触手パニック!— T³:たこ焼き三条件

Jacques Riolacci

第1話:触手の起源

タコのこと、知ってるつもり?――違う。

やつらはここで生まれてない。宇宙から来た。

冷たくてしつこい塵に混ざった“種の雨”に乗って、何千年もかけて降ってきた。

水に触れたとき、混ざれる身体を探した。

クラゲ。魚。ワーム。試して、混ざって、やがて今の「タコ」になった。

「タコ」って、うまい妥協だ。

色を変える皮膚。ちょっとだけ自分で考える腕。

心臓は三回打つ――何かを思い出すみたいに。

古い記憶は肉の奥にたたまれて、手紙みたいにじっと眠ってる。

深海では、ときどき“街”を見たって話がある。

貝殻の円。小石の道。砂の建築。

世紀は過ぎた。記憶は眠ったまま。

足りなかったのは鍵。祈りじゃない。難しい数式でもない。――台所の所作だ。

中心まで届くぴったりの熱。ほんの少しアルカリの生地。

おかゆを球に変える、くるくるの回転。

「温度、回転、pH——条件がそろえば、記憶はほどけ、形は縫い直される。」

たこ焼き器の前で串を握ればそろってしまう、どこにでもある三つ。

でも、それが同時にそろったとき――本来もう黙ったはずのものが目を覚ます。

誰も望んじゃいない。

星は旅人を送るとき、予告なんてしない。

旅人も目を覚ますとき、知らせたりしない。

今夜、東京。雨と油の匂いが混ざる路地で、

安月給の男が、別のことを考えながら生地の玉を回す。

「夢はパティシエ。欠点は——何でも四角くなっちゃう。」

きっと、いつもみたいに失敗する。

けど、こんがりした皮の下で――ほんとうに久しぶりに――何かが、目を開ける。


最初の同意書は路地の冗談として始まり、二週間で“公式”になった。

そしてテレビは、テレビの仕事をした。

全員を、うるさい一つの部屋に集めたのだ。

その夜。交差点角の小さな屋台で、雨が青いシートをこすっている。


挿絵:X(旧Twitter)@CurlyWandering

「でも、このたこ焼きの中に本当は何が隠れているのか? 議論が熱くなる…」 続きは明日20時に!


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