異教徒
大電流磁
異教徒
新約聖書・マタイ24:44「だから、あなたがたも用意をしていなさい。思いがけない時に人の子が来るからである」
ついに、預言が成就しイエスがエルサレムの聖墳墓教会に再臨した。
イエス再臨とはキリスト教徒の中で信じられている預言である。いつかエルサレムの地に『人の子』イエスが再度復活、天使が集結しクリスチャンのみが空中に浮かべられて救われ、異教徒は滅され、以後イエスが王として千年君臨するという伝説であった。それが今まさにここで起ころうとしていた。
再臨は、イスラエルがガザに空爆を仕掛けている最中、まさに思いがけない時に起きた。新約聖書のマタイ福音書にあったとおり、空から光を帯びて、水煙とともに降りてきた。
最初に見つけたのはユダヤ教徒のイスラエル兵卒だった。無線を通じて、同じくユダヤ教徒の上官と会話する。
「妙な男が聖墳墓教会に空から光を放ちながら、侵入してきたので急ぎ確保しました」
兵卒が強引に右頬を殴り、腕を掴んだ時、男は奇妙なことに、左頬を差し出すような仕草を見せた。それは降参のポーズか、それとも嘲りか。いずれにせよ、兵卒には理解できなかった。
上官が通信に答える。
『気をつけろ、パレスチナのテロリストじゃないか?会話は録音しながら確認しろ。コンピュータで住民照合するから正面と横顔の写真を送れ。』
確保した男を撮影して、上官に転送する。
録音のスイッチを入れイスラエル兵が問うた。
「お前は何者だ、名乗れ」
「የተነሣው ኢየሱስ ክርስቶስ ነኝ」
イエスはなにか言っているが、ヘブライ語しか解さない兵卒にはわからない。
兵卒は上官に報告する。
「言語不明です、皆目わかりません。」
上官が通信で答える。
『アラブ人のようだが※顔の画像を照合したところ、近辺の住人には、該当者がない、不法入国者の可能性が高い』
その時、誰が吹いているのであるか、ラッパが鳴り響く。
「なんだ!妙なラッパの音が聞こえてきました、こいつ音階による暗号通信を傍受しているようにも思えます。この音も録音します。」
ラッパの音と共に、預言書どおり、空から、神の使者である多くの天使が降臨した。中には戦艦ほどに巨大な体躯の者も。兵卒には、それが『異生物』か『人型のドローン』か、判別できなかった。
「うわあ!なんか、空から、たくさん何か来ます。人型の新型ドローンか?こいつを確保しようとしてます」
上官がいう。
『そのままそいつを拘束したまま隠れろ。AH64アパッチが急襲する。』
やってきた戦闘ヘリAH64は千二百発の弾丸を有するM230 30mmチェーンガンでイエスに近づこうとする天使たちを一掃した。巨大な体躯の大天使にすらFIM-92 スティンガー空対空ミサイルを撃ちこみ、撃破した。
周りには血まみれの羽を生やした人外の屍が散る。
イエスは怒りの眼差しで、AH64アパッチを睨んだ。アパッチの燃料タンク内は赤ワインとなり、ローターが回転を停止、そのまま墜落した。
「やばい!こいつアパッチを撃墜しました。発砲許可願います」
『なんてことだ!発砲許可する。』
兵卒は、捉えていたイエスを突き飛ばし、制式配備のUZI短機関銃を至近距離で連射した。
「አምላኬ አምላኬ ለምን ተውኸኝ!」
イエスは突然の出来事に、何かを叫びながら、倒れながら肉片となった。
イスラエル軍上官が、この事件の報告書を読みつつ、受信した断末魔の音声を再生していた。いったいこいつは誰なのか。
横でグラマラスな白い肌の女性秘書がそれを聞いていた。
『አምላኬ አምላኬ ለምን ተውኸኝ!』
「あら、アラム語ですか。」
「君はこれがわかるのか?」
「わかりますわよ、学生時代、専攻していましたから。」
「なんと言っているか教えてくれるか」
ヘッドホンをつけ録音からリスニングする。
「ええと。ちょっとまってください『አምላኬ አምላኬ ለምን ተውኸኝ』ですね?」
発音を真似しながら女性秘書がいう。
「方言がひどくて聴きとり難いですが『わが神、わが神、なぜ私をお見捨てになったのですか』キリスト教の新約聖書のことばですね。」
「アラブ人のキリスト教徒とは珍しいが、所詮、異教徒か。」
こうしてイエス再臨にともなう千年王国の建設は阻止された。
ユダヤ教徒上官はPCを操作し、報告書データに形式的に処理済みのマークを上げた。
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※イエスキリストの顔、復元画像
https://www.jiji.com/jc/d4?p=yes000-jpp00858282&d=d4_oo
千年王国の信仰
https://ja.wikipedia.org/wiki/前千年王国説
異教徒 大電流磁 @Daidenryuji
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