混濁した波が脳内を貫いた。
ホームズはそれに抗うように、口を開いた。
「……彼らはメッセージを送っている。
**『再接続の時が来た』**と。
彼らは帰ってきたのではない。我々の中にずっと居た。
この“記憶”を解き放つことが、次なる進化だと告げている……!」
その刹那、私は視界の中に“何か”を見た。
巨大な影。人の形ではない、だがどこか懐かしい“形”。
それは、深淵からこちらを覗いていた。
私の名を呼んだような気がした。
次の瞬間、空間は収束し、霧と模様は霧散した。
「……ワトソン、無事か?」
私は頷くことしかできなかった。
その手には、先ほどまで埋もれていた“記憶の石板”が握られていた。
その表面にはこう刻まれていた。
『我々は見た。そして忘れた』
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