大学生活の幕上げ

レオンの事は大切だ。

好きか嫌いかで聞かれたらもちろん好きだと答える。

しかしそれはあくまでも友達に対して起こる感情で、それ以上のものを考えたことは無かった。

そのため、昨日の夜の告白に未だ戸惑っている私がいた。

あの後、家に帰ってもレオンは普通だった。

困らせたくないとも言っていたのでレオンなりの優しさなんだと思う。

「おはよう、ノア」

優雅な朝食に似合わない本を読んでいるレオンの隣に座って朝ご飯を食べた。

「初めての大学だね。楽しみ?」

今日から3年が始まる。

それはレオンの大学生活が始まることを意味する。

「楽しみです。けど少し不安」

この環境の中、楽しみと言えるだけすごいと思う。

「大丈夫。授業はまだ違うっぽいけど留学生が集まるクラスでオリエンテーションをする感じだし友達も出来るよ」

「…フレンド」

気の合う友達を見つけることで多少のストレス解消になるだろう。

「気を付けてね」

母に見送られて私達は大学へと向かった。

「おはおは!」

レオンを留学生の集まる場所に送った後、自分の教室に行くと友達に囲まれた。

「朝、一緒にいたあの外国人!誰?何?どういう関係!?」

こうなることは分かっていたが、面倒だと思うのも許してほしい。

「昔私がアメリカにいた時にお世話になってた子。今度はレオンが日本に留学することになったの」

皆目を輝かせて『いいなぁー』と言った。

確かに容姿端麗のレオンは学校でも注目の的となるだろう。

「私も知らなかったから久しぶりに会ったけど…顔面強いよね。何かオーラ出てるし」

みんなに共感できるくらいレオンの顔立ちは整っている。

「何かアンバサダーとかやってそう」

「分かる分かる。海外系のデパコスな」

皆の話を聞きながら頷いていると、後ろから声をかけられた。

「心愛ちゃん!」

ゼミの同級生だが、良い噂をあまり聞かず今まで深く関わったことは無かった。

噂によると色んな男と遊んで、ゼミの男子は皆食われたそう。

そんな彼女が私に用とは珍しい。

「朝一緒にいた男の人ってこの前の飲みで迎えに来てた人だよね?」

丁寧に巻かれた髪の毛をいじりながら聞き、私を見つめる。

「うん。そうだけどレオンがどうかした?」

「やっぱりそうなんだ。レオンって言うのね。蓮さんが外に行ったからそのあとみんなで出たら、ちょうど見ちゃってさ。恋人なの?」

心愛ちゃんの視線が怖かった。

「…恋人ではないかな。うん」

その言葉を聞くと嬉しそうに去って行った。

「気を付けなよ。完全にその男をロックオンしたわ」

「ですよね…」

面倒ごとは避けたいが、こういうのは大抵避けられずに巻き込まれるのがお決まりだ。

授業が終わり昼休憩の時間になると、レオンを迎えに行った。

お昼を一緒に食べたいと言うので迎えに来たが、中々出てこないレオン。

教室を覗くと色んな国からの留学生が集まっていた。

共通語として英語を話しているようで何となく何を言っているのか分かってしまうのが嫌だった。

「あの日本人いけそうじゃない?」

コソコソと会話する声に今すぐこの場を離れたかった。

どこにでも変な人というのは存在する。

レオンは美人な留学生と楽しそうに話していた。

その姿を見て私は少し気分が落ち込んだ。

日本に来てから私が一番仲の良い友達であって、その特別感は私の中で大きかった。

レオンが勇気を出して新しい世界に踏み出しているのに最低だ。

「誰か待ってるの?」

さっきの変な人たちが話しかけてきた。

「レオン」

レオンを指差しながらそう言うと、二人は教室を覗いた。

「あー、あいつね。顔が良いからってちやほやされてる奴な。君、一緒にランチ行こうよ」

面倒なのに掴まってしまったと考えていると、教室の扉が開いた。

「遅くなりました。ノア、フレンドですか?」

「ノーだね。行こう」

レオンの手を引いてその場を離れようと思うとレオンの悪口が聞こえた。

顔が良くて誤解されやすいと昔から嘆いていたが、私はそれがどうしても許せなかった。

「レオンはあんたらと違って優しいよ。てか、尻軽女じゃないし。日本人舐めるな」

日本人の女性は押しに弱いと言われている。

アジア系の女の子だけを狙う人もいるので気を付けるように父に言われたこともある。

日本人の女性はおしとやかというイメージがあるそうで、何も言い返さないと思っているらしい。

あるいは英語を理解できない日本人が多いので英語でなら悪口を言ってもバレないと思っている場合もある。

「レオンは分かるんだから言い返せばいいのに」

振り返るとレオンの顔が赤いことに気付いた。

「レオンは触るのに!何でそんなに恥ずかしいんだよ!」

段々と私まで恥ずかしくなってきた。

「慣れたから気にしないでです。けどノアがクールでした。ありがとう」

アメリカにいる時英語が分からず、よく悪口を言われていた。

何を言っているのか分からずその人たちに笑顔を見せていた私に『笑っちゃダメだ』と教えてくれたのがレオンだった。

悪口を言われていたとは到底考えられなかったのでショックだった。

その日からレオンに色んな悪口を教えてもらい、悪口を言われた時に返す言葉も学んだ。

「悪口を言われて笑っちゃダメって教えてくれたのはレオンでしょ。私はレオンが傷付いているのに放っておけない」

レオンの目を見ながら手を取り、食堂へと足を進めた。

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