ある恋人達へ送るワルツ

@kantkiss_01

第一楽章

ふわふわと暖かい日差しが差し込む昼過ぎ、

私はその温もりに身を委ねるように微睡む。


目を閉じると、柔らかくほっとするような

日光や太陽の匂い。

風が運んでくる、木や土のどこか懐かしい香りに包まれていく。


ふと気づくと、私は森の中にいた。


不思議に思いながら、

導かれるように足を進めていくと、

古びたどこか寂しさのある屋敷にたどり着く。


酷く伸びきった蔦に覆われ、

大きな木々に囲まれた屋敷は、

その森に固く閉ざされるかのように物悲しくも毅然とそこに在り続けている。

その寂しくも誇り高い屋敷の姿に、

心を打たれた私は、

躊躇いながらも、屋敷の玄関へ向かっていった。

心臓にヒヤリと巻き付く蛇のような恐怖心に、足がすくみそうになる。


それでも、抗うことのできない好奇心に

突き動かされ、恐らくそこにあるだろう呼び鈴を、凍りついた指先でオロオロと探した。

そして、ついに見つけた。

しかしボロボロに錆び付いて中の金具は失われており、とても音が鳴りそうには見えなかった。

その姿がなんだかまた物悲しくて、まるで己の心臓が彼のように錆び付いていくかのような、締め付けられる思いに駆られた。


彼等の物悲しく朽ち果てた姿に、

私は、心に産まれた『知りたい』という

思いが溢れていく。

それはやがて抗い難い強い欲求に成り、

私の心を締め付けていた蛇のような恐怖心を、太陽のような眩しい輝きで打ち破った。


…深く、息を吸う。

そして意を決して、大きな声で

『すみません!!!

どなたかいらっしゃいませんか!!』

と呼びかけた。


自分でも驚くほど大きな声に、

高揚し手が痺れるような感覚がした。

そうして震える心を抑えながら、

扉に手を伸ばした。


扉のドアノブをガシとつかみ、力を入れて押してみる。

どうやら鍵はとっくに壊れていたようで、

何の抵抗もなく扉はすんなりと開いた。


まるで何かに導かれているかのような感覚に、私は先程打ち消したはずの蛇が、

また鎌首をもたげるように心臓を締め付けようとしてくるのを感じた。

彼を振り払うように、私は努めて明るい声で、『昔読んだ物語だったら、この後閉じ込められてしまうな…』と呟いた。

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