24話:詰みと伐

「マキマキ!! テレビ付けて!! チュチュリナが始まっちゃう!!」

「あ、ああ、ああああああ!?」


 カオルの叫びに呼応し、小倉が急いで部室に設置されたテレビの電源を入れる。

 すると、テレビの画面が明るくなり、ポーンという効果音と共にアニメーションが映し出され、フリフリの衣装を来た可愛い青髪の女の子……見たことがある。

 昨日見た。

 例のチュチュリナ・チュッチュリーが画面いっぱいに映し出される。

 そして、その美少女……いや美少年? は俺達に対して忠告する。


『テレビを見る時は、部屋を明るくして、離れて見るチュリナ☆』

「うわ……」


 謎語尾とウィンクと共に目から星が飛び出てくる演出を観た俺は全身に鳥肌が立った。


「なんだこれ・・・・・・」

「「「ほおおおおおおおおおお!」」」


 急に部室全体から奇声を上がり、カオル、小倉、そして大野が俺を退けて呼び寄せられた子供達のようにテレビの前に駆け寄っていく。


「「「ババロアアアアシンフォニアアアア」」」

「うわ!?」


 三人は合唱しながら突然踊りだす。

 何が起きているのか理解出来ないまま、彼らはテレビから出てくる奇っ怪な電波サウンドと歌詞に合わせて、踊り狂っていた。


「これは……いったい」


 俺は踊る三バカに訪ねるが、


『チュチュリナ~!』

「「「チュッチュリイイイイイイイ!」」」


 画面の向こうのあの子に洗脳されてしまった三人の大学生をもはや見守るしか無かった。

 だが、唯一この場に出ていない人物が居ることに気づく。

 そう、中村だ。

 明らかにイライラしており凄く話し辛いが現状を理解する為には尋ねてみるしかない。


「あ、あのー中村先輩……これは?」


 俺はコソコソと耳打ちする。


「……チュチュリーよ」

「はい?」

「天体の使者チュチュリナ・チュチュリーよ! 何回言わすの! アタシこのアニメ嫌いなのよ!」

「いや、それは知ってる! 何で彼奴らは踊っているんですか!」

「バカだからよ!」

「それも見ればわかる!」


 しばらくして、オープニングが終わると、映像に合わせて踊り狂っていた三人は、曲が終わるや否や三人は輪になる。

 やり切った顔となりアニメそっちのけでぺちゃくちゃと感想を語り合っていた。


「お前等、内容は見ねえのかよ!」


 彼らの奇行に俺は思わず叫んだ。

 それに対して三人は笑みを浮かべながらこちらへ振り向き一番近くにカオルが話した。


「安心して! オープニングが本編だから大丈夫なのだよ!」


 と、訳の分からない返答をしてくる。

 俺はこの切り返しっぷりに着いて行けず頭を抱えていると中村が何かをさしだす。


「そうだ。さっき見せてもらったメモを私なりに書き加えておいたから」

「え!?」


 俺はメモを見ると綺麗な字でいろいろ書き加えられている。


「おお!! 登場人物まで書かれてる!!」

「当然よ! アタシの見解も書いておいたから、後で自分なりに書き直してくれていれば良いわ」


 何から何までありがたい。

 お礼を言おうとしたところで、メモの一番下に気になる文章が書いてあった。


「ループの根源を捜査、詰みポイントに……注意?」


 俺が読み上げると中村は答える。


「そう言えばそこの話も忘れるんだっけ?」

「た、たぶん……」

「もう……じゃあ簡潔に言うわね」


 中村は溜め息交じりに話してくれた。


「ループもののテンプレって、そのシナリオ内の何かがみたいな物になっている事が多いと思うのよ」


 そう言われると何となくわかる気がする。俺が知っている作品だと写真を見たりとか……何かやり残した事があったりとか?


「ああ……言いたいことは何となくわかる」

「それを止めることがシナリオクリアの条件っていうのがほとんどじゃない? かなりベタな展開だけどね」

「そう考えたらループの根元って言うと……やっぱり梅沢なのか?」


 そう言うと中村は考える仕草を取る。


「三つぐらい候補があるけど第一候補はそうね。梅沢って子ね」


 確かに梅沢が何かの鍵を握っているのは確かだよな。

 頑なに何かを隠し通そうとしている。


「彼女がとりあえずヒロインポジションで間違いないと思うわ。強引にでもアンタがはコンタクトを取った方が良いわね。あと第二候補は一番可能性としては低いフウリよ」


 神瀬フウリ。

 確かに根源である候補だが、中村にとっては可能性が低いのか。


「因みにどうして神瀬さんは低いんだ?」

「普段のあの子をアタシは見ているからよ。不思議な子だけど普段通りに生活しているのも知ってるし、たまに家へ遊びにいったりもしてるし」


 なるほどな。

 普段の神瀬は特に変わった様子が無いと言うことか。

 これも貴重な情報だな。

 そして、中村は言葉を詰まらせながら次を話す。


「あと……例の殺人鬼のこと」

「殺人鬼? あ、ああ!」


 大野のことか。

 一瞬近くに居る大野に目をやるが、女子達との話に夢中で俺達に興味が無いような素振りだったの安心した。

 饒舌じょうぜつだった中村が話しづらそうに勢いが止まる。


「……第三の候補は、殺人鬼の言ってたことが本当だった時よ。宇宙人が実験の為に作った世界だったって奴」


 宇宙人の実験。

 一番あり得なさそうだから気にしていなかったのだが……


「本当だったら……どうなんだ?」


 雰囲気が変わった中村の様子を窺いながら聞くと、


「正直、詰みよ」


 吐き捨てるように、中村は言い放つ。

 詰み……

 一番聞きたくない答えが出てきた。


「詰みって……何で分かるんだよ?」

「何でってアンタ……まあ、いいや。一番突拍子もない話だしね」


 彼女は今日何度目かの溜め息を漏らす。

「とにかく、アタシが言いたいのはループものの定番のもう一つで、が起きる可能性が起きるのよ」

「……ようは、どうしようも無いって状況になるってことか?」

「そうよ。だから死に急ぐなってこと」


 これは心配してくれているということなのだろうか?


「本当に……ここまで考えてくれてありがとうございます」

「な、何よ急に……」

「俺が言うのもあれだけど……正直、ここまで親身に話を聞いて、考えてくれるとは思ってなくて」


 本当に始めて話したような相手の頭のおかしい話を聞いてくれて、第一印象はお互い悪かったかもしれないが今は感謝しかない。


「べ、別に……テストプレイしてくれたお礼ってだけで、アンタの為じゃないから!」


 まあ、それはわかる。


「本当にありがとうございます。中村先輩、純粋に凄くて感激しました」

「べ、別に良いってば」

「それにしても……何でそんなに凄い考察が出来るのに、シナリオがあんな酷い事に……」

「……」

「……あ」


 俺は今、完全無意識で失礼な事を言ったのを自覚した。


「す、すみません! あの構成とかが良くなかっただけでですね、キャラクターとか設定の作り込みは良いって言う惜しいって意味の――」

「いいわよ別に」


 ニッコニコで中村は俺の言い訳を止める。


「これからアンタにはデバッグ作業を行ってもらうつもりだったから」

「デ、デバッグとは……」

「シナリオ改良したからキャラクタ立ち絵のズレが無いか、誤字脱字が無いか、ウィンドウからのテキストはみ出しが無いか、話の矛盾点が無いか」


 笑みを崩さず、俺よりも若干背の高い中村が胸が当たる程度に前へ詰めてくる。


「また最初からテストプレイしてもらうって事だけど?」


 大きな胸も今は逃がさない為の圧力にしか感じない。


「い、いや、俺、これから予定が……」

「アンタ達、コイツを逃がすな!」


 中村の号令に部員達が素早く動く。


「あいさー、逃がさないよカツヤ君!」


 カオルが俺の腰をホールドする。


「……諦めた方が良いよ。松本君」


 大野は俺の肩を掴み耳元で呟く。


「フヒヒ……自分と一緒に地獄の周回プレイへコンテニューっすよ、DQN先輩」


 死んだ目で先ほどやった自作のク……ゲームを開いたノートパソコンを目の前に見せつける小倉。


「さあ、面白いゲームの為、アタシ達に協力してもらうわよ!」

「やだああああああ!!」


 俺の断末魔は虚しく部室棟の中を木霊したとのこと。



 ◆◆◆◇



「お疲れカツヤ君! 後はウチらの仕事だから先に帰ってて!」

「お……お疲れ様……」

「おつかれおつかれー!」


 マルチ制作研究部の部室前でカオルに見送られる。

 2時間ちょっと拘束されたかもしれないが、デバッグ作業を無償でやらされた。

 改善したとはいえ、中村のシナリオは面白くは無く、何度も同じ文章を飛ばさず読まされる作業は苦痛以外の言葉では言い表せない掛け替えのないものであった。


「もう、やりたくねぇ……」


 俺は決めた。

 もうマルチ制作研究部には近づかないようにしようと。


窶サ�。�ゥ髦サ螳ウ繝「繝シ繝芽オキ蜍�


「先輩?」

「うわっ!?」


 後ろから声を掛けられる。

 振り向くと、無表情の小倉が立っていた。

 何故かを……持っている?


「な、何だ小倉か……」

「これを持って行ってほしいっす」


 小倉はリモコンではない方の片手を俺に差し向ける。

 握っていた手を開くとUSBメモリーだった。それには付箋がテープで貼られ、何か書かれていた。


「……ハルマゲドン?」


 小倉から受け取ったUSBにカタカナでそう書かれていた。


「これは……なんだ?」

「これは――」


 俺が訪ね小倉が答えようとした時だった。


「小倉ー? いきなり外出てどうしたの?」


 部室の出入り口から見えないが中村の声が聞こえてくる。


窶サ�。�ゥ髦サ螳ウ繝「繝シ繝画怙襍キ蜍�


「カツヤ先輩にゲーム資料とシナリオ渡したっす! 家でも見てもらえるように!」

「小倉ナイスゥ!」


 中村とのやりとりを終えると、小倉は無表情でこちらを見た。


「今のは嘘っす。このUSBは決まった

時しか差さないでほしいっす」


 淡々とした口調で説明してくる。

 この異様な雰囲気に俺は徐々に身体が強ばってきた。


「小倉……何だよな? どうしたんだよ?」

「本当に詰んだって思った時に、差してほしいっす」

「差すって何処に? 俺のパソコンか?」

「……」


 訳がわからず小倉に訪ねるが、彼女は少し笑みを浮かべて部室へ戻っていた。

窶サ髦サ螳ウ繝「繝シ繝峨r隗」髯、

窶サ蟇セ雎。縺ョ隴ヲ謌堤憾諷九r邱ゥ蜥�


「……」


 何だかよくわからないが、小倉からもらったUSBはバックに入れておこう。

 とりあえず、家に帰って中村にもらったメモをまとめることにする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る