『女神達の交流会』巻き込まれハーレムルート(仮題)
アリズムン
第1話
──
都内有数の私立校であり、校則が緩く、生徒の自主性を重んじる校風で知られている。
そしてもう一つ、何よりもこの学校には開校当初から今日に至るまで、ある伝説が存在していた。
……信じられないほど容姿に恵まれた女子生徒が毎年のように必ず入学してくる、通称、『絶対美少女入学伝説』というものだった。
クラスで一番、などという次元じゃあない。
日本、あるいは世界レベルで通用すると言われるほどの美貌を持った生徒が、なぜか必ず入学するのだ。
特に今年は『絶対美少女入学伝説』が、在校生、新入生などを含めた十人以上の美女・美少女が在籍する“異常な年”として、SNSを中心に連日話題となっていた。
いつ誰が言ったのかは定かではないが、のちに『女神達の交流会』と呼ばれるようになった。
そして、そんな騒ぎとは何の関係もなく。
──とうとう春休みが終わり、今日から高校生としての新生活が始まる入学式当日の朝、
時刻は7時52分。
夢ノヶ丘高校の入学式は9時から始まり、朝影の住む家からは徒歩10分もかからない。
今から準備すれば余裕で間に合う時間帯に、何度目かのアラームでやっと目を覚ました。
寝ぼけた頭で、ゆっくりごろごろベットで寝転がる。
春休みの殆どを昼夜逆転で過ごしていた朝影は、昨日一昨日の2日でなかば強制的に、どうにか生活サイクルを正常に戻すことができた。
それはひとえに幼馴染のモーニングコールのおかげである。
「あぁー……とてつもなく眠たい……」
スマホから鳴るアラームをめんどくさそうに止めて、寝起き特有の掠れた声で呟く。
寝転がったまま、すぐ横にあるカーテンを少し
眩しすぎるが、これで少しは目が覚めたようだ。
あまりだらだらしていると、せっかく目が覚めたのに、入学式そうそう遅刻する可能性が出てくる。
何よりも40分後には幼馴染が迎えにくるはずだ。
朝影と幼馴染の家は徒歩5分ほど離れており、わざわざ迎えに来なくてもいいと事前に伝えていたのだが、悲しきかな、幼馴染の
幼馴染含めて、彼の交友関係は年齢に比例しないほどには多い。
しかしながら朝影はあまり自分から積極的に深く関わろうとはしていなかった。
コミュニュケーションが苦手だとか、集団行動が合わないだとか、そういう理由ではない。
ただ、朝影には小学1年生の頃からとある特異体質のようなものが備わってしまった。
仮に病院に行ったとしても、100パーセント原因不明だと診断されるだろう。
朝影はある種、呪じみたこの体質を『巻き込まれ病』と名付けた。
安直で言葉そのままの意味だが、この方が分かりやすい。
些細なことから、時には命に関わるようなことまで、突然巻き込まれるように事件と呼べるようなな出来事を潜り抜けてきた。
自分から首を突っ込んだ記憶は、多少あることもあるが、全部が全部そういうわけではなかった。
そんな巻き込まれ病の影響で、交友関係が広いと言えば広いのだ。
良い縁もあれば悪い縁もあった。
幼馴染は朝影にとって数少ない『巻き込まれ病』の理解者であり、それを知ってなお、嫌な顔一つせずに、モーニングコールや今日のように迎えに来てくれる、彼にとっては頭の上がらない友達だった。
うめき声を腹の底から出しながら、ベットからのそのそ這い出てきた朝影は、通学の準備を始める。
自室にある姿見で新品で汚れやシワ一つない夢ノヶ丘高校の学生服に身を包む。
身長は165センチ、黒髪を床屋で無難に切り揃えた髪。
顔は童顔で、朝影にとっては見慣れた、見飽きたいつもの自分だった。
自分自身で容姿を評価するならば、可もなく不可もなく、つまり普通だと思っている。
幼馴染からは、「よーくん。晴れて高校生になったんだから、少しはオシャレにもこだわってみたら?」なんてモーニングコール時に言われたが、「やー、めんどくさい」の一言でその話は終わった。
別に高校デビューはしたくないし、オシャレをして素敵な青春を謳歌するなどという願望は微塵も抱いてはいない。
仮に自分から積極的に友達作り、ひいては恋人ができたとして、『巻き込まれ病』に巻き込んでしまう可能性を考えると、どうしてもその気にはなれなかった。
無意識に鏡に映る自分にため息を吐いたあと、朝影は一階の洗面所に移動した。
洗面台の前に立ち、朝影はゆっくりと蛇口を捻った。
金属同士が擦れる軽い音のあと、勢いよく水が流れ出す。
その規則的な水音を聞きながら、彼は何をするでもなく、改めて鏡に映る自分の顔をぼんやりと眺めていた。
寝起き特有の少し腫れぼったい目。
特別整えてもいない黒髪。
相変わらず、見慣れた――どこにでもいる、ごく普通の初々しい高校1年生の顔だ。
……その、はずだった。
ほんの一瞬。
鏡の奥。
自分の背後でも、横でもなく、確かに“鏡の中”で、見知らぬ誰かと目が合った気がした。
はっきりとした顔は思い出せない。
男か女か、人間ですらも怪しい。
ただ、こちらをじっと見つめる「視線」だけが、妙に鮮明に脳裏に焼き付いた。
心臓が、嫌な音を立てて跳ね上がる。
思わず息を詰め、反射的に瞬きをした。
次の瞬間。
鏡に映っていたのは、やはりいつも通りの自分だけだった。
背後にも、洗面所の入り口にも、誰の気配もない。
当然だ。
両親は共に海外出張で、姉と妹は既に学校に行っている。
つまり今この時間には朝影以外に人がいない。
「……気のせい、か?」
自分に言い聞かせるように、上擦った声でそう呟く。
理屈では分かっている。
寝起きで頭が完全に起きていないだけだろう。
なんて、それでも。
胸の奥に沈殿する、言葉にできない違和感だけは、どうしても拭えなかった。
誤魔化すように、歯を磨き、顔洗い、蛇口を閉め、タオルで顔を拭く。
その何気ない動作一つ一つが、夢現なようで、やけに現実感がなかった。
洗面所を出た朝影は、廊下を歩きながら、無意識のうちに胸元を押さえていた。
理由のない胸騒ぎ。
根拠のない不安。
だが、その感覚には散々覚えがあった。
小学一年生の頃から、何度も何度も。
形を変え、場面を変え、それでも必ず訪れてきた、あの嫌な予兆。
朝影は、自分でも驚くほど自然に、ため息を吐いていた。
「……また、か」
小さな呟きが、誰もいない廊下に溶けて消える。
それでも彼は、はっきりと理解していた。
この感覚は、決して外れない。
――今日から始まる高校生活は、きっと平穏では終わらない。
新しい制服。
新しい学校。
新しい日常。
そのすべてが、これから何かに“巻き込まれていく予兆”なのだと。
朝影は、そう確信した。
そしてこの感覚は悪い意味で、これまで一度も、彼を裏切ったことがなかった。
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