31話:穴
人通りが少ないコンクリートの歩道を沿って歩く。
俺は神瀬フウリに問い続けていた。
地理的には大学の山の裏手にあたる所だろうか?
「なあ……いい加減話をしてくれないか?」
ここ数分、あやふやに返される続け流石にうんざりしていた。
結局俺達はどこに向かっているのかも分からず、神瀬の後を着いていくしかない。
その間、彼女に「何処に行くのか」とか「何が目的なのか」などを聞き続けた。
しかし、彼女は「着いてからのお楽しみ」と肝心なことをはぐらかす。
どこまで秘密が好きなんだこの人は……
「着いたわ。ここよ」
彼女が唐突に立ち止まる。
辺りは人気のない山沿いの道路だ。
特に変わった様子も無かった。
「ここって……何も無いだろ?」
辺りを見渡すと木々に大荒れ景色も良くない道路の途中だった。
ここに来る間不思議と車も通らず、本当に人気を感じない場所だった。
神瀬が鞄を開けて何かを探し始める。
「長居をすると匂いが着くから最短ルートで行けるここにしたの」
「最短ルート……」
「穴の……ね」
そう言うと世界の終わりで見た棒状の道具を取り出し下へ向ける。
「それじゃあこの下で話をしましょうか」
彼女は俺達の足下を指し示す。
「……下?」
足下に目線を向けるとマンホールが目に留まった。
ここから行けるのか、あの大穴と所へ……
◆◆◆◇
水滴の音が何滴も響き渡る広い下水道。
辺りは暗く、近くでドブ臭い水が中央を流れているのが微かに分かる。
隣にいた神瀬は荷物の中から懐中電灯を取り出しボタンの音と共にスイッチを入れた。
絞られた細長く伸びる光を緩め彼女は広く辺りを照らす。
何気なく照らした明かりの向こうには丁字の別れ道とネズミの走り姿も見えた。
「そこを右に曲がった所よ」
神瀬は丁字路の右側を光で指し示した。
「なあ……随分馴れてるみたいだが、アンタは下水道に何回も入ってるのか?」
「ええ、小学生の時からかしらね。ここの構造はだいたい理解しているわ」
声を響かせ答える。
更に疑問が増える。
「小学生の時からって……アンタの実家ってこの街なのか?」
「そうよ。駅から大学へ向かう山道があるでしょ。その道を更に先へ進むと神社があって、そこが私の実家。今もそこに住んでいるわ」
由緒正しきお家柄と言った所か?
何というかこう……本当にこう言った、俺達一般人とは違う特殊な環境で育った人間っているんだなと改めて感じた。
神瀬は続ける。
「昔からこの街の下水道は私の通り道の一つだった。最初は悪戯心で蓋を何とか開けてみて遊びで入っていたのだけど、今となっては気分転換の通り道ね。落ち着くのよ、こういう暗くて息苦しい所が。ネズミになった気分じゃない?」
いろいろ突っ込みたい。
悪戯でもマンホールの蓋を開けて遊んではいけないとか、
一般人が下水道に入ってはいけないとか、
ネズミになった気分とか……
「松本君」
突っ込みをまとめる前に彼女が続けてきた。
「私は離人症って、さっき話したでしょ?」
「あ、ああ、はい……」
「さっきは松本君が否定してくれたけど、それでも私は昔から今にかけて感じるの。私を見つめる本当の私自身を」
また議論でも始めるのかと身構える。
「世界五分前仮説のことは知っているかしら?」
その言葉に俺は大野のことを思い出して「ああ」と頷いた。
神瀬は持っていた懐中電灯が俺の足下を照らす。
「それなら話が早いわ。松本君は、五分前仮説にたいしてこんなことを考えたことはない?」
彼女は嬉しそうに話す。
「この世界が五分前に作られたのなら、五分前よりもっと前の世界はどうなっていたのかしら?」
薄暗い中で彼女は屈託の無い笑みを浮かべているのが薄らと見えた。
「貴方や大野君の話に合わせるなそう……世界の終わり、そして再生がこの世界では起きているのよね? その…………再生前の世界が存在しているとは思わない?」
……確かにそうだ。
中村達と話した時に平行世界の可能性を話した。
俺の意識は何も起きなかった世界へ移動する話であの時終わったが、起きた世界の後はどうなっているのか……
俺が黙って考えていると神瀬が懐中電灯で進むべき方向を照らす。
「私は世界には必ず裏側があると感じる。上に居る私……もしくは神瀬フウリではない私が教えてくれいるのかもしれないわ」
動き出そうとした時に俺は声を掛ける。
「なあ」
俺の声に神瀬は止まった。
「アンタの追い求めるもの……俺が追い求めているとの違うかもしれない……」
彼女の話を聞き続け、何か言い表せない不安感があった。
「世界の裏側って奴が美しいとは限らない。残酷で酷たらしく、どしようもないものかもしれない。絶望するかもしれない」
嬉しそうに話していた彼女への落胆を避けさせたい気持ちなのか。
あるいは世界の終わり見た俺からの警告なのか。
それとも……
「それでも、アンタは意味があることだと思うのか?」
迷っている俺は……この神瀬フウリという探求家に見入ってしまったのか。
俺は自分の問いを彼女に投げかけてしまったような感覚に陥る。
しばらく彼女は話さず、水が流れる静寂が訪れる。
やがて、彼女の優しい声音が空洞に響いた。
「真実を追い求めるのは意味があるからじゃない。楽しいからするのよ」
「楽しい……から?」
「そう、冒険みたいでワクワクするでしょ? そして真実の方に意味はある」
視界が悪いからか、彼女の言葉に集中する。
「答えがわかって終わりではない。わかってから意味のある道が指し示される。そしてその答えが新たな真実を探す探求に繋がるの。私達そういう生き物じゃない?」
少し溜め息交じりに神瀬は言葉をもらす。
「貴方のその言葉は反対ってことね。松本君はそこら辺わかっている人だと思ってたのに……」
「すまないな……ただの一般人大学生なんだよ」
「違うわ。貴方は神の目を持つ選ばれし者。だからわからないことは私が導いて上げる」
神瀬はどこかウットリとした表情で俺を見つめた。
やはりこの人が笑うと嫌な予感しかしないのだが、気のせいだろうか?
「ほら、到着したわ」
彼女が前に進み道の突き当たりに到達。
左手に持った懐中電灯で曲がり道の先を照らす。
指さす神瀬に駆け寄った俺は、照らされた先に見た。
『……ここか』
『……ここか。ん?』
空洞で自分の声が響いたのか違和感を抱いた。
……まあいい。
それよりも目の前には、あの壁に開いた大きな穴があった。
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