陰キャな俺は青春を謳歌しない?

@asagao400

第1話 訪問

「今日カラオケ行こうぜ!」

「えぇ~、昨日行ったじゃん~。それよりスタバ行こ」

「私もいく~」


「今日コーチ休みらしいぞ」

「おい、急げ! 間宮先輩に怒られんぞ!」


 ホームルームの終わった教室内は一気に騒がしくなる。それまで眠たげに瞼を下げていたやつも、気だるそうにしていたやつも放課後になれば一斉に元気に騒ぎ出す。遊びに行くもの、部活に行くもの、まだ予定もないものは教室内でだべっていたりする。学校と言う共通の時間を通り抜けた後は各々が自分の時間を過ごしに行った。もちろん俺も例外ではなく、そそくさと鞄を持って教室を後にした。

 部活にも、遊びに行く予定もない。なにしろ友達と呼べる存在の一人もいない俺のする予定など家に帰るほかないのだから。

 教室内の喧騒を背に歩く。たちまち活気づいて教室を出ていく他のクラスの奴らの楽しそうな足音と踊るような声色を通り過ぎていく。しかし孤独ではない。別に一人で帰るのが寂しいとか、人目が恥ずかしいなんてこともない。ほら、目の前にも俺の他に一人で帰るやつはいくらでも


「あ、遅い~! 何してたの?」

「ごめんごめん、ちょっとホームルーム長引いてさ」


 まあ一人でもいいじゃないか。

 ともかく俺は一人で帰路につく。二年生になった今もそれは変らない。教室が変わっても、クラスが変わっても、メンバーが変わっても誰一人喋る人間ができない。顔を覚えているかどうかも曖昧だ。

 でも大丈夫。俺は別に気にしない。気にしない。


「はああ…………」


 ……はずだったんだが。

 約束を思い出して途端に足が重くなった。足じゃないこれは心が重いのだ。俺はため息交じりの息を吐きながら正門を抜け、いつもの道を歩いて帰った。変わり映えのしないいつもの帰宅路。相変わらず隣に人なんていない。聞こえるのは最近流行りの音楽と、夕方を知らせるカラスの鳴き声。

 カーカーカーカー と鳴くカラスの声に足を合わせる。 

 大体四曲目を過ぎたあたりで俺の家が見える。何の変哲もない二階建ての一軒家。表札には『影山』と書かれている。


「ただいま」


……………


 いつも通り誰の返事もない。父親は出張で今家にいない。母親はパート。そしてもう一人は……

 俺はその足でリビングへと向かうと案の定いた。ぼさついた髪がヘッドフォンで押さえられ、充血した目に病人と見間違うほど深くできた隈は見るからに不健康そうだった。そんな目で何をしているのか、見ればテレビと睨めっこしている。テレビ画面には映画さながらのグラフィックのゾンビのゲーム。地べたにゲームパッケージとシュリンク梱包のゴミが無造作に置かれていた。というか散らかされていた。

 少女は必死でコントローラーを動かして俺の存在にすら気が付かない。

 しばらく眺めているとエンドロールと思しきムービーが流れた。


「ぷぅぅぅーーー、やったぁぁ!」


 思い出した呼吸を繰り返しコントローラを置き、ヘッドフォンもとった。するとようやく俺の存在に気が付いたようだった。


「あ、ぼっち兄おかえり」


 そうこいつは俺の妹だ。帰宅早々胸に刺さる言葉を投げつけてくる。さっきまでやられていたゾンビのように俺の胸に心無い弾丸が食い込んだ。


「ただいま。てか、ぼっちは余計だろぼっちは」


 大事なので二回言った。


「仕方ないじゃん。ぼっちなんだから」


 また打たれた。


「にしてもお前いつまでやってんだよ、学校は?」

「ごほっ、ごほっ。ちょっと体調悪くてさ」

「さっきまでゲームしてたやつが何言ってんだよ、この不登校妹が」


 俺はとりあえず床に落ちたゴミを拾って捨てた。そしてお返しとばかりに言い返した。ゾンビにだって反撃の機会があるんだよ。ほら、タイラントとかマジニみたいに。


「私のことはいいの。で? 彼女できた?」


 もう言葉が出ない。そんなロケットランチャーの返り討ちが俺を襲った。俺のため息の大幅な原因がそれだった。俺はまた大きなため息をついて答えた。


「まだ」

「はあ? 忘れたの? 約束」

「いや覚えてるけど」

「じゃあ彼女の一人くらいはやく連れてきてよ!」

「そう言われましても」


 そんな簡単に作れるならまず友達の一人を作っている。と言わるわけもなかった。そもそもあんな約束しなければ。

 その時、インターフォンが俺らの会話を止めた。


「宅急便?」


 妹は首を横に振る。


「さあ? 何も言われてないけど」


 もう一度鳴った。


「ぼっち兄の友達とか?」

「まさか。俺に友達がいないのはお前が一番知ってるだろ!」

「そうだった……てへっ☆」

「てへっ☆ じゃないんだよバカ」

「じゃあ誰?」


 俺が首を傾げ考えているとまた鳴った。

 とにかく出てみないと仕方ない。待たせるのも悪いしな。

 俺は通話ボタンを押した。


「はーい」

「あの」


 どうやら宅急便ではないみたいだった。可愛らしい女の子のような声が聞こえる。その後彼女は名乗った。俺の聞いたことのある名前を。


「私、赤城っていうんですけど」


 え? どうしてこいつが? その名前にはいくら俺でも聞き覚えくらいはあった。まさかとは思った。同時に家を間違っているのではとも。

 しかし、どうやら彼女が誰かの家と間違ってきたわけではないことは明らかだった。


「影山一人くんはいますか?」

 

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