愛情と支配の共存

そむ

第1話

大学時代の仲間が集まる居酒屋は、ざわめきと笑い声に包まれていた。雪子は黒のワンピースにヒールを合わせ、いつもの柔らかい笑みを浮かべながら周囲に挨拶して回る。仕事の話題も軽く交えつつ、さりげない色気を漂わせるその姿に、誰もが自然と目を奪われる。


「雪子さん……!」

ふと耳に届いた声に、雪子は振り向いた。


そこにいたのは、波間詩織──かつての後輩で、今は大手製薬会社に勤める真面目な事務職の女性。ブラウンのフワフワした髪が居酒屋の照明に柔らかく光り、少しだけ緊張した笑みを浮かべている。


「詩織……久しぶりね」

雪子の声は、いつもの柔らかさにほんのり甘さが混ざっていた。

「雪子さん……お久しぶりです」

詩織の声は少し高めで、どこか緊張を含んでいる。

雪子は心の中で軽く笑った。詩織は昔と変わらず、控えめで真面目で、でもどこか可愛らしい。それに、どうしても自分を意識してしまう空気がある──今でも。


席について、旧友たちと談笑が始まる。雪子は周囲に気を配りながらも、視線は自然と詩織に向いていた。普段は遊び人の雪子も、詩織の前では無意識に少しだけ緊張し、言葉を選んでしまう。


「雪子さん……お酒、あまり強くなかったですよね」

「ええ、そうね。でも今日は特別だから」

雪子のその言葉に、詩織は少し安心しつつも頬を赤らめる。


次第に、昔のように二人だけで話す時間が増えた。雪子は軽く肩を寄せ、詩織の手元にグラスを差し出す。

「少しだけ、私と一緒に飲まない?」

「え……でも、ちょっと……」

詩織は戸惑いながらも、雪子の柔らかく包むような視線に抗えず、頷いてしまう。



時間が経つにつれ、詩織の顔は赤く染まり、言葉は少し頼りなくなる。雪子はそれを見逃さず、耳元でささやく。


「酔ってるんじゃない? 無理に飲ませるつもりはないけど……」

「だ、大丈夫です……あてちょっとだけ……」

詩織の声は小さく、震えている。雪子は優しく笑みを深め、指先でそっと詩織の手に触れる。


その瞬間、詩織の心臓は跳ね、体は意識せず雪子に寄せられる。雪子は詩織のその微妙な反応を楽しむように、そっと距離を詰めた。



酔いも手伝い、詩織の理性は少しずつ揺らいでいく。雪子はそれを感じ取りながらも、冷静に微笑む。


雪子は近づき、詩織の耳元で囁いた。


「ちょっと……二人で抜け出さない」


その瞬間、詩織の理性は雪子の甘く柔らかい声に溶かされていく──



居酒屋を出た夜風が、酔いでほてった詩織の頬を撫でる。雪子はすぐに彼女の腕を取って、軽く自分に引き寄せた。


「……雪子さん……」

「ん?」

「え、えっと……私、少し酔ってます……」

「大丈夫。私がちゃんと面倒見るから」


雪子の声は柔らかいのに、微かに挑発的だった。手のひらが詩織の背中をなぞり、引き寄せる力が強まる。詩織は思わず息を詰め、体を硬直させた。


「雪子さん……あ、あの……」

「なぁに?」

雪子はいたずらっぽく笑い、詩織の顎に指をかけて顔を上げさせる。その視線は逃げられない捕獲光線のようで、詩織の心臓は一気に跳ねる。


「……あ……」

「どうしたの? 可愛い顔して、私のこと怖がってるの?」

雪子は低く囁き、詩織の耳元に唇を寄せた。甘く濡れた吐息が、詩織の全身を震わせる。抵抗しようとするたび、雪子は軽く微笑みながら体を密着させる。


「……雪子さん……まって……」

「待てばいいの?欲しいって思ってるのは、あなたでしょ?」

雪子の手が詩織の腰に回され、強引に引き寄せられる。酔った詩織は理性で抗おうとするけれど、雪子の熱と柔らかさに、全身が自然と反応してしまう。

「少し、休まない?」



ホテルに着くと、雪子は詩織の腕をしっかり掴み、軽くベッドに押し倒す。


「ほら……逃げられない」

「う、うう……」

詩織の声はかすれ、体が雪子に沿って熱を帯びる。雪子はその背中に唇を落とし、髪を撫でながら耳元で囁いた。


「怖がらなくていい……私のこと、嫌いになれないでしょ?」

「……っ……」

詩織は頷くしかなく、雪子の手の温もりに抗えず、体が自然に受け入れてしまう。雪子はそんな詩織の反応を楽しむように、唇で首筋をなぞり、指先で柔らかく身体を探る。


「ん……雪子さん……や……」

「大丈夫。全部、私のものにしてあげる」

雪子は少し意地悪そうに微笑み、詩織を抱きしめながら強引に体を絡めた。酔った詩織は声にならない吐息を漏らし、理性よりも快楽が勝っていく。



雪子の支配と愛情に抗えず、詩織は体も心も完全に委ねてしまう。

その夜、二人の距離は運命のいたずらのように一気に縮まった──雪子の強引な愛情と、詩織の抗えない受容。



雪子の腕に抱かれ、ベッドに押し倒された瞬間、詩織の理性は一瞬で揺らいだ。


「雪子さん……だ、だめ……」

声はかすれ、震える体が雪子の熱に沿う。だが雪子は微笑むだけで、抗う詩織を遮るように唇を重ねる。


「だめじゃない。欲しいんでしょ……?」

雪子の囁きと唇、指先の温もりが、詩織の全身に火をつける。息が詰まり、頭がぼんやりとしていく。後悔する暇もなく、体が自然と雪子の動きに反応してしまう。


「いや……でも……こんな、再会したばかりで……」

「再会したばかりでも、感じてるのはあなたでしょ?」

雪子の手が詩織の胸や腰を探り、くすぐるように撫でるたび、詩織の心は抗えない波に飲まれる。声が自然に漏れ、体が小刻みに震えた。


雪子はその反応を見逃さず、少し意地悪そうに笑う。

「こんなに敏感で……可愛い」

「……あっ……雪子さん……」

詩織は息を詰め、意識は快楽にのみ集中していく。理性で抗おうとしても、体が熱くなりすぎて制御不能だ。


雪子はさらに密着し、耳元で甘く囁く。

「可愛い……全部、私のものになりなさい」

指先の感覚に、唇の熱に、詩織の心は瞬時に溶ける。再会の戸惑いや、恋愛に対する臆病さ、異性への執着……すべてが吹き飛び、ただ快楽に抗えない自分だけが残った。


「うっ……あっ……や、やめ……」

雪子は優しく、それでいて強引に、詩織を抱き寄せる。体を絡め、触れるたびに小さな声が漏れ、詩織は自分の意思とは裏腹に震え続けた。


後悔する暇もなく、次第に快楽の波に溺れていく詩織。雪子の熱と指先、唇の一つひとつが、心の奥底にまで染み渡る。


「ん……雪子さん……もう……」

「いいよ……そのまま感じて……」

雪子の囁きは甘く、しかし支配的。抗おうとしても、詩織の体は雪子に合わせて震え、心も体もすっかり委ねてしまった。


その夜、詩織は自分が異性愛者であることも、再会したばかりであることも忘れ、雪子の掌の中で溺れていった。快楽と戸惑い、罪悪感と抗えない欲望──すべてが入り混じった中で、ただ雪子に抱かれ、揺れる心と体を預けるしかなかった。



朝の光が差し込む部屋で、雪子はまだ眠っていた。

詩織は布団に潜り込んだまま、そっと息を整える。全身に昨夜の熱の余韻が残っている。


「……もう、会わないようにしよう……」

小さな声で自分に言い聞かせ、そっと布団から抜け出す。雪子の寝顔を最後に見つめ、ドアを静かに閉めた。


タクシーに揺られる間も、頭の中には雪子の温もりが離れない。手に残る感覚、耳元の囁き、体に触れた指先の熱──逃げようとしても、体も心も忘れられない。


職場に戻り、書類やメールに集中しようとしても、雪子の顔がちらつく。理性では「会わない方がいい」と思っているのに、心は雪子を探してしまっていた。



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