28話:上から見る目

 神瀬に連れられ部室棟の隣にある倉庫へ到着。

 彼女に続いて倉庫の中へ入ると、いろいろな代物が置かれていた。

 スポーツ用のボールやら、何かで使うであろうネットの塊やら、文化祭で使うのか巨大な斧もあった。

 これ……本当に偽物だよな?


「あったわ! それじゃあさっそく行きましょうか」


 神瀬は倉庫の奥からずいぶん長そうな太めのロープを担いできた。

 どうやらそれを持って行くらしい。



 ◆◆◆◇



 彼女に重そうなロープの束を持たせるわけにもいかないので俺が担いでいく。

 恐らく例の穴のところで何かをするのだろうと思いながら、どういう話をして神瀬から情報を聞こうか考えている時だった。


「ねえ、松本くん」


 先頭を歩く神瀬が話し掛けてきた。


「シミュレーション仮説って知ってるかしら?」


 突然の謎質問に若干のデジャビュを感じつつ、彼女の問いを素直に返した。


「……いや、知らない」

「今この現実は、データ情報の中の世界なの」

「はぁ?」

「私達は、とある文明の知的生命体が何らかの理由でこの世界と私達を作り出した。この背景や私達の自我は何らかの目的で生み出されたこの世界の副産物でしかないの。高次元存在による観測の為のね」


 俺は黙る。

 すると神瀬は振り向く。

 だが、俺を見ていない。

 俺より後ろ、少し上の方を見ている。

 俺も振り向くがそこには当然何も無い。

「私、感じるのよ。誰かが私達の様子を見ているのを……」

「見ている?」


 自意識過剰かと言いたい所だが、佐藤のゴリラが言っていた言葉を思い出した。


「それって……ストーカーって奴か?」

「ストーカー……うーん、なんて言うか神様? いや、本当の自分?」


 やばい……意味がわからない。

 神瀬の追撃がくる。


「私はね、この世界のしんを知りたいの」

「……真?」


 真ってなんだ?


「……それはどういう意味なんだ? この世界の真っていうのは、ことわりとか真理しんりっていう意味か?」

「そうね。どちらかと言うと真理の方が近いわね」


 と言われても、真理という物自体が何なのかが明確ではない。

 何を持って真理なのか。

 何故彼女はそんなものを知りたいのだろうか?

 俺の中の疑問が頭の中で渦巻いていると、彼女はゆっくりと話し始める。


「私はね……離人症なの」

「りじん症?」


 聞き慣れない病名を聞き返す。

 彼女が言うと本当にそんな病名があるのか疑わしくなってくるが……

 神瀬は続けた。


「自分が自分ではなくなる病気って言うのかしら……私のことを上から見ている。それが本当の私なのではって思っているのよ」

「……どういうことだ?」

「ここにいる私を操作している誰かがいる。その誰かが私を見下ろしていると錯覚している。それが私の抱えている心の病ね」


 ……少しばかり分かるような気がした。 俺も幼い頃は映画に熱中していた。

 その映画に没頭して、その作品の世界に気持ちが入り込んでいた記憶がある。

 入り込み過ぎて映画の中にいる主人公こそが本当の自分で、映画を見ている自分こそがフィクションなのではないか?

 そんな疑問を思ったこともあったが、年が経つにつれて此処こそが俺達のいる現実なんだと理解していった。

 神瀬の抱えた病気とは程度は違うかもしれない。だが、彼女の優雅になびく髪を見つめながら何となくその気持ちを思い出してしまう。

 彼女は続ける。


「……そんな訳ないっていうのは、病名を聞いてから理解はしているわ。合理的に考えれば、私の感じている物が異常であるって言った方が理にかなっているもの。ここが現実であることも理解はしているつもりよ」


 暗いトーンで話していた彼女だが、振り返り俺を見る。


「でも、貴方なら知っているんじゃないかしら?」

「え?」


 期待に満ちた眼差しを俺に向ける。


「貴方は世界の裏側を知っている。私は病気ではなくここがフィクションの世界なのかもしれない。それが貴方の目と記憶なら観測出来るんじゃないかしら?」

「だ、だから! 急に何言ってるんだよアンタ!」

「ねぇ……そしたら私の知ってる真実の話を聞いてくれない?」


 俺の話を聞いちゃいない。

 頬を手で押さえうっとりとした表情で俺の目を真っ直ぐ見つめる。


「この世界がフィクションでないことを……松本君に証明出来るかしら?」


 まるで試しているかのように彼女は投げかけてくる。

 クスクス笑うこの狂人と対話する事となる。






☆作者から☆

 いつもありがとうございます。

 次回神瀬との【議論パート】になりますが、ストックが無く正月休みに入るのでしばらくお持ち下さい。


 近況ノートにて更新の告知を行います。

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