第7話

第七章 名もなき詩を歌う


夜の街は、雨上がりの匂いが残っていた。

ネオンの光が濡れたアスファルトに反射し、無数の色が揺れている。

翔と璃音は傘をたたみ、肩を並べて歩いていた。


「正しさだけで生きようとしたら、苦しくて仕方なかった」

翔の言葉に、璃音は小さくうなずく。

「優しさだけにしがみついても、壊れちゃう。

 ……私たち、似てるのかもね」


二人は足を止め、互いの顔を見つめ合った。

雨に濡れた街のざわめきの中で、静かな時間が流れる。


翔が口を開いた。

「なら、一緒に探そう。

 正しさと優しさ、その間にある何かを」


璃音は笑った。

その笑顔は、もう“練習”ではなかった。

風が吹き抜け、ふたりの肩をそっと押した。



エピローグ


朝の交差点。

人々が足早に行き交う中、翔と璃音は同じ傘の下にいた。

群衆に紛れても、もう互いを見失うことはない。


正しさだけじゃ生きられない。

でも、優しさだけじゃ生きられない。

そのあいだに生まれる名もなき感情こそ、二人を支えていく詩になる。


彼らの物語は、まだ始まったばかりだ。


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