甘いケーキは胃もたれする

杏樹

運命の再会

土曜日の朝、家のインターホンが鳴った。

「望愛、出てー!」

一階から母の声が聞こえて、ゆっくりと階段を下りた。

宅急便かと思った私は玄関に置いてある印鑑を持って扉を開けた。

「愛しのノアー!寂しかったです!」

外にいたのは宅配のお兄さんではなく、金髪で綺麗な格好をした男性だった。

「え?…レオン?」

圧倒的ビジュアルに目が点になるとはこういうことを言うのだと思う。

「イエス!」

情報に頭がついていかず、家の中にいる母を呼んだ。

「あら、早かったわね。相変わらずハンサムねー」

母の驚いていない様子からして、レオンがここにいることは不自然ではないことになる。

「ドッキリ大成功ですね」

「ドッキリ?」

母とレオンの顔を交互に見つめた。

「実はレオン、望愛と同じ大学に通うのよ。編入って形になるんだっけ?で、家賃代もったいないしここに住むことになったのよ」

「本当にありがとうございます」

まさかレオンに再開するとは思っていなかった。

昔の記憶がパラパラと絵本のように進んでいく。

「まじ?え、レオン日本語めっちゃ話せてるし。昔はここまで話せなかったよね?」

「勉強しました。まだパーフェクトじゃないです」

キラキラ王子のような笑顔に眩しさを感じながら、私はやっと落ち着いた。

私は日本の中学には通っていない。

父の仕事の都合でアメリカに家族で渡った。

最初は言語の壁や文化の壁にぶつかったが、それを助けてくれたのは現地にいたレオンだった。

レオンは探求心が強いタイプで私が日本から来たことを知ると興味を持って話しかけてきた。

しかし英語がほとんど分からない私にとって、意味の分からない言葉を聞かされているだけで心苦しかった。

その次の日、レオンは『おはよう』と言ってあいさつをしてくれた。

アメリカに来て初めて両親以外から聞こえた日本語に安心して涙したのを今でも覚えている。

「まさかレオンが日本の大学かー。もし何かあったら言ってね。たくさん助けてもらったんだから恩返しがしたい!」

あの頃の私は必死だった。

異国の地に立った私の足が震えていたのを鮮明に覚えている。

きっと不安をいっぱいに抱えて飛んできたであろうレオンの役に立つことをしてあげたかった。

「ありがとう。ノアがいるから安心」

大きくなって筋肉のついた体に男性を感じる。

昔は少年って感じだったのに月日とはあっという間に流れていくものだ。

「あー、ノア。…この紙を大学に持って行きたいです。一緒に来て欲しいです」

申し訳なさそうにするレオンの顔が可愛くて笑ってしまった。

「OK!荷物を部屋に置いて行こうか」

私は自分の部屋に戻って、服を着替えた。

「ノアー。入ってもいいですか?」

ノックと共に聞こえた声に『いいよー』と叫ぶとレオンが扉を開けた。

「これプレゼントです」

袋を開けると中にはアメリカでよく食べていたお菓子が入っていた。

「懐かしい!これ、良く食べてたな。これはすごい甘くて初めて食べた時驚いたやつ!」

袋の中いっぱいに入ったアメリカのお菓子を見ると、レオンが本当にアメリカから来たことを実感する。

「じゃあ行こうか!」

家の外に出ると、近所の人はレオンに釘付けだった。

「目立つよね、そりゃあ」

モデルのようなスタイルと顔面を持つレオンが注目されないはずがない。

「ノアが美しいから見られている?」

「違うよ。レオンがかっこいいから見られてるんだよ」

このレベルの人が近所を歩いていたら見たくなるに決まっている。

私もきっと二度見してしまうだろう。

「大学までは30分くらい。帰りにランチしてから帰ろう」

久しぶりに会ったレオンに私は気分が上がっていた。

大学に入って書類を出し終わると、私達は回転寿司に向かった。

「…わーお。寿司が勝手に!興味深いです」

アメリカで食べたお寿司は軍艦が無かった。

カリフォルニアロールをお寿司と呼んでいる子も見かけるくらい回転寿司は新鮮なものだと思う。

「何か食べてみたいのある?」

メニュー表を見て悩むレオンを横目にタブレットを置いた。

「ツナ、サーモン、て、テンプラ?」

レオンが興味を持ったお寿司をタブレットで注文すると、私達のレーンに流れてきた。

「え…何で!?」

自動で流れてくるシステムに驚くレオンを動画に収めていると恥ずかしそうにこちらを向いた。

「また来たいです」

まだ食べていないのに満足したのか、とびきりの笑顔で私を見つめた。

お寿司を食べ終わりお会計を済ませるとレオンは慌てた様子だった。

「ノアにお金を払わせてしまったです」

そんな可愛い理由に笑っていると、レオンは『次はスマートに払います』と意気込んでいた。

「慣れてからでいいよ。操作だって難しいし。というか、私達友達なんだしあんまり気を遣いすぎなくていいよ」

「フレンド…ですか?」

さっきまでの様子と違うように見えて驚いたが、すぐに笑顔に戻った。

「ノアは大好きなフレンドです」

さらっと車道側を歩くレオンに紳士さを感じながら家まで帰って行った。

まだこの時はレオンの留学の本当の目的を知らなかった。

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