聴いてたエロ音声が大音量で教室中に流れて人生崩壊しかけた陰キャラ美少女、俺が庇ったら次の日から重過ぎるくらいの愛を向けてきた
せせら木
第1話 この日を境に、俺は変態扱いされるようになりましたとさ。
隣の席に座る彼女の素顔をちゃんと見た時、俺は自分の中に電流が走るような、そんな感覚を抱いた。
この春から高校に入学し、新しい環境で色々なことに期待を膨らませ、今まで恋人ができたことのない俺にも彼女の一人くらい作れやしないか、と考えていた矢先、同じクラス、隣同士の席になったのが桃木さんだ。
正直なところ、彼女の第一印象は特に良いものではなかった。
伸ばしてある黒髪は綺麗なものの、それが目元を隠していてよく表情がわからず、スカートの丈も他の女子に比べて長く、オシャレ方面の意識があまり無いように見える。
加えて、授業でペアワークをするタイミングになると必然的に会話をしなければならないのだが、ボソボソと声が小さく聞き取りづらい。
おまけにどことなく挙動不審で、時折する愛想笑いの音量だけは少し大きいというありさまだ。一言に不気味な陰キャラ女子。クラス内でも小バカにされる対象というか、あまり関わりたくないと言う人もいるレベルで、入学間もないのに、周りの人たちからの評価は既に地の底といった様子だった。
まあ、残念ながらわからなくもない。
人間関係の完成し切っていない段階だと、明らかに異質な存在はわかりやすく排斥したくなる。
排斥して、共通認識みたいなターゲットを作れば、それをネタに誰かと話し、そいつら同士で仲良くなったりするもんだ。
ため息をつきたくなる現象ではある。
そんな、誰かを的にして自分の幸福を確保するとか、心の底から情けない。
情けないから、俺は逆張りの一手として、特段桃木さんに酷く当たったりはしなかったし、そういうことをしないでいたある日、休憩時間のひょんなタイミングで、彼女の素顔を目にしたわけだ。
窓際の席だから、開いていた窓から風が入り、たまたま読書中だった桃木さんの前髪が舞った。
初めてだと思う。一目惚れなんてものをしたのは。
その日を境に、俺は桃木さんに夢中になった。
恥ずかしいけど、彼女の可愛さを知っているのは俺だけだ、と。本気で思ってもいる。
もしかしたら他に桃木さんの素顔を知っている男子が彼女のことを狙っているんじゃないか、と警戒して状況を探ってみたりもしたが、どうやらまだそんなことはなかった。ちゃんと確認済みである。
でも、高校生活を続けていれば、いずれきっと桃木さんの美貌に誰かしら気付き、その段階で狙う奴が出てくる。
そうなる前に、どうにかして彼女とお近付きになりたい。
どうすればいいだろう。
そんなことを考え続けるだけで、具体的に話し掛けたりなんてこともできず、時間だけが過ぎ、梅雨の時期。六月になってしまっていた。
今は三限目の授業中。
昼休み前でお腹が鳴りそうになる時間帯だが、俺は空腹なんてものには目もくれず、ボーっと授業を聞きながら、隣の席の桃木さんと仲良くなる方法をダラダラと考えていた。
桃木さんは今、こっそりとアナログチックなコード式イヤホンを耳に付け、スマホから何か音声を聴いている。
いつもは真面目に先生の話を聴いてるのに珍しい。
いったい何を聴いているんだろう。
音楽かな? 音楽だろう。
流行りのJPОP? それともアニソン? なんとなくアニソンな気がする。前、ラノベ読んでたし。
アニソンならどんなの聴くんだろう。結構有名なやつ? それともマイナー? 俺も結構アニソン聴くから話のネタにできそうなんだけど……。
いやいや、でもちょっと待て。そもそもアニソンとか言ってるけど、それも何もかも推測だし、音楽を聴いているのかも怪しい。
動画を耳だけで楽しんでる可能性だって全然ある。
決めつけるのは良くない。
これでいきなり「音楽何好き?」とか話し掛けるのも桃木さんを警戒させてしまうかも。
突然話し掛けてアニソン談義持ち掛けて来るキモい奴、とか思われて。
そんなことになったら悲惨だ。俺はきっと立ち直れない。
くぅぅぅ……しかし……桃木さんと話したいなぁ……。
彼女と仲良くなって、あんな所やこんな所へ行って、思い出を作って、果ては恋人同士になって……。
……ダメだ。思考が明後日の方へ飛び始めている。
自分のお決まりのパターンに呆れ、俺は小さくため息をついた。
こんなのじゃあ高校生になっても恋人作りなんて夢のまた夢だ。
必要なのはどう考えても一歩踏み出す勇気なのに、それが無い俺は前へ進めない。
ほんと、何か一気に変わるきっかけでもあればいいのに。
そんなことを考えながら、俺もこっそり出したスマホで画面をタッチした……矢先だった。
「――はい、じゃあここ。今日は……桃木に読んでもらおうかな。桃木ー?」
唐突な現代国語担当教師――近本先生による指名。
あまりにもいきなりだったから、俺を含めた周りの人たちもハッとして教科書を見つめ直す。
が、俺はそれと同時に、桃木さんがイヤホンで何か聴いていたのを思い出す。
「っ……」
彼女の方を見やると、案の定近本先生のご指名に気付いていないご様子。
有線イヤホンを思い切り耳に付けたまま、何かニヤニヤしているようだった。明らかにマズい状態。
「おーい、桃木ー? ここ、読んでくれー? 体調でも悪いかー?」
近本先生はさっきよりも少し大きく声を張った。
イヤホンを付けていても、さすがにそれには気付いたらしい。
わかりやすく大焦りで教科書をペラペラめくり、どこを読むのか確認し始める彼女。
だが、悲劇はここで起こった。
外そうにも外せなかったイヤホン。
これが差し込み口のプラグからごっそりと抜け――
「あぁ゛ぁ゛ぁ゛ん♡ んぐぅ゛ぅ゛っ♡ っほぉ゛ぉ゛ぉ゛♡ いぃぃ゛っぐぅ゛♡ いぐいぐいぐいぐいぐぅ゛ぅ゛♡ イっぢゃいまひゅぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!♡♡♡」
場が一気に冷え固まる。
教室中に響き渡る、女の人の大層気持ちよさそうな喘ぎ声。
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
が、それは周りのクラスメイト達も同じだ。
皆ポカンとし、桃木さんだけが世界の終わりのようにわなわな震えていた。
音源は間違いなく彼女のスマホ。イヤホンを差して聴いていたそれからだ。
「……えw」
「は……?w え、やば……w」
「ちょ……w なにこれ……w」
唖然としていたクラスメイト達も徐々に我に返り、流れ続ける喘ぎ声に顔を見合わせてニヤつく。
それは主に男子で、女子は気まずそうに赤くなり、目線を机の上へ向け続けていた。
これは……ヤバい。
どうにかしないと、桃木さんの立場が……。
「……えっと、桃木? お前、まさか――」
近本先生が気まずそうに切り出した刹那だ。
俺は、自分でも驚くほど反射的にスマホを持っていた手を天井へ突き上げる。
「先生! 俺です!」
桃木さんに降りかかり掛けた疑惑の目。
それを根こそぎ持っていくかのように、俺は声を上げた。
周囲の視線が一気に俺へ集まる。
近本先生も冷や汗を浮かべていたように見える。ぎこちなく苦笑いだ。
「俺ですって……敷浪? お、お前がこれを……?」
「はい、俺です! 俺が授業中にエッチな音声聴いていました! 桃木さんを当てられていたのに、場を変な雰囲気にしてすみません!」
一瞬にして教室内が騒然とする。
やべぇだの何だのと声が上がりまくり、その瞬間、俺のクラス内評は一気に地の底まで落ちたのを確認した。
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