ハートブレイク・トーク・ウィズ・アルコール

織葉 黎旺

「結局男と飲むのがいっちゃん楽しいわ」って言い出すヤツ、半信半疑の視線で睨みがち



「──それはウケるな」


「だろ? それでその時アイツがさあ──」


 小さなテーブル程度しか置かれていない簡素なワンルームで、オレたちは騒がしく飲んでいた。明日が休講になった記念の飲み会であり、対面の友人は、彼自身の髪と同じくらい赤く染まった頬から、いいペースで飲んでいることが分かる。

 要領を得ない会話も、それで生じる笑いも、すべては酒気を帯びているが故の事。素面シラフで見れば、顔を顰めるのは請け合いだった。



「あ、やべ。ツマミ切れた」


 友人が空になった菓子袋を裏返しながら言った。


「マジ? それは渋いな」


「丁度いいし、酔い覚ましにコンビニでも行くべ」


「んー」


 友人の提案に、オレは眉を顰めた。

 まだギリギリ11月とはいえ、今夜は冷える。徒歩五分はかかる最寄りのコンビニまで、歩きたくはなかったのである。


「いや、いかなくてもいけるね。ツマミなしでも酒は美味い」


「それは間違いねえけどさ、流石にコイツはキツくないか?」


 机の上に置かれた、奮発して買ったバーボンを見遣る。

 普段は業務用の安酒しか買わない癖に、人と飲むからと奮発した結果である。何分高いせいで、勿体なくてハイボールにはできない。


「むしろコイツだからこそ映えるね。昔から、酒のツマミになるものといったら、恋バナしかないでしょ」


「女子会の流れだろ、それは!」


 彼は苦笑しつつも、まぁたしかにそういう話も悪くないか、と恋バナを始める。


「この前気になってた子がいて、イルミネーション見に行く約束したのよ」


「あー、最近話題になってた、人気キャラとコラボしてるやつ?」


「そう。その中の」


「ウサギみたいなキャラの下でツーショ撮った?」


「そうそう。よくわかったな」


「元カノが好きだったんだよね」


「いい趣味してんじゃん。で、ボーッとイルミ見てたら、いつの間にか指が触れ合ってて」


「おお」


「『手ぇ冷たいね、ウケる』って笑われた」


「おおー! 脈しかないじゃん」


「と思うじゃん? いっちゃんデケエイルミネーションの下で告ったら、『アタシ普通に彼氏いる』って振られた」


「それはえぐいて、セカパ狙いだったってこと?」


「普通に遊びのつもりだったらしい。男女がイルミ見に行ったらそれはもうガチデートやんな。思い出したらムカついて来たわ」


 ぐいぐい、と友はグラスを煽った。流石に不安を覚えるペースなので、冷凍庫からロックを足してやる。


「お前は何かないの?」


「いやあ、特にはないなあ。別れたてだし」


「うわ、傷心中じゃん。飲んで忘れろって。飲め飲め飲め飲め飲め」


 慰めるポーズをしながら、友はオレにショットグラスを渡し、カスみたいな煽りをした。飲ませたいだけやんな。

 彼女のインスタにオレ以外の男とイルミに行ってる匂わせ写真が上がってて、秒でフったって話も飲み干しておいた。


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ハートブレイク・トーク・ウィズ・アルコール 織葉 黎旺 @kojisireo

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