幕間 月光に照らされる真実 ~side セラ~

まえがき

 今回は、次章に移る合間のお話です。

 セラ視点で、彼女の事情ヒミツについて触れる内容になっています。

 ぜひ、ご覧ください。

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 夜。

 静寂が満ちた自室にて。

 黒髪の女――セラ・ヴェイルは、ひとりソファに腰掛けて、窓から見える星を仰いでいた。


「――……アレン・グレイ」


 ポツリと、業務上のパートナーの名を呟く。

 人間でありながら、あの強さ。

 けれど戦い方は剣士でも武闘家でも魔法使いでもなく、何でもあり。

 観察し、工夫し、勝利に必要なものを的確に組み立てる。

 以前は勇者パーティの『雑用係』を務めていたようだが……。

 本人すら無意識に積み重ねたで、魔王軍の幹部すら退けてみせた。


(理解できませんね……)


 無自覚で遠慮がちで物腰柔らかで、けれど強者を制する新任教師。

 彼の影響で生徒たちが、確実に変わり始めている。

 暴力でしか自分を示せなかった龍族ドラゴンの王子が、「守る」ことを口にした。

 空虚な愛に縋っていた淫魔族サキュバスの姫が、「愛する」ことを学び始めた。


「……あの問題児たちが、彼と触れ合って、少しずつ変化していく」


(そして、あの言葉も)


 心の中で独り言に付け足して、思わず自嘲が漏れた。

 リリムに放った言葉。


 『他人の評価ではなく、自分を認めればいい』。


 あれは、己に向けた言葉だったのかもしれない。

 かつて上位の命に背いた罰として、髪と翼を黒く染められた日。

 以来、自分を認めるなど、もう許されないと思っていた。

 けれど……。


「……」


 瞼を閉じ、想いに耽ろうとした、その時。

 頭の奥に声が響く。


《――久しいな、セラ・ヴェイルよ》


 無機質で冷たい声。

 胸の奥が、冷たい鎖で縛られるように固まる。

 セラは喉をごくりと鳴らしてから、慌てて片膝をつき、こうべを垂れた。


(……は、お久しゅうございます)


 心の中で言う。

 口に出さなくても、これで通じる。


《魔王陣営に動きは無いか》


(…………)


 返答を一瞬ためらう。

 動き、というほどの動きではない。

 勇者パーティの一人が魔王陣営についた、と言うと一大事だが、彼は雑用係。

 本人も言っていた通り、替えの聞く存在。

 ……肩書きだけ見れば。

 頭の中で、『報告しなくていい理由』を必死に考えている自分に気づいた時、セラは愕然とした。


《セラ・ヴェイル、返答が無いようだが》


(は、申し訳ございません。疲れが溜まっておりまして……。魔王陣営の動きですが、大きな変化はありません。も、準備を進めております)


《……ふむ。滞りなく頼む――裏切りは許されない》


(っ……!)


 声はそこで途切れた。

 セラはしばし黙し、ふうと大きく息を吐く。

 知らずのうちに力を込めていた拳を緩め、月を仰ぎ直した。

 銀灰の瞳に、わずかな揺らぎが宿る。


「……本当に、私は……」


 吐き出した声は、夜風にかき消されていった。

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