黒鎧の将
さらに三日が経過した。
ここまで善戦していた
それもその
加えて、
しかし、塢に戻った許褚は、きまって胸を押さえてうずくまると、苦しそうにしている。
その異変を察した
「……ちくしょう‼」
西の
「落ち着け、張鴦。まだだ。まだ
顔の半分ほどが火傷で
「くっ! ここまでか……」
南の門楼では、
「帰れよ! お前らさっさと帰れ!」
感情を露わにした薛麗に、隣で石を放った父の
「薛麗よ。最後までだ。最後まで我らの意思を見せつけるのだ」
東の門楼で、
「黄巾の残党なんかに平伏さねえぞ!」
「元緒さま、この塢は……どうなっちゃうの?」
元緒は、許林杏を
「……大丈夫。大丈夫じゃ」
無理に笑みを作った元緒は、許林杏の頭を優しく撫でた。ふと、前方に見えたのは許褚だった。大きな背が岩のように見えた。
許褚がうずくまっていたのは、塢のちょうど真ん中辺りだった。近くに
許褚は、霞んだ目で地を見遣った。小さな黒いものが動いている。
「
声にならないような声だった。苦悶の表情を浮かべた許褚から、一筋の涙が溢れた。それは頬を伝うと一匹の蟻の上に落ちた。
すると――。
全身黒尽くめだった。許褚の前に現れたのは、
「我らにお任せあれ、許褚どの」
黒い
「――――⁉」
突如として目の前に現れた黒い兵団に、許褚は言葉を失った。
「な、何と――⁉」
許褚と同じように目を
湧いて出たような黒い兵団を前に、元緒は思い当たる節があった。
「あのとき、許褚が救ったのは蟻……。それも、義に厚いと呼び声高い
「げ、元緒さま。あの方たちは……?」
許林杏が
「優しい兄でよかったのう」
そう言うと、元緒は許林杏に破顔を見せた。
「我らの敵は、壁の外にあり! 各々黄巾の賊徒を駆逐せい!」
蟻将は
「何だ?」
「な、中に官軍がいたってのか――⁉ 聞いてねえぞ……。こりゃあ、相手を間違えた。朝廷に目をつけられたら、溜まったもんじゃねえ」
塢から溢れ出るような黒鎧の兵を前に、劉辟はすぐさま退却の号令を下した。
それを待たずして、勇敢な黒い兵士たちの出現に、官軍と取り違えた
「こ、こんなことが、本当にあるのか……?」
黄色い波が退いていく。それを黒い
塢内で勝ち鬨が上がった。次第に大きくなると、塢を揺るがすほどの大音声となった。
許塢で負傷していない者はいなかった。命を落とした者もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます