#8 ふざけた事

「……はあ!?」


思わず口に出てしまった。

この場で、明らかに格上の相手が目の前にいるというのに。


「……何?文句でもあるワケ?」


キルルと名乗っていた女性が俺に向かって鋭い眼差しで言う。

思わずたじろんでしまったが負けじと……いや、辞めておこう。

勝ち目のない勝負はしない主義なのだ。


「や、なんでも……」

「ふぅん……元々参加させようと思ってたけど参加決定ね」

「へ!?」

「この状況で上の相手わたしに喧嘩売るのなんて普通じゃない!!」


まさに強者。とでも言い表せそうな屈託のない笑顔でこちらを見る。


「そうだなー、じゃあキュリノートに参加させるのは……」


そう言ってミシェルさんに耳打ちをする。

数十秒立つと、またもや転移魔法にて移動される。

……いや、俺の場所は変わっていなかった。


「このメンバーで!」


先程と同じ中庭、バーナードガーデンとかいう名だったっけ。

そこに残った人間が、キュリノートと呼ばれる大会に出るのだ。


見知ったメンバーは全員居た。

裕也も、天菜も、結も秋斗も。

とまあその他にも色々メンバーは居たが……大体の奴が半魔族化していた。

していないのは……天菜と葉月はづきくらいだろうか。

本名は久保くぼ葉月、こちらの世界に来て最初に天菜と話していた人物である。

俺の幼なじみでもあるが……。

ウルフヘアのような髪型が特徴的で、男子に人気があるとかないとか。

俺の幼なじみでもあるが!!


……とまあそんな葉月が俺に話しかけてきた。


「ねーね、風結」

「んあ?なんだ?葉月」

「キュリノート?って何するのかな」

「……話聞いてなかったのかよ」

「なあ!?聞いてたし!……ちょっと確認なだけ!」


バカなのか。

そんな葉月に優しいイケメンな俺が懇切丁寧に教えてやった。

聞く限りの情報だが。

トーナメント制なこと。規定人数に至るまではバトルロイヤル形式なこと。


「……怖くなってきた」


その話を聞いて少し震える葉月。

こんな時になんて声をかけるべきなのだろう。俺には分からなかった。が、それでも16年程は共にいる仲だ。

元気づけることくらいは出来る。


「任せろ。俺がいるんだぜ?この堕とされた堕天使、時宮風結様が!!」

「……ぷっ、あっははは!堕とされた堕天使って同じこと2回言ってるじゃん!」

「な!いや、それは……まあそうかもだけど」

「はー、笑った。怖いのもなくなったよ。ありがとね?風結!」


顔を覗き込むようにして笑う葉月。

そういう所だろう。男子に人気の秘訣は。

……俺の幼なじみでもあるが!!!!


「じゃあ、ま!早速参加といこうか!」

「あ、キルル様……」


ミシェルが耳打ちをする。

何かを話している様子だ。


「んあー、……ミシェルって移動した時に物与えたりできるっけ?」

「既に存在しているものでしたら」

「じゃあパーカー。あったよね」

「はい。かしこまりました」


その会話の直後、俺たち全員が一斉に転移される。


転移先は、大きな円形闘技場コロシアム

俺たちはそんな場所の中心にある円状のアリーナの……言葉通り真上の、空中だった。


大きな歓声と野次……治安の悪いそんな雰囲気が感じれる。


「うわああ!?どうするのこれ!!!」


……!そうだった!!

俺たちの大半は半魔族化。つまりこの程度の高さでは着地は容易だろう。


しかし、天菜と葉月はどうだろうか?

生身の人間。それもただの女子高生。

そんなヤツらがこの高さから落ちて無事でいられるわけが無い。


「……ッッ!葉月!手ェ伸ばせ!!」

「……うん!!」


葉月の手を引っ張り、こちらに抱き寄せる。

その瞬間、歓声が湧き上がる。

それと同時にアリーナに居る数名が、下からこちらに向かって声をかけてくる。


「俺にも抱かせろ!!!!」

「いい女じゃねえか!!胸でけえし!!ギャハハ!!」


……。

そんな言葉を聞いた葉月が腕の中で震える。

それを見た天菜が聞いた事のない大きな声で言った。


「ふざけた事言わないで!!!馬鹿!!!!

魔法行使エプティション!!!水平線の向こう側ゴービヨンド!!!!!」


そうして天菜の手のひらから数滴の水が現れる。

それは徐々に勢いを増して天菜の下、いや、俺たちの下へと集まる。

それと同時にアリーナの横側にも水の壁が出来上がっていた。


「何だこれ!!馬鹿とか言いやがったなあのクソアマ!!!」

「つぶせ!!!」


そんな男どもの声が耳に届きながら俺たちは天菜の貯めた水へと突入した。


「え!?」

「なになに!?どういうこと!?」


くぐったかと思うと水の壁の方から俺たちは出てきていた。


「これが私の固有魔法アルカナム水平線の向こう側ゴービヨンド。水を出現させその水面同士を繋ぐ魔法」


そう説明した天菜は雰囲気で分かるほどに、怒りに満ち溢れていた。

大切な友達を嫌な目で見られたのだから無理もない。


「ギャハハ!!馬鹿だとかいいやがった女はそいつか?そいつを寄越したら許してやるよガキンチョ共!」


まさに悪。チャラ男と言われれば想像する巨漢の男がそこに居る。

否……居た。


すでにその男は気絶し、地面に伏せている。

倒れた男の上に座りこちらの方を見た女性。

俗に言う地雷系だろうか。そんな服装と髪色をしていた。


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