文化の違い
「のみかい?何ですか?」
レオンが家に来た日の夜、母に明日の夜はゼミの飲み会があると伝えていると不思議そうに会話に入って来た。
「ゼミの飲み会。同じクラスの人とご飯を食べに行くの」
理解したようで『何を食べるんですか?』と聞かれた。
「ん-、説明が難しいな。今度一緒に居酒屋に行こうか!アルコール飲める?」
居酒屋の料理を説明するのが難しく写真を見せた。
興味があるようでレオン自身でも調べ始めた。
「オフコース!ノア、アルコール飲めるんですか?」
「私も20歳超えたからね。そこまで強くは無いけど」
『信じられない』という顔をしながら私を見るレオンに『一歳しか変わらない』と言うと笑っていた。
レオンは私の一つ上の年齢にあたる。
「ノアがアルコールを…長い時間が経過しました」
お兄ちゃんのようなセリフに腹を抱えて笑ってしまった。
「たくさん飲むのは禁止です」
私に兄弟はいないが、兄がいたらこんな感じだったのかもしれない。
「はい、分かりました!」
家の中にレオンがいるというのが不思議な感じがして、落ち着かない。
「レオン、お風呂の使い方教える。シャワーだけ?」
ソファーに座っているレオンに声をかけると立ち上がった。
「イエス。お願いします」
アメリカとは違うお風呂に混乱しながらも、何とか理解したようでそのままお風呂に入って行った。
「びっくりしたー。レオンが家にいるの変な感じ」
冷蔵庫を開けてお酒を取り出した。
「私も驚いたわよ。最初連絡がきた時、何で私に言うんだろうって」
椅子に座る母がテレビを見ながら答えた。
「…望愛。もしこの共同生活で嫌なことがあったらすぐに言って。ここは貴方の家なんだから」
突然、そんな真剣な言葉に私は笑ってしまった。
缶を開けて一口目を飲んだ。
「久しぶりのお酒ですぐ酔いそう」
あまりお酒に強くない私は明日のために軽く飲もうと思ったが、一気に体が熱くなってきた。
「レオンはいい子だよ。私に声をかけてくれて、もしレオンがいなかったらアメリカでの生活耐えきれなかったと思う」
母は何に心配しているのか分からなかったが大丈夫であることを伝えた。
「そうよね。…あれはきっと何か…」
「ノアー。シャワー終わったです」
母の話の途中で、レオンがお風呂から出てきた。
何を話そうとしていたのか分からないが、母は寝室に向かった。
「何を飲んでますか?」
私の前に置かれた缶をじっと見つめて聞いてきた。
「お酒。アルコールだよ。飲む?」
渡すとレオンはお酒を手に取って少し飲んだ。
「美味しいです」
「よかったよかった!」
レオンは私の前の椅子に座って、向かい合わせの状態となった。
「レオンはワインとかが似合うね」
綺麗な顔立ちをしているレオンにワインを並べたらいい絵になりそうだった。
「そうですか?ノアはオレンジジュースです」
幼い子供を見るような目で見つめるので『馬鹿にしてる?』と言い返した。
「ノー。そんなことないです」
飲み干したお酒を軽く水で洗っているとレオンが後ろからそっと抱きしめてきた。
「れ、レオン!?」
挙動不審になる私を楽しんでいるのか、レオンは少し力を強めた。
「もう子供じゃないです。知ってます」
耳元で小さく囁くレオンの声が少し色っぽく感じてしまう。
「久しぶりに会って嬉しかったです。ノアはとても素敵なレディになりました。大人です」
シャワーを終えたレオンの体温がいつもより高いからか、私の体温も上がっていく。
このままでは私の心臓の音が伝わってしまうと思い、無理やり離れた。
「レオン!日本ではそのスキンシップ、友達にはしない!お風呂入って来る。おやすみ!」
勢いよく言葉を並べて急いでお風呂に入って行った。
洗面所の扉を閉めて鏡を見ると、顔が真っ赤な自分と目が合った。
レオンは昔から距離が近かった。
手を繋いだり、挨拶と同時にハグすることは何度もあった。
それはアメリカの文化で普通の事。
ただ、あまりにも久々の感覚で驚いただけ。
後ろから抱きしめられたとき、レオンの声がいつもより低かった。
大人びたその声に心拍数が上がっていくのを実感した。
「びびったぁ…」
あくまでも友達に対するスキンシップなのにドキドキしている自分が恥ずかしかった。
お風呂を終えてゆっくりと扉を開けると、廊下にレオンが座っていた。
びっくりして思いきり背中を壁にぶつけた。
「…寝てる?」
長時間のフライトや環境の違いには体が疲れる。
それを一番よく知っているのは私だ。
「お疲れ様」
小さく座っているレオンの頭を撫でると目を覚ました。
「ごめん、起こした。あ、けどここで寝たら…」
私に気が付くと『ノア』と声をかけられた。
「何?どうした?」
同じ目線であることが新鮮で、じっとレオンの目を見つめた。
その綺麗な瞳は日本人では考えられない緑色で、とても美しい。
「日本人はスキンシップをあまりとらない文化です。ごめんなさい。驚いたですか?」
大型犬が悪さをして怒られているような表情に自然と笑いが零れた。
「大丈夫だよ。文化の違いって戸惑うよね、分かる。さっきは驚いただけだよ。私も変な態度とってごめんね」
私の表情に安心したのかレオンは立ち上がった。
「今日は寝ます。部屋に行きますか?」
そう言って自然と手を差し出してくるレオンに手を重ねた。
立ち上がるだけなのにさすがだと思う。
部屋の前で『おやすみ』と言って私達はそれぞれの部屋に入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます