これからの未来について

私はこのままでいいのだろうか。

大好きな人と一緒にいられることは幸せだ。

レオンと笑って、泣いて、感情の共有をして時間を過ごす。

とても幸せで、明るい未来。

だけど今のままのレオンは私以外と距離を取りすぎている。

まるで世界には私しかいないかのように生きているレオンに他の事も知って欲しかった。

蓮さんから聞いたことは多分事実だと思う。

蓮さんはこんなことで嘘をつくような人では無いし、嘘をつくメリットもない。

好きな人だからこそ色んな経験をして、人生を謳歌してほしいと思う。

その過程で、私に恋をしてほしい。

こんな風に望むのは良くないことなのかもしれない。

だけどこのままレオンのありのまま全てを受け止めるにはあまりにも考える時間が足りなかった。

「蓮さん、家に泊めてください」

友達を失った今、頼る先が蓮さんしかなかった。

電話越しに聞こえる蓮さんの溜息は何だか優しかった。

『分かったよ』

呆れているであろう蓮さんから家の場所を教えてもらい、母に電話をかけた。

「もしもし、今大丈夫?」

電話に出た母は『何?』と聞き返してきた。

私はこの前、偶然見つけてしまった英語の手紙について聞いた。

「あれは何?レオンからの手紙なの?」

母の沈黙こそが肯定ということだろう。

「私、全く覚えてないの。いつ渡された?」

『アメリカの最終日だと思う。カバンに入ってたのを私が見つけたの。聞くのも気が引けてずっと持ってた。けどアメリカで仲良かったのはレオンだし、薄々は気付いてた。だから留学の件も最初は警戒してたのよ』

確かにあの手紙は少し重い。

私を鎖に繋いでおきたいという気持ちが前面に出ている。

「今日は友達の家に泊まるから」

そう言って母との電話を切った。

レオンの愛は重い。

世界の何よりも重たい。

もし私のせいでレオンの世界を狭くしているのならば、私が教えてあげなければいけない。

あの日、私を救ってくれたレオンを今度は私が救ってあげたい。

「…迷った」

蓮さんがGPSとか言っていたのでスマホを家に置いてきたのだが、失敗した。

紙にメモをしたが、元々地図が読めないのであまり意味がなかった。

「公衆電話?いや、電話番号知らない…」

とりあえず駅まで戻り、今後のことについて考えた。

最悪家に帰ることは出来るので絶望とまではいかないのが救いだろうか。

「迷子の迷子の子猫ちゃん!」

聞き馴染みのある声に顔を上げると、目の前には蓮さんが立っていた。

息が切れて汗をかいているのが分かる。

「スマホ置いてきたのは正解だけど、方向音痴じゃねぇ」

腹を抱えて笑う蓮さんに私は何も言い返せなかった。

「連絡つかないから色々探したわ。行くぞ」

蓮さんの背中を追うように歩き始めた。

「誘拐とか噂されそう」

蓮さんは頭を抱えながらそう言った。

「すみません。…頼る人がいなくて」

蓮さんの気持ちを利用するようで申し訳なかった。

それを見た蓮さんは私の頭をくしゃくしゃっと触った。

「後輩の面倒見れない男じゃないよ。俺を頼ったのは正解だ。こん時くらい、良い顔させろー」

蓮さんの魅力というのはこういう部分だと思う。

遊んでいるように見えて、実は結構ちゃんと人の事を見ている。

誰かに頼られてリーダーをしている蓮さんからカリスマ性を感じる。

「お邪魔します」

一人暮らしの蓮さんの家は物が少なく、意外だった。

「ミニマリストってやつですか?」

ベットと机、本棚に並んでいる教科書。

何とも殺風景な光景に驚いた。

「まぁよく人が来るから物多いと困るってのが一番だな。あんま触られたくないし」

冷蔵庫からお茶を出して、私の前に出してくれた。

「で、どうすんの?」

沈黙を破り、私と目を合わせた。

「まずは色々ありがとうございました。ここも多分すぐバレちゃうし、迷惑かけちゃうんですぐ出ていきます。レオンと離れて考えたいことがあって…」

言葉が上手くまとまらない。

それだけ私はレオンとの将来を必死に考えていた。

「好きなのは変わらないんですけでもっと世界を知って欲しいって言うか。他にもたくさん人がいるって分かって欲しいんですよね」

これから私達の世界はもっと大きくなっていく。

「縛っているのは私の方なんじゃないかって思ってるんです」

「何で?」

「…レオンの中で私が一番になって、それ以外要らないってなってて…私がいたからレオンをずっと縛ってる気がする」

もしアメリカでレオンに救われていなかったら私の人生はまた違うものになっていた。

だけどそれはレオンも同じで、私と出会わなければ私の存在を知らないまま違う世界で生きていた。

その世界でのレオンは色んな人と関わって、笑っていたのかもしれない。

そう思うと、私はこれからレオンに何を与えていけるのか心配になってしまった。

「好きとか、一緒にいたいとか、永遠とか。全部本音だけど簡単に言っていい言葉じゃないのは理解してます。だからこそこの関係をどうしたらいいのか分からないです」

レオンと結婚して子供を産んで、家族を作る。

そんな幸せを願うのはレオンにとって良いものなのだろうか。

「それ、ちゃんと言ったか?レオンもレオンだけど、綺麗な部分しか見せてないじゃん。のんちゃんの心の底からの本音を伝えてみることが大事だと思うよ」

こういう時に蓮さんの優しさがよくわかる。

私はずっとこの人の気持ちに答えてこなかったのに、優しくしてくれる。

「泣くなよ。俺が泣かせたみたいだろ」

「蓮さんのせいです」

蓮さんのように誰かと真正面から向き合えれば、この先を変えることが出来るのかもしれない。

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