経過観察 1日目
小鳥が囀る音でゆっくりと私は目を覚ました。昨晩、机で突っ伏したまま寝てしまい私の体は静かに悲鳴をあげていた。
「……いっ……流石に布団で寝なかったのはまずかったかな……」
私は溜息を吐きながら軽く伸びをすればバキバキと嫌な音が部屋に響いた。そっとカレンダーに目を向け今日の予定を見ればさらに溜息を吐いた。部下の研究の途中経過の確認に新しい妖の情報……山程あるやる事に軽く目眩がした。それでも時間が待ってくれる訳もなくあっという間に屋敷を出る時間になってしまった。私は重い腰をあげ研究所へと向かう準備を開始した。
数十分かけてようやく研究所へたどり着けばパタパタと走りながら駆け寄ってくる部下が笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「お疲れ様です星宮さん」
「ん。お疲れ様……今日は確か途中経過の報告とあと新しい妖が捕らえられたって聞いたけど。」
「あっはい。こちらが途中経過の書類と……生け捕りにした妖の方は向こうで鎖に繋いであります。」
「ありがとう……って共喰い?血や肉は同量与えていたみたいだけど」
「おそらく過度なストレスも可能性があるかと……あとは…」
そんな会話をしながら歩いていれば部下が立ち止まり私は書類から目を離し目の前に拘束され不満げにしている妖がいた。
「今回捕らえられたのがこの鬼でして……」
「鬼……って妖の中でも最上位に位置する妖じゃない!」
「はい。鬼です」
なんでこんなに冷静でいられるんだこの部下は。鬼といえば軽く数百は生きているといわれている妖の最上位。しかも赤い角の鬼は強い妖術を使うとも言われている……そんな事を考えていると鬼がこちらを見据えながら口を開いた。
「ニンゲン。いい加減この鎖を外せ。」
「……それは外さない。それに貴方はこれから私の研究対象になるの。」
「ニンゲン風情が……」
鬼は私を睨みつけたあと小さくため息を吐き何も言わなくなった。その様子を見たあと私は近くにいた部下に詳細を聞いた。生け捕りにする際に辺りの木々は燃えたこと。怪我人も数人出たが死人は出ていないこと。未知数なことが多すぎるためこの研究所より私の屋敷での研究となる事……全て聞いてから私はもう一度鬼へと目を向けた。
「とりあえず私の屋敷に移動させるわ。あの鎖の鍵は?」
「こちらに……」
「ありがとう。念の為貴方たちは離れておいて。」
私は鎖の鍵を受け取ったあとそばに居た部下に指示を出しゆっくりと鬼へと近づき鍵穴に鍵をさし、解錠した。
「ふん。ようやく外す気になったか……」
「いいから黙ってて。これから貴方を私の屋敷に連れて行く。」
「ほう……まぁこんな場所よりはお前の屋敷とやらの方がマシだろう。早く連れて行け」
……なんでこんなに上から目線なんだこの鬼は。私は小さくため息を吐きながら研究者のみが使える移動用の転移術を発動させ鬼と共に私の屋敷へと戻った。
「ここが私の屋敷、そして貴方がこれから住む屋敷よ。」
「ほう……彼処よりはマシだな。ニンゲン」
「……そのニンゲンっていうのをやめなさい。私にも名前がある。」
「……ニンゲンはニンゲンだろう」
「陽華。星宮陽華が私の名前。これからはちゃんと名前を呼びなさい」
「……ハルカ。」
「うん。ちゃんと呼べるじゃない」
私は小さく笑みを浮かべながら言えば鬼はそっぽを向いてしまった。
「まぁ安心しなさい。貴方は研究対象だけれど非道な研究はしない。それだけは約束してあげるわ……えっと……そういえば貴方名前は?」
「……名は無い。好きに呼べばいい」
その言葉を聞いて私は少し悩んだ。名前をつけたことなんて私にはなかった。いつも妖は被検体としか見てなかったから。でも私は思いついた名前を口に出した。
「……焔。」
「……焔?」
「そう。貴方の角赤いでしょう。それに瞳も赤い。だから焔」
私は角と瞳を指差しながらそう告げた。鬼……焔は目を少し見開いたあと小さく笑みを浮かべ満足そうにしていた。この日から私と焔の生活が始まった。
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