第19話 土竜の沈黙【第二幕完】
ポストに投げ込まれる脅迫めいたハガキ。
昼夜を問わず響くチャイムの音。
そして、荒らされた家の中。
順太郎――いや、ネットで「土竜」と呼ばれた男の居場所は、もはやどこにも残されていなかった。
ある晩、父は黙って順太郎の部屋の扉を叩いた。
「……もうやめろ。全部、やめてくれ」
その声には怒りよりも、深い疲労と絶望の色が混じっていた。
順太郎はリビングの共用パソコンを開いた。
YouTubeのチャンネル管理ページ、ツイッターのアカウント設定、匿名掲示板に残したスレッドの履歴。
一つずつ、震える指で「削除」を押していく。
確認のダイアログに「はい」と答えるたび、画面の光が遠ざかるように感じられた。
最後のアカウントを消し終えたとき、部屋には不気味な静寂が訪れた。
モニターには、もう「土竜」の姿を映すものは残っていない。
順太郎は背もたれに体を沈め、低く呟いた。
「……これで、終わりだ」
外の世界では、まだ誰かが土竜を笑い、祭りを続けているのかもしれない。だが、その渦中に彼自身の声は、もう存在しなかった。
ネットの海から消えた男。
その名は、土竜。
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