私の気持ち

レオンを食堂に連れていくと周りの視線が一気に集まるのが分かる。

「何が食べたい?」

メニューを軽く紹介するとレオンはビビンバを選んだ。

「私はカレーうどんにするわ」

食券の買い方を教えて、お昼ご飯をゲットした。

「これ美味しいです。少しスパイシーです」

レオンの笑顔を見ると安心する。

「授業ノアと受けることが出来ると聞きました。来週から授業が始まります」

今週は私達もオリエンテーション期間で、レオン達も同様らしい。

私達と同じ授業を選択できる場合もあるようで楽しみにしているようだ。

「望愛ちゃん」

可愛らしい声が後ろから聞こえ振り返るとお弁当を持った心愛ちゃんがいた。

「ゼミの事で聞きたいことがあって…ここ座っても良い?」

これほどあからさまな行動をされると私でも心愛ちゃんの狙いが分かる。

「レオン、いい?」

一応レオンにも許可を取ると、心愛ちゃんはレオンの前の席に座った。

「あのね、次の発表の事なんだけど…」

てっきりレオンに話しかけるのかと思い、拍子抜けだった。

少し次のゼミにに向けた話をすると心愛ちゃんは真剣にメモを取っていた。

噂は本当は違って、誤解されやすいだけの人なのかもしれないと思いながら話を進めた。

「ありがとう。望愛ちゃんっていつも他の子といるから分からなかったけどすごく優しいのね。私はあまり…好かれる性格じゃないじゃない?だから今日、望愛ちゃんとお話しできて嬉しかった」

可愛らしい顔で見つめられると本当にアイドルのような子だと目を奪われる。

「ごめんなさい。邪魔よね。留学生の…名前何だっけ?」

私の顔を見て心愛ちゃんは苦笑いをした。

「レオンだよ」

「あ、そう。レオン君」

綺麗な笑顔で笑い、レオンを直視した。

「レオン…君?君は何ですか?」

説明をするとレオンは不思議そうな顔で『レオン君』と呟いた。

「この子は心愛ちゃん。この前の飲み会にもいたよ。同じゼミの子」

「ココア!よろしくお願いします」

レオンの差し出す右手に小さく、白い手が重なった。

ただの挨拶なのにどうしてこんなにも苦しいのだろう。

レオンと心愛ちゃんは連絡先を交換していた。

彼氏でもないのに嫉妬している自分に心底呆れた。

レオンは次の授業があるが、私は終わったのでゼミの教室で待っていることにした。

レオンが教室に入って行くのを見ると新しい世界が広がってしまうのが少しだけ嫌になってしまった。

暇つぶしに教室に置いてあった英語の参考書を解いていると部屋の扉が開いた。

「やっぱのんちゃん発見!」

「げ、蓮さん」

嫌そうな顔をしながら蓮さんを見つめると笑いながら扉を閉めた。

「話題になってたよ。のんちゃんが留学生と歩いてたって」

隣に座る蓮さんはスマホを触りながら話を続けた。

「居酒屋にいたやつだろ?あれ、絶対やばいって」

蓮さんはこのゼミで部長を務めており、周りからの信頼感がすごい。

カリスマ性というのを感じる蓮さんにみんなは惚れていく。

しかし私は、少し怖いと思っていた。

実家が太いのか蓮さんはよく、人に奢る。

そのやり方に私は少し距離を取っていた。

しかしある時から猛烈なアプローチを受けて、今に至る。

「何であいつなの?」

視線はスマホのままで私も参考書を見つめたまま。

「意味が分からないです」

英文を読んで答えを探す私を後ろから覗いてきた。

「英語出来るのか?」

「昔アメリカにいたので少しだけ出来ます」

「あー、んで出会ったのか」

会話のない蓮さんとの空間は息苦しかった。

「蓮さんは何しに来たんですか?」

参考書から目を話すと本棚を漁る蓮さんと目が合った。

「のんちゃんいるかなーって。来て正解」

そのまま本棚を物色し続ける蓮さんに声をかけずに、ただ時間だけが過ぎた。

スマホを見るとレオンから『終わりました』と連絡が届いていた。

「私もう行きますね」

カバンを持って部屋を出ようとすると蓮さんに声をかけられた。

「あれは辞めておいた方が良いぞ」

扉を開けようとした手を止めて振り返った。

「どういう意味ですか?」

蓮さんは持っていたスマホから視線を外し、私の目を見つめた。

「あの一瞬しか会ってないから直感としか言えないが、やばい奴だ」

「はぁ…?」

話しの意図が見えずに聞き返すと蓮さんは目を逸らした。

「あいつは多分、のんちゃんのこと好きなんだと思う」

その言葉に私の顔が赤くなっていくのが分かった。

「けどあれは恋とか愛とかそんな安っぽい感情じゃないぞ。…多分」

「蓮さん、何かありました?よく分からないんですけど」

蓮さんの言葉を同じ言語のはずなのにあまり理解できなかった。

「ノアー?」

扉を開けながら登場したレオンに蓮さんはあからさまな態度を示した。

「じゃあな」

レオンが入ってきたことですぐに教室を出ていこうとした。

私の横を通った時、蓮さんは小さく『異常だな』と言って去って行った。

「何でこの場所が分かったの?」

「ココアに聞きました。ノアがゼミのルームにいると言いました」

ここに来てくれたことに少しだけ他の人とは違う特別感を感じられてうれしかった。

しかし心愛ちゃんから聞いたという事実は私の心に霧を作った。

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