第5話 今度は僧侶殿

魔法使いミレーヌが涙目で退いた後、見物人の空気は変わっていた。


「おい、やっぱり本物だって……」

「いやいや、八十八歳って言ってたぞ!? そんなことあるか?」

「指で氷弾いたの見ただろ!……まあ俺には見えなかったけど」


ささやきが広がる……勇者は困り顔で次を呼んだ。


「僧侶ギル、君も頼む」


「……はあ。しょうがないですね」


ギルは額の汗を拭いながら、サコンの前に立った。


「おじいさん。あなたは確かに強い。でも、戦いに必要なのは腕力や技だけじゃない。場数を踏んだ精神の強さが重要なんです」


「ほっほ。つまり心の勝負ということかの?」


「そうです。では――瞑想しましょう」


場内がざわつく。


「瞑想!?今から!?」「どんな勝負だよ!」


二人は向かい合って座り、目を閉じる。

見物人も固唾をのんで見守り、静寂が訪れた。

十分後――ギルの顔から汗が噴き出す。


『(な、なんだこのプレッシャー……心の奥まで覗かれているようだ……)』


サコンは静かに呼吸を続ける。八十年以上、滝に打たれ続けた呼吸法だ。


「すう……すう……」


居眠りでもしているかのような、その姿に、ギルは総毛だつ。


「や、やめてください!負けです!心が丸裸にされる!!」


立ち上がったかと思えば、今度は膝から崩れ落ちる。なかなかに忙しい。


「ええ!?瞑想で負けた!?」「精神勝負でじいさん圧勝!?」

 

観客は騒然だ。

 

勇者は額を押さえた。


「……ご老人、あなたは一体何者なんですか?」


サコンはにっこり笑うと誇らしげに答える。


「人生のすべてを修行に費やした、ただのじじいですよ」


その言葉を聞いていた誰もが思った――”ただのじじい”では無いだろうと。

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