幾星霜を超えて

翡翠 珠

序章 異世界編

#1 転生...?

「ふあああああ……」


少年の名は時宮ときみや風結ふゆ

欠伸をしながら退屈な授業が終わるのを待っている。

中学時代は晴れやかな生活を送っていたのは見る影もなく、長い前髪に目を隠して静かに生活していた。


「ねーね、風結、3番なに?」


そんな風結にプリントの空欄を尋ねるこの少女は桜花さくらばな天菜あまな


「んあ?俺が書いてると思うか?」

「知ってた」

「たぶんエレキテル」

「……今数学だよ?」

「…………。おやすみ」


そう言って机に伏せるように睡眠体制に入った風結。

その瞬間だった。

クラスの正面。先程まで問題文や回答が書かれていた黒板が光り輝く。


「な、何!?」


教師が叫んだ後、それに続いて生徒が各々声を上げる。

「はあ!?」「なにこれ!」「どういう事!!?」

と、それぞれが。

そんな中寝ようとしていた風結は声が出せなくなっていた。


「わ、わたしほかのクラス確認してきます。皆さんは座席から立たないように」


そう言って教室を出た教師。


「え?職務放棄……?どうす…………」


そう言った途端、光り輝く黒板に吸い込まれるようにクラスの全員が消えた。

教室を覗いた教師が一言だけ呟く。


「……成功しました」


と。




一方で吸い込まれた先は――――――――――。


「す、すげえ!!!」


まるで異世界。中世の城塞都市の様な街。

そしてその中央にそびえ立つ巨大な城の中に風結達はいた。


「成功したぞ……!」「ようやくか……!!」


風結達を囲んでいた見慣れない衣服の集団が言う。

その奥から歩いてくる、一際豪華な服を着た人物がいた。


「初めまして。私はペリエル、ペリエル・カラミリア。この国の王女です」

「お、王女!?」


沢良さわら秋斗あきとが言う。

センター分けで、まさに陽キャと言える人物である。


「はい。あなた方には今の世界の根幹……【アクト】と呼ばれる樹を奪還して欲しいのです」

「あくと……?」

「そうです。この世界はラグナ地方にある世界樹……いや、魔法樹・・・である【アクト】を中心として成り立っています。そして――」


王女ペリエル曰く、魔法樹から生まれる魔族、昔は共存していたがとあることがきっかけで対立。魔法樹を巡って人間と戦争を繰り返すうちに魔法樹付近の地域を全て制圧され、このままでは魔族と人間との均衡が崩れるためどうにかして魔法樹を取り返したい、との事だった。


「……俺らで勝てる?」

「無論そのままでは勝ち目がないでしょう。しかしこちらに召喚したタイミングで私から固有魔法アルカナムを付与致しました。これから2ヶ月の間はそれを極める訓練にしてもらいたいです」

「2ヶ月!?元の世界戻れないの!?」


クラスの大半が声を揃えて言った。


「戻れない……と言うよりは戻る方法それも魔法樹にしかありません」

「えええ!?」

「魔法樹にある古代技術アーティファクトにあなた方の世界に戻る装置があります。あなた方はそれを最優先にしていただいても構いません」


少し悲しげに見えた王女の表情を見た秋斗が1度クラスの皆の方を見てから言う。


「まあどちらにせよ魔法樹ごと奪還すればいいんだろ?じゃあ頑張るしかないな」

「!!ありがとうございます……!」


まるで主人公だな……なんて思っていた風結の横で、天菜の話し声が聞こえた。


「つまりどういう事……?」

「もー葉月はづきー、簡単に言うと異世界転生ってやつ。多分ね。それで私たちはさっきあの人が言ってた固有魔法アルカナム……?とか言う名前の奴を貰ったからそれを使って魔法樹って言うなんか凄いやつを回収するって仕事!

それが終わったら帰れると思うよ」

「なるほど!あるかなむってなんなの?」

「それは詳しく話してないけど……」


顎に手を当てて考える天菜。容姿端麗、文武両道と文句のない天菜だったが流石にここまで突飛なことが起きると困惑しているのだろう。

そんな天菜を見た風結が彼女の方を見ていると、とある人物が天菜に声をかける。


「あっ多分魔法のことだと……!ファンタジー世界に異世界転生した時のあるあるだよねー?」

「えっ……あ、そうなんだ……菅野かんのくん……」


菅野たく、いわゆるオタク。それも自らの自慢話が多いタイプの。


「他にも先程の古代技術アーティファクトとやらも気になりますね!」

「あ、はは……そうだね。あ、王女様が何か言ってるよ」


そう言って天菜が王女ペリエルの方を見る。

それに従うように菅野や周りの女子も同じ方向を見た。


「それでは一先ず、皆様をそれぞれの部屋にご案内します。明日、また固有魔法アルカナムの話を魔導師アルカナホルダーから話しますね。

ミシェル!」


そう言って手を2度叩く。

すると先程まではいなかった王女の横に、気づくと人が立っていた。

絵に書いたようなメイド。ひと目で全員が分かるほどに。


「こちらに。私の名前はミシェル、この城の使用人でございます。本日は部屋への案内をさせていただきますね」


そうして歩くミシェルの後に続いて風結達、クラスのメンバーが歩き始めた。




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