閨、魂振り

俺はセックスしてる時、いつも考え事をしてる。


単刀直入に言えば暇だから。ぶっちゃけ、イクその瞬間ぐらいしかここに心は戻ってこない。ぼんやりいろんなことを考えてる。


今?今は退屈だなあと思ってる。慧介のセックスってほんと退屈だ。丁寧な愛撫、丁寧な挿入、丁寧なピストン。ホントまるで、大事な女とするみたい。酒が入ってた昨日でさえ。


やめな、やめなよこんなの。行きずりのメスにはそれ相応のセックスをしてやんな。きみ、もっとずるく生きた方がいい。きみ、あのねえ、ちょっとおかしいよ。遊びたいんでしょ?火遊びしたいんでしょ?いつか痛い目見ちゃうよ。俺みたいなやつよりもっと酷い人間が世の中男も女もうようよしてんの、わかんない?わかんないか。きっと知らんのだ、こいつは。


あーもう、いや。嫌になる。本当に嫌。俺の顔色を見ないで。俺を気遣わないでよ。変な気分になってくんだよ。今すぐ酒を煽りたい。なにもかもめちゃくちゃにしたい。破壊衝動が俺の頭の中ぐるぐるして、ねえ痛くしてよ、って思う。でもねぇ、痛くしろ苦しくしろなんてこの子にゃ酷でしょ?だから言わない。女みたいに身体くねらして、かわいい声上げてあげる。腹ん中不規則に締め付けてあげる。ね?感じてるみたい。そうだよ、俺はオマエの手つきで感じてるの。それが性的快楽だとは言ってあげない。ほんとうは嫌悪、ひたすらに嫌悪感。そして怒り。こんなやつがきっと世の中、幸せになっていくんでしょう。俺なんかのこと昔の過ちとして忘れて墓まで持ってって、そんで幸せになんでしょ?みんなそうなんでしょう。はいはい分かってる。じゃあなんで俺なんかにこんなに優しくするの。どうせ、どうせ、無かったことにするくせにさぁ。俺って通過点なんだ。いつも、誰かの、お遊びなんだ。だから俺は夢を見せてあげる。お遊び用としては最上級の人間になってみせる。そこにプライドさえある。


かわいいね。ああ、かわいいね。もう嫌になっちゃう。慧介くんきみは、どこまで知ったら満足?おれとどこまでできたら満足?おまえの知りたい「ほんとうの慎作さん」ってなあに?教えてくれたら、演ってあげる。ぜんぶホン書いて退場まで完璧にしてあげる。演出俺、脚本俺、主演俺。だからさ、だからさ、だからさぁ、まるでそんな、そんな目で見ないで。必死に見つめないで。


いつだって俺は壊れてる。最初から壊れてるの!なにもかもママの傍でママを慰めてた時から、全部壊れてるの。ほんとうの慎作なんていないよ。最初からいないよ。ほんとうはどうしたかったか、なんて聞かないで。そんな手付きで触らないで!頬を撫でて、そんな口付けをしないで。グラグラ揺れて俺の像がぶれていくの。もうブレッブレだ。揺さぶられる。全部分からなくなる。身体が震える。びくんびくんって熱くなって、融解していく。ねえ殺してくれ、今殺してくれよ!もうわかんないよ。俺ってどうやって声を上げて、どこが気持ちよくて、どんなふうに、触って欲しかったんだっけ。今までさあ、痛いのとか苦しいのじゃないと分かんなかったよ。愛とか。そういうの。



……慧介って、触っちゃいけないとこばっかり触るよね。

そこばっちいから触んないでって一生懸命貼り紙したじゃん。警告したじゃない。なんでそこいくの、って所ばかり腕を伸ばしてくるんだ。ああでも、本当は分かってんの。



ほんとはさ、セックスってこうなんだよな。

ほんとはさ、人を好きになるって、そういうことなんだよな。

ほんとはさ、愛するってそういうことなんでしょ。

愛されるってこういうことなんでしょ。



好きになるってこういうことなんでしょ。

ごめんね。


慧介くん、きみは遅かったし、無遠慮で、不器用だ。

もう遅いんだよ。けーすけ、きみは、間に合わなかった。


俺はね、もう手遅れなんだ。




口の中が不快な酸味で満たされていく。間に合わない。もう止められない。お利口なサクちゃんで居られない。ねぇお前さ、ハイターって買ってあるか?


俺は吐いた。

この家に一枚しかない布団の上に。

きみの射精したその時に。

この青年に刻み込んでしまった。俺という残骸を。

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