第36話 守る強さ ~side ドラコ~

まえがき

 引き続き生徒視点です。

 今回は再び戻ってドラコ視点。VS 聖騎士ガイガンの結末を、ぜひご覧ください。

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 視界は赤黒い幕が落ちたよう。

 音は水の底に沈んだよう。

 全身が痛みに震え、筋肉は断裂し痺れている。

 どんどんと世界が遠ざかっていく。


「おい、てめぇ……」


 聖騎士パラディンガイガンが低く唸る。

 それでもドラコは、ガイガンの足首を握るその手を決して離さなかった。

 血に濡れた龍人の指は石の鉤のように固まり、鋼鉄の肉体に食い込んでいる。


「いい加減に……放しやがれ!」


 苛立ちを露わに足を振り払おうとするが、ドラコの手は万力のように食い込み、びくともしない。


「くっ……なんだこの握力は……!」


 白銀の鎧が軋むほど下半身を振り回しても、少年の手は足首を放さない。

 瀕死の肉体はとうに限界を迎えている。

 けれど限界を越えてなお『仲間を守る』というただ一つの意思だけで、聖騎士の巨体をこの場所に縛りつけていた。


「もう意識はえはずだろうが!」


 ガイガンの叫んだ言葉通り、ドラコの意識はとうに途切れ途切れだった。

 声も出ない。

 聞こえるのは、ただ心臓の鼓動だけ。

 ……いや、それともう一つ。

 心の奥底で叫び続ける「放すな」という指示。


「……チッ! いいさ。なら身体ごと木っ端みじんにしてやる!」


 ガイガンが大斧を構え直す。

 刃先に宿る殺気は、見る者全てを震え上がらせる。

 ドラコの手首めがけて斧が振り下ろされる――その時だった。


「ふははははッ!」


 轟音と共に、漆黒の巨体が割って入った。

 鋼のような腕が大斧を受け止め、火花が飛び散る。


「なぁっ!?」

 

 ガイガンの細い目が見開かれる。

 現れたのは、他の生徒たち――フェンでも、ノアでも、リリムでもない。

 巨躯の魔族は黒光りする筋肉を震わせ、大斧を押し返す。

 

「貴様、何奴よ! これまで相対した誰より感じるパワー!! ただ者では無いな!?」

「何奴だァ!? そりゃこっちのセリフだよ! テメェも次期魔王ってやつか!?」


 突如現れた謎の魔族に、ガイガンが問い返す。

 魔族は「ふはは!」と豪快に笑うと、ガイガンの問いにはっきり回答した。


「我は魔王軍幹部、獣鬼将バル・ゾラ! 強き戦士よ! いざ尋常に勝負!」

「バル・ゾラ……!? そういや昔アレンの野郎が、そんな奴がいるとか言ってたような……。何にせよ、面倒くさい相手が増えたぜ……!」


 ガイガンは大きく舌打ちをした。


「バ、バル・ゾラ……なぜ、キサマが……」


 居るはずの無い男の登場に、ドラコの意識もハッキリしだす。

 

「実はな、この神殿が立つ丘のすぐ下が我の故郷なのよ! 強者の気配を察知し駆け付けた! ふはは、血沸き肉躍るぞ!」

「んな……そんな奇跡が……」


 何という幸運。

 かつて刃を交えた相手だが、今はこれほど心強い助っ人は他にいない。


「笑ってられるのも今のうちだぜ。すぐにピーピー泣かせてやらあ」

「望むところだ、聖騎士とやら! 我とて強者を斬り伏せるのは久しぶりでな!」


 大斧と戦斧がぶつかり合う。

 金属の衝突音が通路を震わせ、衝撃波が石壁を削った。

 ドラコは霞む視界の中で、必死に二人の戦いを見つめる。

 自分はもう動けない。

 だが――


「ぐっ……こいつ……!」


 ガイガンが呻き、体勢を崩した。

 足元を見れば、ドラコの腕がなおも彼の足に食い込んでいる。

 意識は薄れても、その体は仲間を守るためだけに動いていた。


「ふははは! 龍族の王子よ! その信念、まこと見事である!」

 

 バル・ゾラが豪快に笑う。


「それではサラバだ、聖騎士よ! 潔く死ぬがよい!」

「くそっ……がぁああああ――」


 一閃。

 バル・ゾラの戦斧が振り下ろされ、ガイガンの大斧を弾き飛ばす。

 そして振り下ろした腕に力を込め、鎧ごと伝説の戦士を切り上げる。

 次の瞬間、聖騎士の巨体から鮮血が噴き出した。

 

「はぁ……はぁ……やったか、バル・ゾラ……」


 ドラコは息も絶え絶えに問うた。


「うむ! 正々堂々戦えなかったのが残念だが……それは次の機会に取っておくこととしよう! 見事であったぞ、龍族ドラゴンの王子よ。この勝負、貴様の勝ちということだ!」


 勝ち。

 勝ち。

 勝ち。

 バル・ゾラのセリフを反芻する。

 胸を張って言える勝利では無いかもしれない。

 けれど、今回のドラコの目的は『敵を仲間のもとへ行かさぬ』こと。

 という視点で見れば、これ以上ない『勝利』であった。


「勝った……の、か」


 それは、ドラコが魔王学園に入って初めてまともにあげた勝利。

 腹の奥から熱がこみ上げる。

 その時、アレンに言われたことがほんの少しだけ、理解できた気がした。


「……誰かを守ろうとすると、人は強くなれる……か」

「――おーい、ドラコ!」


 微笑みを浮かべるドラコに、荒い足音が近づいてくる。

 視界に映ったのは、汗だくで息を切らすフェンだった。

 肩にはリリムを背負い、腕にはノアを抱えている。


「ハァ、ハァ、間に合ったか……!」


 意識があるのはフェンだけ。

 リリムもノアも気絶していた。

 それでもフェンは歯を食いしばり、ドラコを見て笑顔になる。

 その表情を見て安堵したドラコは、意識を闇へ沈めた。


「え、ちょ、おい待て! お前まで――」

「ふはは! よい、よい! 我が全員背負おう! 行くぞ、さらに強い気配が奥で渦巻いておるわ!」


 遠くで焦ったフェンの声と、バル・ゾラのやかましい笑い声が聞こえていた。



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あとがき

 これにて生徒側の戦いは終了です。

 お待たせしました、次回からアレン視点に戻ります!

 ご期待ください!

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